マル秘算数成績向上法
なんという名称なのか知らないのだが、レクリエーション・ゲームの1つに次のようなものがある。
お互いに知らない人たちが集まる会などで、効果的な自己紹介ゲームである。
円卓形式で座り、最初の人は、「私は、佐々木です」というように自分の名前を紹介する。
次は隣の人が自己紹介をするのだが、その人は「私は、佐々木さんの隣の、山田です」と紹介しなければいけない。以下、次のようになる。
3番目の人:「私は、佐々木さんの隣の、山田さんの隣の、木下です」
4番目の人:「私は、佐々木さんの隣の、山田さんの隣の、木下さんの隣の、池部です」
と、これを続けていくのだが、最後のほうになると、「私は、佐々木さんの隣の、山田さんの隣の、池部さんの隣の、村上さんの隣の‥‥、加藤さんの隣の、大西さんの隣の、植村です」という具合になり、かなり難しい。
同席している人たちも、新しい人が紹介を言うたびに、「これまでの人の名前を間違えないだろうか。それから今話している人の名前はなんというのだろうか」ということを、一言も聞き漏らさないように聞くので、自然に最初のほうの人の名前は頭の中にたたきこまれてしまう。
これに、名前だけでなく趣味なども加えて、「私は、パチンコが趣味の佐々木さんの隣の、バイオリンが趣味の山田さんの隣の、ジョギングが趣味の木下さんの隣の‥‥」というようにすると、さらに難しくなり、同時にそれぞれのメンバーの趣味まで印象的に記憶される。
タイトルの「算数成績向上法」とあまり関係のないような書き出しになってしまったが、実は、このゲームの発想を算数の指導に使ってみようというのが、今回の主題である。
「数学」としないで、あえて「算数」としたのは、小学校の「算数科」が基礎的基本的内容を確実に定着させなければならない教科であり、その点で、発展的応用的な思考力の養成をねらい、しかも既習事項の定着度の個人差がかなり大きくなっている中学校以降の「数学科」では、そのまま使うことは難しいだろうと考えたからである。
(しかし、使い方次第では、中学校以降の数学科でもやれるかもしれない)
ひとくちに「算数」といっても、その学習内容は多岐にわたる。
学習指導要領の表現にしたがっておおざっぱに分けても「数と計算」「量と測定」「図形」「数量関係」という具合になるのだが、具体的に述べると、かけ算の勉強をしたかと思うと、三角形の面積の求め方を勉強し、時間と距離の関係を考えるというような具合である。

このような多様な内容を(もちろん相互に関係しあってはいるのだが)、系統的・効率的に学習していくために、小学校の6年間を見通して、「○年生の○月に、○○の内容を学習させる」という指導計画が組まれている。
しかし、内容によっては、小学校6年間の中で、たった一度しか学習しないようなものもあるし、3年生で学習したことが、1年後の4年生にならないと基礎事項として生かされないようなものも多い。
どの教師も、指導にあたっては、指導する内容の基本的な概念をなるべく深く理解させようとし、確実に定着させようと努力するのだが、ともすると、その指導が、その時期限定のものになってしまうということもあるようだ。
これでは、「私は佐々木です」「私は山田です」「私は木下です」‥‥という自己紹介のようになりかねない。
直前に紹介された人の名前はかろうじて覚えていても、最初のほうで自己紹介した人の名前はすっかり忘れてしまっているというようになってしまうのだ。
そこで、効果的なのが、次の方法である。
教科書では、一つの学習内容(教育現場では一般に「単元」という)が終わるごとに、2ページ程度の「まとめの問題」というページがある。
普通は、その単元が終わったときに、子供にその問題を解かせる。
これを、「私は、○○さんの隣の、○○さんの隣の‥‥」方式で、年間を通してやってみるのである。
もう少し具体的にいうと、最初に「大きな数」という単元を学習したとする。この学習が終わったあとで「大きな数」のまとめの問題をやるのは、ごく一般的なやり方である。
次に「四角形」の単元を学習したとする。この単元を終わった時点で、「大きな数」のまとめの問題と「四角形」のまとめの問題をやるのである。
次に「重さの単位」を学習したら、まとめの問題は「大きな数」「四角形」「重さの単位」をやる。
こうなると、1年間学習すれば、最後のほうでは、教科書の全ての「まとめの問題」をやらなければならないようになる。
子供にとっては大変だと思うかもしれないが、それほどでもない。
毎回、全く同じ問題をやるからである。
ここで、あえて別の問題を与えたりする必要はない。必ず同じ問題をやらせる。
最初のうちは、子供たちも苦労するかもしれないが、回数を重ねるにつれ、はじめのほうの単元の問題は、何も考えなくても、すらすらと式を書き、答が出せるようになる。(その単元を学習したばかりの頃は答を出せなかった子供も、繰り返しているうちに、目をつぶっても答が書けるようになる)
これでいいのである。
教科書の問題というのは、実にうまく作られてあって、本当に基本的なかたちに作問されてある。したがって、教科書の「まとめの問題」の解き方を全部身につけてしまえば、あとはその数値を差し替えるだけで、ほとんどの問題は解けるようになる。
このやり方について、「それでは単なる技能の教え込みではないか」という批判もあるだろう。
たしかに、算数科では、子供たちに基本的な数学的考え方を育成していくのが理想である。
小学校で、たった数週間の指導だけで、一生、その子の脳裏に焼き付いて離れないような指導ができれば、それで十分なのだが、そういう指導ができる教師がいたとしたら、それこそ天才である。仮にいたとしても日本に10人といないであろう(もちろん、私はその中にはいない^^;)
では、私のような凡人教師が、子供たちにきちんとした学力を身につけさせるとするなら、方法を工夫するしかない。
これまで述べたような方法をやったならば、1時間単位の算数科指導は稚拙であったとしても、1年間を通しての成果は大きいのではないかと考える。
算数科は積み重ね教科であり、それまでの既習事項がきちんと定着していなければ、次のステップの学習は困難である。(だから、いわゆる「落ちこぼれ」も多くなってしまう)
たとえ「技能重視」と批判されようとも、この方法によって、基本的な問題の解き方を身につけさせることのほうが、子供の算数の学力を向上させることに有効であると思うし、徐々に高度な内容に取り組むときの子供の困難を軽減させることができると考えるのだが、いかがだろうか。
この方法は、「うんちく講座」No.109「読書座談会記事文」で紹介した、私の最も尊敬する実践家のN川先生の講話に触発され、N川先生の実践をもとに、私なりにまとめたものである。
<99.07.20>
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