コンダラを牽く



 「コンダラをひく」などというと「コントラバスを弾くのかな」と思う方もいるかもしれないが、そうではない。「弾く」のではなく「牽く」のである。

 この話は、私の周辺の野球関係者の間で、ある程度、一般化している事実である。

 グラウンドをならすためにひっぱるコンクリート製のローラーがある。ものによっては鉄板でくるまれたりしている。私の知っている中学校の野球部監督は、これを野球部員にひっぱらせるときに、「オイ!コンダラひけ」と言う。部員はすぐにローラーをひきはじめる。

 この監督、私と同世代である。私らの少年時代、野球マンガでいちばん人気があったのが、梶原一騎原作、川崎のぼる画の「巨人の星」であった。主人公の星飛雄馬と父親の星一徹は、今でも多くの人から知られているであろう。

 少年マガジンに連載されていたこの野球漫画はまもなくTVアニメ化された。オープニングには青雲高校野球部で星飛雄馬がこのローラーを牽く場面が出てくる。そしてバックに流れるあの有名な主題歌!「おもいーこんだら、試練の道を、行くが男のド根性!」

 わが友人の野球部監督は、これを「重いコンダラ」だと解釈した。そして、このように重いコンダラ(実はローラー)を牽いて試練に耐えることこそ、根性を鍛える道だと、幼心に深く刻み込んだのであった。

 このように思いこんだ人がかなりの数だったのだろう。私が中学生の頃、野球部の部員は、例のローラーを「コンダラ」と呼んでいた。あるいは勘違いに気づいたけれど、面白かったので「コンダラ」と言っているうちに、いつのまにか「コンダラ」だけが定着したのかもしれない。

 学校によってはローラーではなく、古タイヤにロープをつけたものをコンダラと呼んでいるところもあると聞く。そういえば、もともとの「巨人の星」の映像では、ローラーではなく古タイヤをひっぱってウサギ飛びをしていたような気もする。

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