通信簿4月渡し案


 新学習指導要領の完全実施も間近に迫ってきた。

 ご存知のように「総合的な学習の時間」なども新たに始まるわけなので、各学校でも、いわゆる「通信簿」(学校によってその名称は様々であるが)の形式が改訂されることと思う。



 早い学校では10数年前から、相対評価を絶対評価に変え、評価項目もその学年・学期に応じた具体的なものにしているはずなので、新学習指導要領になっても大きな変化はないかもしれないが、変化の大小は別にして、平成14年度の通信簿は改訂されるはずである。

 なお、通信簿については、うんちく講座No.214「運勢の相対評価」で触れているのでご参照いただきたい。



 この通信簿の改訂作業は、6月頃に行われることが(私の知る限りでは)多いようだ。

 通信簿を最初に保護者に渡すのが一学期末の7月下旬。

 それに間に合うように仕事を進めるには、6月中旬頃までに通信簿の内容と形式を決定して印刷業者に発注し、7月上旬頃に印刷が仕上がり、7月中旬から一学期の終業式までのうちに記入を済ませるという手順になる。



 私の知る範囲では、これまで毎年このような手順で作業が進められてきたし、おそらくこれは全国共通なのではないかと思う。



 しかし、保護者の立場で考えると、学校が何を目指し、何を具体的にやっているのかということの集大成である通信簿を、年度が始まって4ヶ月にもなろうとする7月下旬頃に初めて目にするのでは、ちょっと遅いようにも思う。

 通信簿の評価項目の内容として、例えば教科面では「2桁のかけ算の筆算ができる」「ローマ字の文章を読むことができ、ローマ字を使って簡単な文を書くことができる」などがあり、生活行動面では「誰にでも元気よく朝や帰りの挨拶をしようとする」「自分の持ち物を整頓することができる」などというようなものがある。

 学校と家庭が連携して子供を育てることの必要性が力説されている今だからこそ、学校では子供にどんな力を身につけさせようとしているのかをきちんと知らせ、家庭と連携して教育を進めていかなければならないのだが、一学期末になってはじめて、「学校ではこんなことを目指しています」ということが明示され、さらに「その点についてお宅のお子さんの評価はBです」といきなり評価されるのでは、保護者の方でも面食らうのではないだろうか。



 そこで、学習指導要領や教育課程も新しくなるこの機会に、私が提言したいのは、通信簿を4月末(遅くても5月上旬頃)までに保護者に提示するということである。

 もちろん、その時点では「お宅のお子さんの評価は○○です」という記述はできない。評価や通信が書き込まれていない白紙の通信簿を配布するだけである。

 それでも、白紙の通信簿を見た保護者にしてみれば、「なるほど、学校では子供にこういう教育をしようとしているのか。では家庭でも子供に対してできるものは頑張ってみよう」という気持ちに(ある程度は)なるのではないだろうか。



 子供を預かる学級担任にしても、この学年のこの学期に子供に身につけさせたいのは何なのかが具体的になることは、指導上効果的であると思う。



 それなら、私の言うように、通信簿の評価項目をできるだけ早い時期に保護者に示せばよいということになるのだが、現実にはそれができないわけがある。

 というのは、4月のうちに教師が書き上げなければならない文書が他にあり、そのために多くの時間を費やさなければならないという事情があるからである。



 それは「学校教育計画」というものである。

 学校によっては「学校経営要覧」とか「学校運営ハンドブック」など様々な名称で呼ばれているが、学校経営の方針・年間行事計画・各教科の研究経営案・学年学級の経営案・生徒指導や保健指導等の指導計画等が網羅されたもので、その年度の学校の全ての教育活動の具体的な取り組みを示すものである。

 だいたいは冊子の形式でまとめ、そのページ数は(学校規模によって差があるが)100ページ前後というところである。

 これを4月のうちに書き上げ、5月の中頃までに印刷製本して、学校の教職員と関係教育機関に配布するというのが一般的である。



 校内の分掌によっては、一人で十数ページも担当するということもあるため、教務主任・研究主任などの教師はゴールデンウィークも返上して原稿を書き上げなくてはならないということもある。



 そういう実情なので、これに加えて通信簿の内容作成も4月中に行わなければならないとなると、教師の仕事は過大なものになり、本来の業務(児童生徒の指導)もおろそかになるという心配も出てくる。



