裏日本
30歳あたりからの若い人は聞いたことがないかと思うが、私が少年時代には「裏日本」という言葉があった。日本海側の地域を指す言葉だったと思う。東北の日本海側や新潟県あたりを指していたのは確かだと思うが、山陰地方あたりまで含んでいたかどうかはよく覚えていない。NHKの天気予報でも「『裏日本』では明日、大雪となるでしょう。」などという具合に使っていたのだが、「差別用語」ということになり、いつしか使われなくなったようだ。
秋が深くなると、東北の日本海側では天気の悪い日が多くなり、空が黒い雲で覆われる日が続く。この時期に太平洋側の地域に旅行などすると、空の色があまりに違うことに驚かされる。そして「裏日本」という言葉をしみじみ実感するのである。
私の個人的な感覚からすれば「裏日本」という言葉が差別用語だという気はしない。むしろ私たちの地域の特徴を一言でうまく言い表した言葉だと感心さえする。
天気のことはもちろんだが、近頃、私の住む地域は交通の便からみても、まさに「裏日本」そのものである。新幹線も通らない。(秋田新幹線はあるが、私のところから秋田新幹線に乗るためには1時間以上かかる)。高速道路も通っていない。いわゆる「表日本」に行くためには長い時間がかかるのである。
ただ、そのことが悪いことだとは思わない。最近、「縄文時代」についての講演を聞いたが、一般に「暗くて、汚くて、貧しい」(弥生時代等に比較して)と思われている縄文時代が、実は「明るく、開放的で、自由だった」という内容であった。
東京や仙台に行くには不便な私の地域だが、表日本や中央が良いという考え方にとらわれなければ、けっこう自由で豊かな地域なのかもしれない。「裏」という言葉は、「表」に対して、「別の意味の」「別の価値観の」という意味にも使われる。「裏の実力者」「裏の総理大臣」などという言葉もある。
この際、開き直って、元気な「裏日本」で暮らすことを自慢していくのもいいのかもしれない。
ホームページに戻る
前のページへ