邦題って好きなんだけど



 洋楽という言葉は死語に近くなった感じもあるが、私が外国のポップスに目覚めた中学生の頃、日本国内の歌謡曲やポピュラー音楽(和製ポップスとも言っていた)を「邦楽」と呼び、海外のものを「洋楽」と呼んでいた。
(日本の伝統音楽を邦楽と呼ぶこともあるが、それとは違う意味で、「洋楽」に対する「邦楽」という言い方をしていた)

「行かないで」のレコードジャケット
 左の写真は、私が初めて買った洋楽のレコード、スコット・ウォーカーの「行かないで」というシングルのジャケットである。(1969年頃)

 この曲の原題は「If you go away」なのだが、日本で売るときには「行かないで」という日本語のタイトルがついている。

 当時は、このようなことがよくあった。

 例として、1964年の洋楽年間ベスト10の一覧をあげてみよう。

順位
   曲   名
  演 奏 者 名

ロシアより愛をこめて
マット・モンロー

花はどこへ行った
キングストン・トリオ

恋はスバヤク
ガス・バッカス

太陽の彼方に
アストロノウツ

ワシントン広場の夜は更けて
ヴィレッジ・ストンパーズ

抱きしめたい
ビートルズ

ラスベガス万才
エルビス・プレスリー

マイ・ボニー
ビートルズ&トニーシェリダン

ブーベの恋人
サウンド・トラック
10
夢みる想い
ジリオラ・チンクエッティ


 ご覧のとおり、日本語題(邦題)のオンパレードである。

 当時、まだ英語が今ほど普及していなかったという背景もあるのかもしれないが、日本のレコード会社の担当者が、いろいろと工夫をして、タイトルを日本語にしたのだろう。

 洋楽が日本に入ってきた昭和20年代には、「テネシー・ワルツ」「トウ・ヤング」「カモナ・マイ・ハウス」のように、英語の原題をそのまま使うやりかたが多かったようだが、それでも表示はカタカナであった。

 昭和30年代〜40年代前半にかけては、邦題にするのがブームだったようで、なかなか気のきいた邦題がたくさんある。

 邦  題
 原   題
 演奏者名
悲しき願い
Don't let me be misunderstood
アニマルズ
悲しき街角
Runaway
デル・シャノン
悲しき天使
Those were the days
メリー・ホプキン
愛さずにいられない
I can't stop lovin' you
レイチャールズ
あなただけを
Don't you need somebody to love
ジェファーソン・エアプレーン
青い影
A whiter shade of pale
プロコル・ハルム
黒い炎
Chase
チェイス


 その後は、原題をそのままカタカナにすることが多くなり、さらに最近は原題のまま英語表記するのが主流になってきているようだ。(英語力がついてきたのだろうが、本当にきちんと読めているのだろうか?)

 映画では、まだ邦題をつかうこともあるようだが、音楽業界では邦題はほとんどなくなっている。それどころか、日本で作られた曲も、たとえなかみはみんな日本語で歌っていても、タイトルだけは一人前に英語表記になっている曲が多いようだ。

 これを、青少年の英語力の向上として喜ぶべきことなのか、日本語の感覚が鈍くなってきたとして憂うべきことなのか、難しいところである。



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