うんちくNo.363「変わり種MP3プレーヤ挑戦記」に書いたように、このところいわゆるシリコン・オーディオと呼ばれる携帯オーディオ・プレーヤーに興味を持っているのだが、「これはよい!」とお勧めできるものを見つけたので紹介したい。
マクセル社で販売している「musicBit! CROSSFORM」という製品である。
上がその写真なのだが、ご覧のように小さくて軽い(88mm×54mm×10mm、52g。タバコの箱が89mm×55mm×23mmだから、縦横はほぼタバコと同じ、厚さは半分以下である。重さも携帯電話より軽い。単三電池2個よりも軽い。胸ポケットに入れても存在を意識しない程の軽さである)
この製品を私が使ってみて感じた長所と、使用に関して留意することを以下に述べてみたい。
多形式のファイルに対応
一般のMP3プレーヤーのように、ネットからダウンロードしたりCDから作成したりしたMP3データを使用できるのはもちろんだが、その他にTwinVQデータとWMAデータにも対応している。(それぞれのデータについては以下の通り)
TwinVQ
Transformdomain Weighted Interleave Vector Quantization。NTTサイバースペース研究所が開発した音楽圧縮技術の名称。CD並みの音質で音楽ファイルの容量を約18分の1まで圧縮することが可能(FM並みの音質なら36分の1圧縮)国際標準MPEG-4/Audioに採用されることが決定しているが現在のところあまり一般的ではない。
MP3
パソコン環境では最も普及している音楽圧縮形態。圧縮率は一般的な128kbpsで約11分の1。インターネット上で非常に多くのMP3ファイルが公開されている。
WMA
Windows Media Audioの略で、マイクロソフト社が提唱するサウンドフォーマット。圧縮率や音質はMP3とほぼ同程度。最近急速に普及しつつあり、各携帯プレーヤーでも対応してきているものが増えている。
圧縮するというとかなり音質が劣化するような感じを受けるかもしれないが、これらの音声圧縮技術では人間の耳には聞こえない部分を巧みに削っているので(そのやり方はそれぞれ違うが)聴感上は原音とほとんど差がないことになっている。ちなみにMDでもATRACという音声圧縮技術を使っていてCD等のデータを約5分の1に圧縮している。
一般的なMP3プレーヤーでもMP3データの他にWMAデータに対応したものは増えてきているが、「musicBit」はTwinVQデータを扱えるのが特徴である。(「musicBit」の前の型の製品はTwinVQだけを扱うものだったので、今の機種がMP3やWMAにも新しく対応できるようになったというべきかもしれない)
このTwinVQが素晴らしい。
うんちくNo.363「変わり種MP3プレーヤ挑戦記」で私は「MP3の音質はちょっと落ちる」ということを書いたが、あの時点では圧縮率が96kbpsのデータで、しかも再生の機器が貧弱なものだったのでそう感じたのだが、その後、圧縮率が128kbpsのデータをきちんとした器材で聴いてみるとかなり音質がよいことを再認識した。
携帯オーディオ・プレーヤーに付属のステレオイヤホンでは、CDプレーヤーの音もMP3プレーヤーの音もほとんど差がない。今回紹介している「musicBit」でTwinVQデータを再生した場合も同じように良い音質で、聴感上の大きな差は感じられないが、出力された音を周波数分析するとかなりの差があるということがわかった。
楽器店等で無料配布している「デジタル・ミュージック・マガジン」という音楽雑誌に、様々な音楽圧縮技術で圧縮した音を周波数分析したグラフが紹介されていたが、MP3で圧縮したものが特定の周波数外の帯域でずばっと切られているのに対して、TwinVQはオリジナルの音源(CD)のグラフとほとんど差がなかった。その記事の筆者の表現では「どの圧縮フォーマットと比較しても圧倒的にすぐれたもので、実はダントツに音がよい」ということである。
音がよいうえに、圧縮効率もよいのだから、個人でCDの音楽やWAVデータを携帯オーディオ・プレーヤー用にデータ変換して鑑賞しようとするならば、現時点ではTwinVQデータで扱うのがベストである。
ただ、Web上で多く流通しているMP3データや、これから広く使われるであろうWMAデータも問題なく再生できるということで、私としては携帯オーディオ・プレーヤーを使うならば「musicBit」がベストな選択だと思っている。