 それでは本末転倒なのだが、私としては「通信簿の内容を早めに仕上げて遅くても5月初め頃には保護者に明示する」という考えも捨てがたい(^^;)

 そこで、次のような方法を考えてみた。



加除式の学校教育計画

 その学校に転任したばかりで、新しい校務分掌を任されたりした場合、学校教育計画に書く内容は前年度の踏襲ということになりがちである。

 本来なら、前年度までの内容を十分検討して、自分なりの発想や工夫を加え、新しく書き換えるべきなのだが、新しく行った学校のこれまでの実情もわからない状態では、何をどう改善すべきなのかわからないことのほうが多い。

 それに加えて、学級を担任している場合などは、子供たちとの新しい出会いもあり、そちらの対応にも大きな力を注がなければならないので、「学校教育計画のこの分野を担当して書いてください」といわれても、とりあえず前年度までの内容とほとんど変わらないものを書かざるを得ないのである。

 実際にその校務分掌を担当してみて、改善すべきところが見えてくるのは、夏休み以降ということがほとんどだろう。



 それならば、4月の段階では、無理して新しいものを書こうとせず、前年度までのものをそのまま転記することを基本にしてもよいだろう。

 自分の校務分掌の実態が見えてきたときに、それに対応したかたちに新しく書き換えればよいのである。



 5月はじめ頃に仕上がった学校教育計画を金科玉条のように1年間大事に使うのではなく、必要に応じてどんどん改善していけるような学校教育計画のほうがよい。

 そのためには、ばっちりと立派に製本された学校教育計画ではなく、改善のたびにページを差し替えられるように、バインダー形式にした「加除式学校教育計画」というのも有効であろう。

 わが県内の教頭さんたちと情報交換してみると、この形式に変更したところも多いようである。バインダー形式にするために予算は若干多めにかかるようだが、フレキシブルな学校経営のためには効果的な方法であると思う。



学年経営案の代わりに通信簿を学校教育計画に載せる

 上記の方法をとれば、これまで大きな労力を費やしてきた学校教育計画の執筆の負担が軽減されるので、通信簿の内容作成を4月中に行う余裕が生じると思うが、もっと合理的な方法もあると思う。

 それは、学校教育計画の中に載せる「学年・学級経営案」に通信簿の形式をそのまま使うという方法である。



 一般的な「学年・学級経営案」は、項目立てた文章の形式で記述される。例えば「学習指導面で目指すことは○○。生徒指導面で目指すのは○○」というかたちである。

 これをより具体化したものが通信簿である。

 それなら、いっそ通信簿自体を「学年・学級経営案」にしてしまったらどうだろうか。



 この年度のそれぞれの時期(1学期・2学期・3学期)に、学習指導面・生活指導面ではどんな力を身につけさせることをねらい、具体的には何を到達目標にするのかということをはっきりさせれば、結果的には通信簿と同じかたちになるはずである。

 文章でぼんやりと表現するよりも、通信簿のように「○○をすることができる」「○○をしようとする」というように表現するほうが、目指すものがよりはっきりするだろう。



 忙しい年度始めの4・5月だが、やりようによっては二重に手間をかけていた仕事が合理化でき、学級担任がその年度で目指すものも具体化し、更にそれを早い時期に保護者に明示できるという、一石三鳥の方法も可能なのではないかと思う。



ところでここからは例によって余談‥‥(^^;)

 早いところでは十数年前から行われている「それぞれの時期の指導事項を明確化した通信簿」。保護者からの受けはどんなものだろうか?

 古いタイプの通信簿だと、算数の評価項目は「知識理解・技能・興味関心」などになっている。新しいタイプだと「億以上の大きな数について理解している・繰り上がりのある足し算ができる・既習の知識を生かして進んで新しい問題の解き方を考えようとする」などである。

 どちらがわかりやすいだろうか。



 ちょっと話題をそらすと(^^;)「家庭人としての夫」という教科(?)があった場合、古いタイプの通信簿なら「誠意・日常的な貢献度」などの評価項目ですむのだが、新しいタイプとなると「進んでゴミ出しの作業を行う・食事のあとの食器の片づけを欠かさずに行う」とい具合になる(^^;)

 個々の項目には当てはまらないが全体としてはちゃんとやってくれていると思うなどというダンナの場合、評価項目が細かすぎて具体的すぎると、本当の評価ができないような場合もありそうである。

 この頃の教育も、こまいところにこだわりすぎて大局的な見方がなくなってきたような感がある‥‥

<02.02.20>


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