レコードのCD化
CDプレーヤーが登場したのが1982年(昭和57)。発売当時は10数万円もしたが、数年のうちに価格も下がり、携帯型小型プレーヤー(ヘッドフォンステレオ型)やCDラジカセタイプも普及して、80年代中頃からは音楽の再生・鑑賞は、「30cmLP・17cmSP」などの「レコード盤」から「音楽CD」に移行した。
今から約20年程前のことである。
私の手持ちのCDとレコードを見てみたら、レコードは80年代中頃まで発売されたものだけであり、CDは80年代後半からのものだけという具合に、はっきり分かれていた。
今、CDは簡単に聴くことができるが、問題はレコード(盤)である。
20数年前までは、この写真のようなステレオで音楽鑑賞をしていた。
この写真は同一メーカーの機器を揃えたものであるが、いろいろなメーカーの製品を組み合わせて使うことも多かった。その場合、「レコードプレーヤー」「プリメインアンプ」「チューナー」「カセットデッキ」「スピーカー」という5点を組み合わせるのが一般的であった。(これに「オープンリールデッキ」を加えたり、「チューナー」を省いたりすることもあったが)
このステレオで聴く音源はレコードが中心ということが多く、より良い音を聴くために、レコードプレーヤーのカートリッジをグレードアップしたり、プレーヤーそのものを買い換えたりするということもよく行われていた。
ところが、90年頃からレコードはほとんど発売されなくなり、新曲はCDで発売されるという状況になったため、ステレオのコンポにはCDプレーヤーが加わり、新しく発売されるステレオからはレコードプレーヤーが消えてしまった。
おそらく現時点では、35歳より若い人でレコード盤を持っているという人はほとんどいないだろう。(ラップでDJをやっている場合は別だが‥‥)
しかし、40歳以上の人では、まだレコードをたくさん持っているという人もかなりいるはずだ。私もLP・SP合わせて100枚以上は持っている。
ところが使っていたレコードプレーヤーも古くなり、故障したり、交換部品(特にレコード針)が入手できなくなったりということで、今はレコードを聴くことができないという人も多いのではないだろうか。
実際、昔使っていたような造りのしっかりしたレコードプレーヤーは入手しにくくなった。ほとんど製造されていないのである。(製造されていてもとても価格が高い)
このままだと、持っていたレコードが、文字通り「宝の持ちぐされ」になってしまうのだが、「それでもやっぱりレコードを聴きたい」という人のために、安価なレコードプレーヤーが売られている。
これが私の使っているレコードプレーヤーである。この画像では分かりにくいが、とても安っぽい感じの製品である(^^;)
昔のレコードプレーヤーは木製ボディでどっしりしており、ターンテーブルも重量があり、アームやカートリッジもメカニックで高級感があったのだが、この製品はプラスチックで軽量であり、アームやカートリッジも貧弱である。
定価は1万5千円だが、実売価格は7・8千円というところである。安っぽいのは当然かもしれない(^^;) いろいろなメーカーからこの手のレコードプレーヤーが発売されているが、デザインの細かい所は違うものの基本スペックはほとんど同じなので、メーカー名は異なっても中身は同じというOEM製品なのかもしれない。
見た目も、持った感じも安っぽいので、音も安っぽいかというと実はそうでもない。
私が小学生の頃(今から40年近く前)には、手軽にレコードを再生する装置として「ポータブル電蓄」という機種が普及していた。下の写真のようなものである。アンプもスピーカーも内蔵された一体型で、これだけでレコードを聴くことができる。(モノラルだが‥‥)
今でも販売されている(価格は1万円程度ということでけっこう高い)が、この手のレコード針の部分は圧電型の「セラミックカートリッジ」という方式で、音質は低域の不足したカンカンしたもので、あまり良くない。
上で紹介している安価なレコードプレーヤーは、カートリッジ周辺の見た目が安っぽい感じなので、「ポータブル電蓄」と同じようなセラミックカートリッジかと思ったのだが、調べてみたら、電磁型のVM型カートリッジが使われている。VM型は基本的には普通のレコードプレーヤーで使われているMM型カートリッジと同等の性能を持つものなので、音質的には全く問題がない。ただ、この(安価な)レコードプレーヤーの場合は、制作費のコストを安くするためにカートリッジ交換などができないような造りになっているので安っぽい感じに見えるのである。
