○○ギターください
私は学生時代、秋田大学の「ロック研究会」に所属していた。私は創始期頃のメンバーなのだが、当時は、全然楽器ができない人でも入部を拒まなかった。ロックをやってみようという人であれば誰でも入会できたのである。
そうやって入ってきた人の中に、医学部の山口クンがいた。度の強い眼鏡をかけ、普通の日でもゴム長靴をはいた、かなり個性的な人であった。
彼はギターを弾けなかったが、ロックギタリストに憧れていたようだ。基本的な奏法などを教えると、ポケットからメモ帳を出して記録するこまめな人であった。しかし、なかなか技能は上達しなかった。
当時、ロックバンドはギターが主であった。(あまりキーボード奏者が入ったグループは少なかった)たいていのバンドにはギタリストが2人以上おり、リードギター担当の人は旋律を演奏することが多く、もう一人は「サイドギター」とか「リズムギター」とか呼ばれて、和音を演奏するコード奏法でリズムを刻むことが多かった。
山口クンの技能では、リードギターはちょっと無理だったので、サイドギターの奏法を主に教えた。彼はそのこともきちんとメモしていた。
少し曲らしいものを演奏できるようになった山口クン、自分でも楽器を持とうと、万札を数枚握りしめ、楽器屋に行った。
楽器屋に入った山口クンは、気合いを込めて叫んだ。
「あのー、サイドギターください!」
その後、山口クンは、せっかく買ったサイドギターもあまり上手にならず、ドラムに転向。それもダメだったのか、学業が忙しくなったのか、次第にロック研に顔を出さなくなった。それからの彼のことについてはよく知らない。
医学部卒だから、おそらくはお医者さんをやっていることと思う。今でもあの時に買ったサイドギターを弾いているのだろうか?、それとも新たにリードギターを買い求めたのであろうか?
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