こわい話


 面白い話ができる教師は子供に人気がある。きちんと授業もしないで無駄話ばかりしているのはよくないが、ちょっとした授業の余り時間や休み時間などに笑い話や怪談など子供が目を輝かして聴くような話ができる力はあったほうがよいと思う。
 そのためには、話術をみがくことと、ネタを仕込んでおくことが大事だ。その参考にでもなれば、ということで、少々怖い話を一つ紹介しよう。

 田舎の古い農家の場合、家(建物)の構造はだいたい共通している。岩手県に行けば南部曲がり屋という建物があるが、ほぼあのようなかたちである。茶の間には仏壇があり、仏壇の裏側に北向きの小さな部屋がある。北に向いた小さな窓の他はほとんど光が入らない暗い部屋で、たまに若夫婦の寝室として使われることもあるが、大半は「ワカゼ」か「メラシ」の部屋として使われていたようだ。

 ワカゼ・メラシというのは貧農の子供などが大きな農家に住み込みで働きに来ているもので、いわゆる使用人である。ワカゼが男性、メラシが女性で、ほぼ下男・下女のような待遇で働かされていた。朝、暗いうちからたたき起こされ、一日いっぱい働かされて、夜はこの部屋でボロ雑巾のように眠る。なかには体調を崩し、重い病に冒され、そのまま命を失ったものも多いと聞く。そんなワカゼ・メラシたちの怨念が染みついているのが、この仏壇の裏の狭い部屋である。

 今となっては、誰も住んでいないこの部屋だが、時がたっても怨念だけは消えずに残っているのだろう。あるいはまだ幼いワカゼ・メラシたちが自由に遊びたいという気持ちが子供の姿をかりて現れるのかもしれない。この部屋にはザシキワラシというモノノケが住みついており、月の光がない新月の夜には、不思議な現象を起こすという。それが以下に述べる現象である。

 新月の夜、深夜零時になるのを待って、5人の人間が、この部屋に入る。そのうちの一人は、この儀式の進行を司る人間なので、この人がロウソクを手に、部屋に入るのを先導する。あとの4人は、部屋の四隅にそれぞれ位置する。

 進行役の一人は、他の4人が部屋の隅に位置したのを見届け、ロウソクを吹き消す。真の闇である。そして、手探りで部屋の壁をつたいながら、4人のうちの一人の肩をたたき、そのまま退室する。

部屋に残ったのは4人。そのうち一人は進行役から肩をたたかれている。肩をたたかれた人は、壁をつたって、左側に移動し、そこで手に触れた人の肩をたたく。たたいた人は、その場にとどまり、たたかれた人は今度は自分が左方向に移動しなければならない。

 ここで、じっくり考えた方はお気づきのことと思うが、この儀式、普通であれば一回りしたところで終わってしまうはずである。4人のうち、最初にスタートした人のいた場所は誰もいなくなってしまうので、4人目の人がそこに着いたときには肩をたたくべき人間がいないはずなのである。

 ところが、ときとして、この肩たたきリレーの儀式、いつまでも終わらないことがあるという。つまり、最初にいた4人の他に、もう一人誰かが、この部屋に存在するのである。ただ、この場に居合わせた4人は、誰が最初に肩をたたかれているかが分からないので、自分の肩をたたいているのがザシキワラシなのか、それとも自分が今、肩をたたいたのがザシキワラシなのか判断することはできないのだ。

 このリレーが続くということは、なんらかの不思議な現象が起きているということだと分かっても、恐怖にかられて途中でこの儀式を中断することは許されない。そうするとこの部屋にいる全員がたたり殺されてしまうからだ。それでも落ち着いて続けていると、ザシキワラシは自然にいなくなってしまうか、一番鶏のときの声で消えてしまう。

 この現象は、一般に古い農家のワカゼ部屋で起こるが、場合によっては、学校の教室や、一般家庭の部屋でも起こることもあるという。

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