今回紹介している安価なレコードプレーヤーを自分のステレオにつないでレコードを再生してみた。昔使っていた3万円程度のレコードプレーヤーよりは音の繊細さや低域の豊かさの点で若干劣る感じもあるが、けっこう良い音がする。レコードの音の良さをちゃんと再現したいという場合には、安い物でも6万円はするという本格的なプレーヤーを入手したほうがよいだろうが、とりあえずレコードをそれなりの音質で聴いてみたいという場合には、7千円程度のこのプレーヤーでも十分な感じがする。(同じ価格帯でMM型カートリッジを使用した機種もある)
この(安価な)レコードプレーヤーには、もうひとつ特徴がある。それはプレーヤー本体の中に「PHONO(フォノ)」イコライザーを内蔵しているということである。
上で触れた「ポータブル電蓄」などで使われている圧電型の「セラミックカートリッジ」は出力が大きいので、ステレオの「AUX」(外部入力)端子に接続しても大きな音が出る(オーディオ的には音質が悪く、あまりお勧めできない)が、ちゃんとしたレコードプレーヤーで使われている「MM型」(VM型も同じ)のカートリッジは、出力が小さいと同時に、レコードの記録形式の関係で低域を補正しなければならないので、ステレオ(プリメインアンプ)に接続する場合は、レコードプレーヤー専用の「PHONO入力端子」につながなければならない。(アンプの中の「PHONOイコライザー回路」が働き、適正な音質になる)
上の写真は私のステレオのアンプの「インプット・セレクター」部分だが、赤で囲んだように「PHONO」という入力がある。私のアンプは10数年前のものなので、まだレコードプレーヤーをつなぐのが普通だったのだが、この頃はレコードを聴くということ自体が特殊な用途になったようで、市販されているステレオのアンプ(ミニコンポなどの形態をとっているものが多い)には、「PHONO」入力がない製品が多くなってきた。
そこで、レコードプレーヤー本体の中に「PHONOイコライザー回路」を内蔵し、ステレオの「AUX」(外部入力)端子に接続してもちゃんとした音で鳴るようにしているわけである。
イコライザー回路の作動はレコードプレーヤーについているスイッチでオン・オフできるようになっていて、PHONO入力端子があるアンプにつなぐ場合はイコライザー回路をオフにし、そうでない場合はイコライザー回路をオンにして外部機器のAUX端子につなぐというようにしている。
これにより、レコードプレーヤーをステレオコンポだけでなく、(外部入力のある)ラジカセ等にも接続して鳴らせるという仕組みになっているのである。
安価レコードプレーヤー内蔵のPHONOイコライザー回路の性能はどれほどのものかと思い、イコライザー回路をオフにしてステレオのPHONO入力につないだ場合と、イコライザー回路をオンにしてステレオのAUX入力につないだ場合の音質を聴き比べてみた。
結論から言うと、ほとんど遜色のないレベルである。
注意深く聴き比べると、ちゃんとPHONO入力につないだときのほうが、中域のみずみずしさとか、高域の繊細さとかの面で軍配が上がるかもしれない。ただどちらかというとおとなしい音になる。
レコードプレーヤー内蔵のPHONOイコライザー回路を作動させ、アンプのAUX入力につないだ音は、少々繊細さには欠けるものの、パワー感のある「輪郭のはっきりした音」という感じである。小さなラジカセなどにつないで鳴らした場合には、こちらのほうが「元気よく音が出ている」という感じを受けるかもしれない。レコードの音を日常的に楽しむというような使い方の場合、安価なレコードプレーヤー内蔵のPHONOイコライザー回路を使うほうがお勧めかもしれない。
さて、こうやって懐かしい昔のレコードを聴くことができるようになったのだが、実際のところ、いちいちレコードをかけて聴くのは面倒という感じもする。
レコード盤は30cmLPでも片面の演奏時間が30分程度。BGMとして流しておいても、しょっちゅうレコードを取り替えなければならない。好きな曲を選んで聴く場合などはレコードプレーヤーの側に行って、盤面をよく見て針を落とさなければならない。「さあ、聴くぞ!」と気合いを入れて聴く場合はいいのだが、さりげなく音楽を流しておきたいという場合は手間がかかるという難点もある。
昔のレコードを鳴らすことができるようになったので、レコードの音楽を、手軽に扱えて手間がかからない別の媒体に移して聴こうと考えるのは自然ななりゆきだと思う。
