内発的動機づけ(達成動機)


 行動を起こさせる働きや過程は動機づけ(モティベーション)といわれています。動機づけにはいろいろな分け方がありますが、特に教育的な意味においては、外発的動機づけと内発的動機づけに分ける分け方が重要です。

 外発的動機づけとは、主として外からの力によって動機づけられる場合で、引き起こされる行動は目標に到達するための手段という意味を持ちます。例えば、賞や罰による場合、賞を得る、あるいは罰を避けるということが目標となり、そのために役に立つ行動が動機づけられるということになります。この種の動機づけには、その性質から、いくつかの教育的な問題点が内在しています。その一つは、外部からの力によって動機づけられるということから、他律的あるいは依存的傾向を助長するということ、また一つには、引き起こされる行動が手段的行動であるということから、望ましくない行動が引き起こされる可能性があるということ、などが考えられます。すなわち、外発的動機づけを強調・多用していると、言われなければ、あるいは賞や罰がなければしないという傾向が助長されやすいという問題性があることに注意しなければなりません。

 一方、内発的動機づけは、引き起こされる活動それ自体が目標である場合であり、何かのためにするのではなく、したいからするということをいいます。典型的には、好奇心による場合のように、見たいから見る、したいからする、知りたいから知ろうとするのです。このような場合には、外発的動機づけに見られるような問題性はありません。

 さて、達成動機とは、その定義に示されているように、自らの達成目標の達成そのものを目ざす行動を引き起こす動機のことで、いわゆる真の意味でのやる気に最も近い概念と考えられます。達成動機の強い者は、「達成=成功」の喜びを求めて努力する傾向が強く、弱い者、特に失敗恐怖の強いものは、成功を求めるよりは失敗を恐れて、目標の達成に対して消極的・回避的になる傾向が強いといえます。したがって、子どものやる気を育てるには、いかにして達成動機を強め、失敗恐怖を軽減させるかが重要です。

 達成動機も失敗恐怖も、達成に関係して与えられる種々の経験を通して形成され、発達するものですが、特に、達成動機は、成功経験、すなわち、成功の喜びや自己の有能さに対する満足感=有能感あるいは効力感によって、自己が低く、あるいは否定的に評価されることへの恐れによって強められるといえます。したがって、子どものやる気を育てるためには、子どもに達成の喜びを感じさせること、そして、失敗に際して、子どもが否定的に評価されることへの恐れを感じさせないことが大切です。

 達成の喜び、すなわち成功を経験するためには、まず、何を目標にするかという目標観が関係します。すなわち、成功とは目標の達成を意味しますから、達成可能な目標でなければならないのです。通常、子どもたちが抱く目標観には二通りのものがあるといわれています。一つは、客観的に良い成績を取ることを目標とするパフォーマンス・ゴールと、もう一つは、自分なりの能力の向上を目標とするラーニング・ゴールです。パフォーマンス・ゴールを目標とした場合、良い成績を取る能力のある子どもはよいのですが、能力の低い子どもには成功の見込みを持つことができないために、やる気を持つことはできません。これに対して、ラーニング・ゴールを目標とした場合には、自分なりの目標を達成すればよいのですから、誰にでも成功の可能性があることになります。

 このような目標の質の問題と同時に、目標の高さの問題もあります。目標が高すぎると、達成の可能性は見込めず、やる気が出てきません。また、目標が低すぎると、達成は当然のこととして、真の成功感は得られません。このような極端な目標が設定される傾向が、やる気の弱い者、特に失敗恐怖の強い者に見られます。それは、失敗するはずのない低い目標や、失敗しても当然と解釈される高い目標を立てることによって、失敗恐怖から自己を防衛するメカニズムが働くからで、真の意味での目標として機能しないという意味で、非現実的目標といわれます。これに対して、適度な高さの目標、すなわち、努力すれば達成可能な目標は、現実的目標といわれ、最もやる気を強めると考えられています。

 したがって、子どものやる気を育て強めるためには、いかにして、個々の子どもに適合した目標を設定することができるかということが重要です。そのための適切な配慮・指導が必要になるのです。

 成功経験を得るためには、目標を達成するための具体的方策を知ることも大切です。何をどのようにすればよいのか、という具体的やり方を知らなければ、仮にやる気があっても、目標の達成には至らないでしょう。このようなことは、特に、低学年の子どもや能力の低い子どもに多く見られます。このような場合には、ただ「やれ、やれ」と言うだけでなく、適切なやり方を指導しなければなりません。

 やる気のマイナス要素である失敗恐怖を低減させるためには、失敗に対する対処の仕方に留意しなければなりません。まず第一に、失敗は避けられないものであり、克服すべきものということを教えるという態度が必要です。次には、失敗に対して、その個人の能力を否定するように受け止められる評価や言動を与えないことが重要です。失敗は失敗として客観的に評価することはよいのですが、同時に、自信を失わせないような配慮、すなわち、励ましや、次に失敗しないためのアドバイスを与えていくようにしなければなりません。

 最後に、やる気を育てる上での自己評価の重要性について触れておきます。自己の結果について、他者からの評価によるのではなく、自らの評価によって成否を判断するという能力や習慣は、自律的学習態度の要因の一つであるだけでなく、個々の目標の達成を強調するということ、および、他者からの否定的評価を受けないということなどから、やる気を強めるのに効果的に機能するのです。

(下山 剛)                     

【教育心理別冊「教育・心理学の基礎知識」平成元年】より


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