深夜テレショップに学ぶ



 インターネットをやっていると、ついつい夜更かしをしてしまう。寝る前に寝室のテレビをちょっとつけてみると、やっているのが通信販売の番組。



 私はこの手の番組がかなり好きである(^^;)

 日本で作った番組もあるが、日本版は、司会が男女のペア。販売店の説明者が登場し、格安製品の宣伝をする。会場には奥様方が並び、「この製品を今回は特別にたったの○○○円でご提供!」と言われるたびに「おおー!」という歓声をあげる。というお決まりのパターンで、あまり面白くない。

 私が好きなのは、海外で制作された番組である。



 中でも、T局系の「テレ○ン・ワールド」と、F局系の「直○便ニューヨーク」がお気に入り(^^;)である。

 どちらも30分番組で、紹介する製品は1つだけというのが基本形である。




 30分の間、1つの商品を紹介するのだから、見ていると飽きてきそうなものだが、不思議なことに飽きないでずっと見てしまう。

 まだ、その手の番組を見て、商品を注文してしまったということはないのだが(お金がないので‥‥)、宣伝される商品が欲しくなるのは事実である。



 番組の進め方をみると、どの商品を宣伝するときも、ある程度の基本パターンがあるようだ。

 この基本形が、見る人を飽きさせず、購買意欲をかき立てる秘密になっているらしい。

 これは、学校での学習指導や、人前での話し方などに使えるなと思ったので、以下、その秘密をまとめてみる。



1.ハイテンションにしゃべる

 まず特徴的なのが、商品を紹介するときのしゃべり方。かなりテンションの上がったトーンで話す。あまり叫びすぎると耳障りだが、ここではその一歩手前程度の声の調子である。
 ちょうど友達同士が、嬉しいことがあって、それを相手に紹介したくてたまらないといったようなしゃべり方である。
 授業や講演などで、あまり話す気がないのだが仕方なくてしゃべっているというような、一本調子で声のトーンの低い話し方をする人がいるが、これでは聞く人をひきつけられない。うるさくない程度のテンションの高さは大切であると思う。(長時間の場合は落ち着いた話し方のほうが聞きやすいということもあるが、30分程度の話なら張りのある話し方のほうがよい)


2.簡潔な話し方

 商品の紹介者は、長々としゃべることをしない。文法的に見ても簡潔な表現をする。体言止めを使うことも多い。
 日本語の力を伸ばすためには、ある程度複雑な構文の話を聞き取らせることも大事だが、それはそのことをねらった授業でのハナシ。通常の授業では、どの子にも聞き取れるような「すぱっ」とした話し方がよい。
 一生懸命聞いていてもよくわからないような政治家の方の話し方(構文も難しいし、よく分析すると文脈にねじれがあったりする)は、おそらく意図的なものだろうが、その逆の話し方をすればよいのである(^^;)


3.1人の話は1分以内(多くの人がしゃべる)

 よくできたテレショップ番組では、メインの紹介者(あるいはナレーター)が、1人で長々と話すということがない。必ず別の人(製品を使ってみた人とか、学者とか)が出てきて、製品についての話をする。
 これが次々と行われるので、見ている方は飽きない。
 授業等でも、教師1人がしゃべり続ける授業は、聞いている子供たちは飽きるし疲れる。教師以外の人、つまり学級の子供たちが発表などすれば、飽きないで聞くものである。
 子供に発表させるというのは、子供の意見を確認するという意味もあるが、同じ内容でも教師がしゃべるより子供の口から出たほうが聞き手に訴えるという意味でも効果があるのである。


4.デモンストレーションが巧み

 この手の番組の名物が、インパクトのあるデモンストレーションである。車のワックスの保護効果を強調するために、ボンネットの上で火を燃やすなどというのはおなじみのパフォーマンスである(^^;)
 酷寒のアラスカでのエンジンオイルの耐久実験とか、腰や首を痛めない腹筋強化器具の安全をスポーツ医学の専門家が力説するとか、とにかく思わずなるほどとうなるようなデモをする。
 日本のテレショップ番組はあまり面白くないと述べたが、それでも包丁類の実演などは、かなり惹き付けるものがある。
 学校での授業でも、教師の話だけでない実物の提示などは授業の基本といわれているが、効果的にねらいを達成するパフォーマンスはこの手の番組からも学びたい。


