平和の金の粉
1982(昭和57)年の世界的大ヒット、マイケル・ジャクソンの「スリラー」は、レコードだけでなくビデオも売れた。
レコードアルバムの全曲が入っているビデオではなく、マイケルがゾンビたちと踊るあの「スリラー」のシーンの作成現場を中心にした、いわゆるメイキング・ビデオだが、その中にジャクソンズの演奏が1曲だけ入っている。
ご存じの方も多いだろうが、マイケル・ジャクソンは少年時代、兄弟で編成するバンド「ジャクソン5(ファイブ)」で活躍していた。
スリラーがヒットした頃には、マイケルは独立し、他の兄弟たちはジャクソンズという名称でバンド活動をしていたのだ。(レコード会社移籍の関係でジャクソン5という名称を使われなかったという話もある。最近になってジャクソン5が復活するという噂もあるが‥‥)
そのビデオの中で、ジャクソンズが演奏している映像が私にはとても印象的だった。曲名はわからないのだが、歌詞は「Can you feel‥‥」というフレーズが何度も繰り返される曲である。
曲もよいのだが、ビデオで流されるイメージ映像が素晴らしい。
今のレベルから見たら稚拙な感じもあるが、いわゆるコンピュータ映像処理のはしりなのであろう。美しく神秘的な映像である。
その中で、ジャクソンズのメンバーが高層ビルディングをまたぐような大男になって、空の上から金の粉をふりまくシーンがある。

この粉が地上にふりそそぐ。下で見上げていた人々に金の粉がふりかかると、人々は金色に輝き、はっと目覚めたような顔をして、やがて皆が微笑むのだ。
私はこのシーンを見て、これが「平和の金の粉」のように感じた。
人間の究極の願いは幸せに暮らすことだと思う。そのためには争いのない平和な世の中が絶対条件である。
21世紀を迎えるにあたり、様々な識者が20世紀を振り返って総括していた。「科学技術が発展した世紀」「経済発展の世紀」「情報革命の時代」等の意見もあったが、いちばん多かったのが「破壊と狂気の世紀」「戦争の世紀」「殺戮の世紀」というものだった。
1914年〜1918年の第一次世界大戦(死傷者:3750万人)、1939年〜1945年の第二次世界大戦(死者だけで5000万人を超える)など、20世紀は愚かな殺戮の世紀だったということができよう。
21世紀もまたそうであってはならない。
21世紀をどんな世紀にしたいかと問われるなら、私ならば迷わずに「戦争のない平和な世紀」と答える。
「不治の病の克服」「貧困からの脱却」なども大事だが、人類の究極の願いは世界平和だろうと思う。
世界平和は大きな理想である。うんちく講座No.144「ジョン・レノンの夢」でも触れたが、「理想ばかりを追いかけて現実を見ないのはいけない」などという人間もいる。
しかし、理想を語り、それに近づこうとするものこそが賢者であり、人間はそうあるべきである。
国民の生命と安全を守るために最低限の戦力は持つべきだという人もいる。よその国から与えられた憲法は日本語としてこなれていないなどということを口実に、世界に誇るべき平和憲法を変えてしまおうという人もいる。
たしかに現実だけを見ていれば、そういう考えも出てくるのかもしれない。しかし、そういう人々に理想はあるのだろうか。
我が国の安全を守るということは、見方によっては正論かもしれない。しかし、究極のところ、自分の利益を守る利権屋の発想であり、世界を正しい方向に導こうとする政治的指導者の発想ではない。
自国の安全を守るために戦力を増強することが、世界の平和に結びつくだろうか。
木刀やチェーンをぶらぶらさせたチンピラが向こうからやってくれば、誰しも身構える。それに負けないようにもっと強力な武器を準備したくもなるだろう。
しかし、無防備な赤ん坊が微笑みかけてきたら、それを武力で打ちのめそうと考える人間はいないだろう。武器を持っている人間さえ、それを捨てて赤ん坊を抱き上げるのではないだろうか。
日本が武器をぶら下げたチンピラになる必要はない。むしろ世界に向かって平和の尊さを訴える伝道師になるべきである。
「そんなことを言っても、○○の国では核ミサイルを持っているらしいし、○○国も指導者が狂信的な人物なので危ない‥‥」などと力説し、「だから我が国も憲法で認めて軍備を持つべきだ」というような人間は、20世紀の狂気と愚かさを引きずった亡者である。(軍備を増強することで潤う業界から圧力を受けているのかもしれないが‥‥。年間国家予算の8倍もの借金を抱える国が、さらに軍備に金をかけてどうしようというのだろうか。それよりも軍事予算の半分でも世界平和推進のために使うほうが、よほど賢明なことだと思う)
こういう人間には21世紀を任せられない。
自らの利益を優先し、世界の理想に目が向かない人間は愚者である。しかし、そういう人間は残念なことにたくさんいる。しかも自らの愚かさに気づいていない。
そんなときに、空から金の粉がふりそそいでほしいのだ。どんな人間もその金の粉をあびると、赤ん坊のような汚れない心を取り戻し、人間どうしが争わずに仲良く暮らすことの大切さに気づく‥‥
ジャクソンズのように金の粉をふりまいてくれる人はいないだろうか。
少なくても私たち教師は子供たちの心に平和の金の粉をふりそそぎ続けたいものだ。
21世紀の最初のうんちくとして書こうと思っていましたが、他のネタの仕上がりのほうが早かったので、ちょっと遅くなってしまいました。21世紀に人々の心に平和の金の粉がふりそそぐことを祈るのですが、そうではなく、空から死の灰が降ってくる21世紀になったりしないように願いたいものです。
<01.01.22>
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