たかた話法
私がテレビショッピングの番組を見るのが好きなことは、No.228「深夜テレショップに学ぶ」や、No.297「通販番組歓声疑惑」にも書いたのだが、そこで扱われる商品そのものに興味があるというよりも、番組の構成などのほうに興味があって見ていることが多い。
それぞれの番組に個性があるが、中でも面白いと思うのが「ジャパネットたかたテレビショッピング」である。
他のテレビショッピング番組のほとんどが、その番組でなければ手に入らないような個性的な商品を扱っているのに対し、「ジャパネットたかた」は、街の量販店でも売っている普通の家電製品等を扱うというのも異色なのだが、社長自らが出演して商品の宣伝を行うというのがユニークである。
普通の家電製品を売っても人気があるというのは、サービスとして周辺機器等をつけまくってもなお安い価格設定と、分割払いの金利・手数料を業者側が負担するという点が好感を持たれているからだろう。商品の宣伝についてのリアクションは、No.297「通販番組歓声疑惑」で触れたような会場の客の歓声等を使わずに、ゲストにけっこう名の売れたタレント等を使って、そのタレントが大げさに感動するという方法にしているのも、メジャー企業のイメージを与える作戦なのかもしれない(^^;)
しかし、この番組の一番の人気のもとは、やはり社長の話術だろう。「たかた」社長の独特のしゃべりを聞きたいために、この番組にチャンネルを合わせるという人も多いようだ。
この社長、「高田明」という方である。私はてっきり「たかだ」さんだと思っていたのだが、社名が「たかた」ということから考えると「たかた・あきら」と読むのであろう。(NHKの朝ドラ『私の青空』で活躍中の宝田明さんではない)
昭和23年11月生まれとのことなので、私より6歳上ということになる。現在は51歳ということになるだろうが、長身の上、豊かな黒髪(^^;)、歌手の山川豊ばりの甘いマスクの二枚目なので、とても若く見える。
最近では、コンピュータグラフィックのアニメーションで番組が始まり、その中でCG化された高田社長が踊りまくるという楽しい企画で(^^;) 完全に社長がメインキャラクターになっている。

私と名前が「あきら」ということで同じだったり、誕生月も11月で同じということで、個人的には特別な親近感も持っている(^^;)
私だけでなく、高田社長の話し方に興味を持っている人もけっこういるらしく、インターネットで検索してみたら、彼のことに触れたページもいくつかあった。
それらの情報によると、高田社長の話し方は「長崎訛り」ということであった。
念のため、長崎出身のタレントを調べてみたら、「さだまさし・前川清・福山雅治・蛭子能収・大仁田厚・役所公司」などがいた。方言丸出しで話すタレントはいないが、前川清・蛭子能収あたりの話し方には、高田社長に近いものがあるような気もする。(長崎弁に詳しい方がいらっしゃったら、そのへんの情報もいただければ幸いである)
しかし、高田社長の話し方が長崎訛りというだけでまとめることができるものではないということに、気づいた出来事があった。
それは、「ジャパネットたかた」の別の社員が登場する番組であった。
「ジャパネットたかた」では、テレビショッピング番組だけではなく、ラジオでの放送も行っている。(この頃ではインターネットでの販売にも進出してきた)
私の地域のラジオ放送局でも、「たかた」のラジオショッピング番組をやっている。この番組には高田社長もときどきは出演するが、普段は女性社員が登場して、商品の宣伝をやっている。
この女性社員のしゃべり方が、高田社長と似ているのだ。
「ジャパネットたかた」そのものが、長崎県佐世保市にあるので、女性社員も長崎生まれだということも考えられるが、この社員に訛りはない。
アクセントやイントネーションは標準語の感じなのだが、文法的な特徴が高田社長と同じなのだ。
高田社長の話し方の文法的な特徴などというと大げさだが、要は「格助詞の省略」である。
具体的にいうと、「これがたったの○万円」、「このカメラに三脚をつけて」などのように、助詞(赤字の部分)を省略(あるいは極端に短く発音)するかたちでしゃべるのだ。(これが長崎弁の特徴なのだとすれば、教えていただきたい)
このしゃべり方、どんな効果があるか考えてみた。
省略するのは、それぞれたったの1音か2音程度なので、話す時間が極端に短くなるとは考えられない。しかし、聞いた感じでは、かなりきびきびした感じに聞こえる。