5.商品名を繰り返す

 メインの紹介者だけでなく、その他の出演者も、必ず商品名を言うのがこの手の番組の特徴である。「宇宙時代のカーワックス『オ○リ』は‥‥」「ほんとに『オ○リ』って素敵」「『オ○リ』を使ってから‥‥」のように1分間に何度も商品名が出てくる。前述のようにいろいろな登場人物が交代して話すので、あまり耳障りではないが、視聴者は知らず知らずのうちに商品名を頭の中に叩き込まれてしまう。
 授業でも、絶対に覚えさせたい言葉、例えば「底辺・頂点」などを、必ず使って話させるように工夫すれば、「いいですか!テストに出しますから絶対に覚えなさいよ」などと言わなくても大丈夫である。


6.微妙に違えて繰り返す

 30分もの間、1つの商品を宣伝するのだから、基本的には同じような内容の繰り返しになる。実際に同じような資料映像や、効果を語る人物などが、何度も出てくる。
 しかし、注意深く見ると、同じパターンで繰り返されるということがない。資料映像の長さや宣伝する人物の話す内容は少しずつ違っている。
 これが飽きさせずに宣伝効果を徹底する秘密なのだろう。製品を使用して効果を語る人物も、同じ人が何回も出てくるので、見ている側ではなんとなくその人と顔なじみのような感覚になり、次第に自分もその仲間のような気持ちになってくる。これも巧みなテクニックである。
 一般のテレビCMで、たまに短いCMを2回繰り返すことがあるが、それとは全く違う。同じような内容でも少しずつ違うということが、次はどんなことを言うだろうという期待に結びついている。
 授業でも大事な内容は一度だけでなく繰り返して確認するというのが基本だが、その際に「ではもう一度言います」というように、ただ同じことを繰り返すのでは効果が薄い。少しずつ違えて繰り返すというテクニックは大いに学びたい。


7.疑ってかかる

 ただ「この製品は素晴らしいですよ」と強調することもあるが、多くのこの手の番組では、効能を説明する人とは別に、「本当にそうなの?」とか「信じられない!」とかいう相手役が登場することが多い。
 代表的なカーワックスの宣伝でも、「ショールーム並みの輝き!」と叫ぶ小柄なジョン・パーキンの脇で、番組進行役のマイク・レビーがその効果を疑ってかかる。そこで名物のボンネット上でのライターオイル炎上になるという具合だ。
 もちろん本当に製品を否定するという立場ではなく、結果的には製品の素晴らしさを強調するという役割なのだが、日本の番組ではあまり見られないキャラクターである。
 道徳の授業で価値葛藤をさせるために、いわゆる「ゆさぶり」という発問をするなどというのも、この手法なのだが、他の指導にも使えそうな方法である。




 もっと詳しく見ていけば、まだまだ参考になるテクニックもあるのだが、今回は区切りのよいところで「深夜テレショップに学ぶ7ヶ条ということにしておこう。



 学習指導に生かすとなると難しいかもしれないが、これらの手法を無意識のうちに活用している天才的な事例がある(^^;)

 それは、子供をおこるとき‥‥



1.ハイテンションで
2.体言止めなどの簡潔な話し方で
3.いろんな人が交代交代に
4.具体例をとりあげて
5.子供の名前や、しでかした出来事を繰り返して
6.しかも微妙に違った叱り方を繰り返して
7.子供が謝っても「ホントにわかってるの?」などと疑ってかかる‥‥



 こうやって見ると、まさに7ヶ条にぴったりである。しかし、子供にとって、叱られた効果があるかというと疑わしい(^^;)

 叱り方7ヶ条は、あまり勧められない。

<99.09.05>


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