それに、レコードを再生する場合は、レコードの盤面を針でひっかいて鳴らすため、繰り返し再生しているとレコードも針も少しずつ摩耗して音質が劣化してくる。昔は「レコードが磨り減るほど聴く」などという表現があったが、実際、何十回・何百回と聴いたレコード盤は傷がついたり磨り減ったりして雑音が増してしまっている。
大事なレコードほど、音が悪くならないうちに別の媒体に保存しておきたいという気になる。
10数年前までは、その媒体はカセットテープだった。
ただ、カセットテープの場合、レコードから録音した時点で音質がかなり落ちてしまう。またカセットからカセットへとダビングなどすれば極端に音質が落ちて、もやがかかったような情けない音になってしまう。また操作性も、ねらった曲を再生するためには早送りや巻き戻しをしなければならないという具合に、あまり良くなかった。(とりあえず頭出しなどはできたが)
レコードからカセットへのダビングは、自分の部屋でしか聴けないレコードの演奏をカーステレオで聴くとか、友達から借りたレコードを返す前に、演奏のイメージを忘れないように保存しておくなどの、あくまでも音質を気にしない録音方法であった。
ところが、今から約10年前の1992年(平成4)になって、家庭でも簡単にデジタル録音・再生ができるMD(ミニディスク)が登場してきた。
デジタル録音の際のサンプリング周波数はCDと同じ44.1kHz。カセットテープとは比較にならないようなクリアーな音質で録音できるし、再生の際も「○番目の曲」という具合にCDと同じように簡単にねらった曲をすばやく再生できる。1曲リピート演奏や、曲順をプログラム通りに再生したりランダムに再生したりなど、多様な機能を備えていた。1枚のCDで74分(この頃ではMDLPモードで320分)もの録音・再生が可能である。
媒体のミニディスクも小さいし取り扱いも簡単である。
これで、レコードからのダビング媒体はMDに決まりかなと思ったのだが、それから10年以上たっても、MDは意外に普及していない。車に搭載されるカーステレオ用MDプレーヤーはいまだに5万円以上が相場だし(廉価版の2万円台もあるにはあるが‥‥)ラジカセタイプのMDも2万円以上する。
CDプレーヤーが、カーステレオでは標準装備に近く(5年以上も乗っている私の車にはありません‥‥ ;_;)、CDラジカセが5千円以下でも買えるというのとは対照的である。(再生専用であるCD機と、録音機能があるMD機に差があるのは当然かもしれないが‥‥)
そうこうしているうちに、90年代の終わり頃になると家庭でもCDをコピーしたり作成したりできるという「CD−R(W)」機能を持ったパソコンが登場してきた。Windows98が発表された1998年(平成10)頃だったと思う。
これによって市販のCDの複製や、数枚のCDから気に入った曲だけを集めたCDの作成が、全く同じ音質のままできてしまうという事態が生じた。カセットテープの時代には、友達から借りたレコードを音質低下は承知の上でカセットにダビングしていたのだが、CD−Rの登場によって、借りたものと全く同じものを手元に残しておけるということになってしまったのである。
実際には無法状態で複製作業を行っているのではなく、うんちく講座No.306「知ってましたかデジタル録音料」で書いているように、CD−R・CD−RW・MD等の媒体や録音機器を購入する時点で、デジタルコピーにかかる使用料を払っていることになるのだが、音楽CDを発売している側にとっては、いくらでも複製できるというのはCDの売り上げ減少にも大きく影響するわけで望ましいことではない。最近になってコピープロテクトがかかった音楽CDが発売されるようになったが、個人的には(残念ではあるけれども)妥当なことだと思う。
それでも現時点では、CDはCDにコピーするというのが一般的であり、わざわざMDにコピーするという使い方をする人は少ないだろう。(MD録音される場合に、CDのデータと比較して5分の1に圧縮されるので、厳密にいうとCDのほうがより原音に近いということもあるかもしれない‥‥)
古いレコードをダビングする場合も、その後の取り扱いやすさを考えると、CDにしてしまうほうが便利なように思う。