日本語を崩してしまっている感じを与えないぎりぎりの範囲で、聞き手に与える感じを大きく変えることができる効果的な手法であると思う。
この話法は、長崎弁というよりも、露天商の話法にルーツがあるように感じる。
露天商というと、お祭りの縁日などで店を出してやっている、あの方々である。映画「男はつらいよ」のフーテンの寅さんを思い浮かべていただければいいだろう。
目の前の通りすがりの客に、手持ちの商品を買ってもらうには、きびきびとテンポがよく、インパクトの強い話し方をしなくてはならない。しかし簡潔だからといって、ぶっきらぼうで無愛想な感じを与えてはならない。あくまでも客を大事にする丁寧な雰囲気を醸し出すという、難しい条件を満たしたのが、この露天商の話法だといってもいいだろう。
私が持っている「大道芸・筑波山名物・ガマの油売り」の口上カセット(およびその言葉書き)を参照しても、同様の話法が見られる。格助詞(場合によっては係助詞)の省略がたくさんあるのだが、これは意図的な格助詞の省略というよりも、体言止めの多用による言葉のリズムを損なわないために、結果的に格助詞が省略されたと見てもよいかもしれない。
いずれにせよ、こうやって成熟してきた露天商のしゃべり方を引き継いだのが、デパートや街頭、ときとしてはテレビショッピング番組で行われている「実演販売」だと思う。
包丁や鍋など、台所用品の販売が多いようだが、巧みな包丁さばきなどとともに、「見て見て奥さん、この鰹節、アッという間に‥‥」というような軽妙なしゃべりで、客に商品の魅力をアピールするという手法は、やはり露天商の話法を用いたものだと考えられる。
これらの特徴が感じられる「ジャパネットたかた」の社長の話法は、「テレビ露天商」あるいは「テレビ実演販売」話法と呼ぶことができるかもしれない。
「助詞等もきちんと省略しないで話す」という、「日本語を大事にする」視点からみれば、少々邪道ではあるかもしれないが、別の視点からみると、大道芸から始まる「庶民的日本語の伝統」を受け継いだ、由緒ある日本語使いなのかもしれない。
教育現場では、教師自らが正しい日本語を使うことが望ましいのだが、場合によっては、日本語を崩さないぎりぎりの限度で、この「ジャパネットたかた話法」を活用するのも、きびきびしたインパクトのある授業を進めるには効果があるかもしれない(^^;)
(余談1)
とても大事なテレビCMなのだが、臓器提供ドナーカードなどのキャンペーンCM(?)で、ある程度分別もありそうな年齢の女性が、意味もなく語尾を上げる疑問形表現や、「じゃあないですかぁ。〜なんですよぉ」などの「おバカ日本語」を連発するのを聞いていると、「こんなヤツから臓器をもらったら『おバカ』もうつってしまう‥‥」と、不安というか、腹立たしくなるのは、私だけだろうか(^^;)
(余談2)
話法というと、「朝まで生テレビ」等の田原総一朗話法がある(^^;)
討論会のパネリストに対して、相手の話をさえぎるように声高に「じゃあ、結論としては反対なんでしょ!」とか、「まとめたらどういうこと?」などとたたみかける話し方は(彼自身のダミ声とあいまって)聞く人には不愉快な感じも与えるが、あの手の討論番組を盛り上げて、パネリストが意図していなかった意外な本音を剥き出しにするには、かなり効果的だと思う。
個人的には、あまりいい感じもしないが(^^;) 番組進行役としては有能な人だと感心しているし、テレビ討論の場には最適な「考え抜かれた話法」だとも思う。
それとは別に、自分の部下を「木っ端役人」呼ばわりしたり、真面目に話している人に対して「それは屁理屈というもんだ」などと決めつけたりする、いわゆる「傲慢話法」を使う方々はどういうものだろうか。自分の地位を勘違いした(みんなに嫌われたらオシマイなのに)傲慢そのものであることは間違いないし、日本語や人間そのものに対するデリカシーを欠いたお粗末な話法だと思う。
意図的に相手の人格をぺしゃんこにするような言葉を使いたくなることは、私にもある。そういう気持ちになるということは、相手に対する愛情も尊敬もひとかけらもなくなったときである。
そういう気持ちになるのはめったにないはずなのだが、傲慢な顔をして、相手が不愉快になるような言葉を連発する人間というのは、もともと人間に対する愛情がないのだろう。いろんな立場のトップにはいてほしくない人間である(^^;)
<00.08.27>
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