なお、TwinVQ、MP3、WMAの3つのデータとも、記憶媒体(IDつきスマートメディア)上では、全て「SVQファイル」として保存される。データの音質等には変化がないが、音のデータの他に曲名やアーティスト名、ID情報などが付加されたのが「SVQデータ」である。いわば音のデータを他の情報でくるんだオブラートのようなものである。データ形式が3つのうちのどれであろうと問題はないが、メーカー推奨のように、この機器との相性はTwinVQデータが最適のようだ。
音がよい
うんちくNo.363「変わり種MP3プレーヤ挑戦記」で紹介したプレーヤーは、コンパクトフラッシュのリーダー・ライター機能にMP3データ再生機能を付けたという性格のためか、オーディオ再生機器としては必要最低限のレベルのようだ。私が「MP3はあまり音がよくない」と感じたのもそのせいかもしれない。
それに比較してこの「musicBit」は再生音質もかなり良質である。付属のステレオイヤホンの性能がよいことも影響しているだろうが、他のステレオイヤホンで聴いても透明感や迫力において申し分ない音質である。また「バス・ブースト」「トレブル・ブースト」の機能もあり、自分の好みの音質に細かく調整できる。
カセットテープなどの生産でも実績のあるマクセル(日立)の製品だけに、音に関しては「さすが!」という印象である。
操作性がよい
オーディオメーカーが作った機器なだけに操作性についてはとてもよく配慮されている。
前の曲・後の曲への頭出しや、早送り・巻き戻し、リピート再生(1曲・全曲)、ランダム再生など、一般的なオーディオ・プレーヤーについている機能は全て備えている。
操作ボタンの配置もよく工夫されていて使い勝手がよいし、本体右横のレバースイッチで多くの操作ができ、使い慣れると抜群の使用感である。携帯型のCD・MD・カセットプレーヤーでは本体とイヤホンの間にリモコンスイッチがあるものも多いが、「musicBit」の場合は本体自体が軽くて小さいのでリモコンの必要はない。
全曲再生終了後にはオートパワーオフ機能もあるので、聴いたまま寝てしまっても電池(充電タイプ)が切れてしまう心配もない。(ちなみに1回の充電に要する時間は最大3時間半程度。これで約6時間の連続再生が可能である)カバンなどに入れて持ち運ぶ際にもボタンが誤って押されて再生が始まったりしないようにホールド機能があるので心配がない。
安い
オーディオ機器としてかなり満足できる機能を備えていて、価格はというと、これがかなり安い。オープン価格となっているが実売価格は本体だけだと1万円を少し切る程度である。
本体だけといっても、専用充電器・充電器用ACアダプター・ステレオイヤホン・データエンコード用ソフト(CD)などは全て標準添付なので、これ以外に必要なものはスマートメディアとスマートメディア・ライターだけである。
スマートメディアは64MBのもので3千円程度(32MBだと2千円以下、16MBなら千円ちょっと)で売られているし、スマートメディア・ライターも3千円程度で買える。別途購入しようという人や、既に持っているという人は本体だけ購入するのがよいだろう。
私の場合はインターネットの通信販売で購入したのだが、本体の他に64MBのスマートメディアとスマートメディア・ライターが一緒になったオールインワン・パックが送料・消費税込みで1万5千円ちょっとだったので、そちらを購入した。これのほうが買い得かもしれない。
他のMP3プレーヤである程度の機能を備えたものは2万円台後半から4万円というものが多いので、「musicBit」は買い得感がある。
著作権にはシビア
うんちくNo.363「変わり種MP3プレーヤ挑戦記」で紹介した製品は記憶媒体がコンパクトフラッシュで、パソコンのハードディスク内のMP3データをマイコンピュータやエクスプローラでドラッグ&ドロップするだけで簡単にプレーヤーで聴くことができたが、「musicBit」ではスマートメディアに音楽データを保存するには専用のソフト(標準添付)を使わないといけない。
また、CDの音楽やWAVデータをTwinVQデータにエンコードする際にも、スマートメディア・ライターの中に予めスマートメディアを挿入しておかなくてはならない。
CDの曲をパソコン内にエンコードするだけでスマートメディアに保存するわけでもないのに、どうしてスマートメディアを挿入しておかないといけないのだろうと不思議に感じたのだが、これはCD等のデータが不正にコピーされたりするのを防ぐためだとわかった。
またスマートメディアを2枚以上持っている場合、それぞれのスマートメディアに保存できる曲は区別される。具体的には次のようなことである。
三波春夫のCDを圧縮データにするときにAのスマートメディアを挿入して作業を行ったとする。(この場合、三波春夫のデータはハードディスクに保存される)