私はこれまで、古いレコードを数枚、MDにダビングしたが、MDプレーヤーがある環境でないと聴けないため、あまり実用的でなかった。また、MDデッキにはアナログLPレコードをかけっぱなしにして録音しても自動的に1曲ごとに区切って曲番をつけるという便利な機能があるのだが、無音部分として認識する曲間部分の感応レベル設定が微妙で、設定がうまくいかないとLP全体を1曲として扱ってしまったりすることもあり、けっこう扱いにくかったりした。(傷があって雑音の多いレコードの場合は特に)
注意深く設定を行うことができれば、あとは楽に録音ができるし音質も良いので、レコードをMDにダビングするのを否定するわけではないが、今後、パソコンとの連動を考えると、CDにダビングするほうがより有用性があると思う。
レコードをCDにダビングするには、パソコンの音声入力端子にレコードからの信号が入るように接続した上で、次の手順で行う。
1.レコード演奏の音声入力信号をパソコンでWAVファイルとして保存する。
↓
2.WAVファイルをCDに書き込んで、音楽CDを作る。
音声入力信号をWAVファイル化するには、特別なツールを必要とする。最近のCDライティングソフトではこの機能を備えているのがほとんどだが、ソフトのバージョンが古くてこの機能がなかったり、あったとしても操作性や機能面で気に入らないという場合には、インターネットでフリーソフトを入手して使うという方法もある。私もときどき「サウンドエンジン」というフリーソフトを使っているが、これはお勧めである。こちらのサイトでダウンロードできるので、興味のある方は使ってみてほしい。
上にあげた手順のように、いったんWAVファイルとして保存する方法だと、録音されたファイルのレベルを調整したり、音質を補正したり、曲の前後の無駄な部分をカットしたりというように、細かな修正ができるし、好きな曲だけを選んだり、曲順を自由に配置したりすることもできるので、きちんとしたCDを仕上げたい場合に望ましい方法なのだが、作業に時間がかかることが難点である。
レコードを再生しながら直接CDに書き込みする方法もある。
私が使っているCDライティングソフトの「B’sレコーダーゴールド7」には、ダイレクトカットという機能があり、上記の1と2の作業を同時に行うことができる。
「B’sレコーダーゴールド7」に限らず、最近のCDライティングソフトにはほとんどこの機能があるようだ。時間をかけずに簡単にレコードをCD化するにはとても便利な機能である。
ただ、例えばLPの片面に6曲が収録されている場合、ダイレクトカットの作業は6回に分けて行わなければならない。MD録音(レベル設定がうまくいく場合だけだが)で可能な「一度のレコード再生で数曲のデータに切り分けて保存」という機能があればもっと便利なのだが、今のところ、それが可能なものはないようだ。
レコードをCD化するといっても、むやみにやるのは望ましくないだろう。例えば過去にレコードで出されたアルバムがCDで復刻されているような場合は、それを購入することが望ましい。
お金はかかるが、自分でレコードからCD化するよりは、ずっと良い音質の演奏を楽しむことができる。
しかし、CD化されて市販されていないような曲も多い。
このレコードは、うんちく講座No.100「邦題って好きなんだけど」で触れた、私が初めて買ったレコードで、スコット・ウォーカーの「行かないで」である。この曲などは現在CDで聴くことはできないはずだ。また「輸入盤で手に入れた古いブルースのレコード」などもCDにはなっていないだろう。
こういった自分の手元にある古いレコードの音源をCD化して、いつでも聴けるようにしたいという場合などは、今回紹介したような方法でCDにしてみるのはいかがだろうか。若い日の思い出が高音質で鮮やかによみがえる‥‥なんてこともあるかもしれない(^^;)
レコード以外でも、ライン入力でパソコンに接続できる音源があればCD化は可能である。
私のように、若い頃にバンドをやっていて、その演奏を録音したカセットテープがあるという場合や、学級の子供たちが歌った歌をカセットやMDに録音してあるという場合でも、それをCDにすることは容易である。録音したカセットやMDでなく、マイク入力で直接CDにすることもできる。
音声のライン入力端子がついていて、CD−Rドライブがついているパソコンならば、ほとんどの場合、これまで述べたような作業が可能なはずである。これまでこの機能を使っていなくて、しかもこういう作業に興味がある方は、ぜひチャレンジしてみていただきたい。お手持ちのパソコンの可能性が大きく広がるに違いない。
<03.12.08>
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