次にビートルズの曲をBのスマートメディアを挿入して圧縮し、ハードディスクに保存したとする。
ここでBのスマートメディアにハードディスク内のビートルズの曲をコピーし、それでもスマートメディアの容量に余裕があったので三波春夫の曲もコピーしようとしても、残念ながらそれはできない。コピーしようにもハードディスク内の三波春夫の曲を認識できないのである。
三波春夫の曲もビートルズの曲もハードディスク内に保存されているのだが、それぞれのデータを作った(圧縮した)ときのスマートメディアが挿入されていないとコピーの対象として扱わないのである。
これがID付きスマートメディアの機能である。
たとえハードディスク内に大量の圧縮データが蓄積されていても、それを使えるのはデータ作成時に挿入していたスマートメディア1枚だけで、複数のスマートメディアで分けて使ったり知り合いにデータをコピーしてやるということは不可能になっている。
どうしても複数のスマートメディアを使って聴きたい場合(旅行に出かけるときなど)は、予めそれを想定してデータを作っておかないといけない。
CDを聴くときのように何枚ものCDを持ち歩くというのではなく、パソコンの中にたくさんのCDデータを詰め込んでおき、その日の気分でお気に入りの曲を選んでスマートメディアに移して持ち歩くという使い方がいいだろう。
なお、64MBのスマートメディアだと約100分程度の演奏が記録できる。音質をスタンダードモード(FMラジオ程度)に落とすとその倍ぐらいになる。野外で歩きながら聴いたりするにはこの音質でも十分という感じだった。
眠るときのBGMに聴くなどという場合は、スマートメディアの容量いっぱいにデータを入れておくと、演奏が終わって電源が自動的に切れるまで時間がかかるので、お気に入りの3・4曲程度だけ入れておくという使い方もある。
できるだけ容量の大きいスマートメディア(この機種では64MBまで)を使って、中に入れるデータの大きさは目的によって使い分けるというやり方がいいようだ。
なお、できあがったデータをパソコン本体で聴くことはできない。再生が可能なのは「musicBit」本体にスマートメディアを入れたときだけである。個人でCD等から複製したデータは個人で楽しむだけという基本がしっかりしている。融通がきかないと感じる人もいるかもしれないが、私はこの姿勢には好感が持てる。
エンコードはけっこう遅い
CDの演奏を「musicBit」用のデータにするには、標準添付の専用ソフトを使うのだが、圧縮変換作業にはけっこう時間がかかる。(とはいってもCDの演奏時間ほどはかからないが)
CDデータをMP3データに変換するときには「Real社」の「RealJukebox」を使ったのだが、それに比較するとやや遅い感じがする。(パソコンのCDドライブの読み込み速度に影響される部分が多いが)ちょっと古いパソコンを使っている人は遅く感じるかもしれないが、できあがったデータの音質がMP3より格段によいものになることを考えると我慢できる。
余談になるがCDからMP3データを作る際、前述の「RealJukebox」は無料で手に入るので便利だが、これだと圧縮率が96kbpsまでである。音質的に満足できる128kbpsのデータは作れない。ところがフリーソフトのパソコン用MP3プレーヤーソフトで128kbpsのエンコードもできるスグレモノがあった。
SCMPXというフリーソフトでこちらのサイトからダウンロードできる。CDから直接にMP3データを作るのではなく、CD−RW用ソフト等を使って一度WAVデータを作ってからMP3にエンコードするのだが、かなり使い勝手のよい優秀ソフトである。
CDから直接MP3データ(128kbps以上)を作るには市販ソフトを使わなければならないが、「Music Match Jukebox」の無償ダウンロード版もよい。かなりダウンロードするファイルサイズが大きいこと(ISDN回線で30分弱)と表示が全て英語というのがちょっとネックだが本格的な作業ができるソフトである。
お勧めです!
うんちくNo.363「変わり種MP3プレーヤ挑戦記」では音楽プレーヤーとして使うだけでなく、フロッピーディスクよりもすぐれた「データ持ち運び媒体」として取り上げたのだったが、この「musicBit」でも、音楽データ記録用のスマートメディアの中に、ワープロのデータや画像データ等を入れて持ち歩くという使い方が可能であった。
音がよい、使い勝手も最高、しかも安いということで、私はとても気に入って使っている。ずいぶん長々と商品の宣伝めいたことを書いてしまったが、メーカーからは何ももらっていない(^^;) ただ、私としては音楽好きでパソコン好きな方にはぜひお勧めしたい。
<02.01.10>