安売り乾電池長もち実験


 近ごろ、100円ショップにはまっている。ちょっと前までの100円ショップは店舗も小さく、品数もそんなになかったので、私はあまり店に入ることもなかったのだが、最近になって、全国にどんどん店舗を増やしている「ダイソー」が、うちの近所にもいくつか出店してきた。

 興味本位で覗いてみたら、「これがホントに100円で買えるの?」という商品がたくさん並んでいた。

 ちゃんと作動する時計やストップウォッチも100円。試しに買ってみたが、なかなかのものである。



 中でも私のお気に入りは100円CDである。音楽CDは「まあ、若干のお買い得かな」というレベルだが、浪曲や落語の名演を収録したCD(カセットテープもある)はお勧めである。私は父親に落語と浪曲のカセットを15巻プレゼントしたが、これで1575円(消費税込み)。安い買い物である。浪曲や落語を勉強(それほど大げさなことでもないのだが)してみたいという場合、3千円も出せば、いっぱしの通になれるだろう(^^;)



 100円ショップも慈善事業ではないので、中には店が大きく儲ける商品もあるようだ。カップ麺や飲み物などはスーパーマーケットで買った方が安いというものもあるようだし、他にも他の店で買えば100円より安く買える商品もある。こまめに販売価格のデータを調べて、100円ショップで買った方が安いものだけを買うのが賢明な利用法だと思うが、1個100円という気安さにつられて、ついついいろんな物を買ってしまう(^^;)これが100円ショップの商売上手なところかもしれない。



 そんな中で、割安感が大きいのが乾電池である。

 単3乾電池で、マンガン電池だと8個入り、アルカリ電池だと4個入りが100円で売られている。一般の電気店の販売価格よりもはるかに安い。

 この乾電池の品質はどんなものだろうか。「安かろう悪かろう」というイメージもあるのだが、仮に電池のもち時間が一般の電池の80%程度で、価格が半分以下だとしたら、100円ショップの乾電池を買った方が得ということになる。



 というようなことを、娘(現在、小学5年)と話した。ちょうど夏休みだったので、娘の自由研究にこれを取り上げることにした(^^;)

 以下に述べるのは、娘の研究結果である。なかなか面白いことがわかったので、ここでも発表することにした。まあ、娘と私との共同研究ということにしてもらいたい(^^;)



◎ 5種類の電池を準備する

 実験の基本は「100円ショップの電池のもち具合は一般電気店の電池と比較してどうか?」ということなのだが、マンガン電池とアルカリ電池の違い、さらに最近電気店で見かける「デジカメ長もち撮影用」などと銘打ったニッケルマンガン電池との違いにも興味があったので、次の表のように5種類の電池を購入してみた。

電 池 の 種 類 100円ショップの
マンガン電池
100円ショップの
アルカリ電池
一般店の
マンガン電池
一般店の
アルカリ電池
ニッケル
マンガン電池
販 売 価 格8本で100円4本で100円4本で240円4本で440円2本で360円
1本あたりの価格12.5円25円60円110円180円
安マンガン価格
との比較
1倍2倍4.8倍8.8倍14.4倍




 一般店のマンガン電池・アルカリ電池は、「長もち大電流パワー」がキャッチフレーズのN社のものにした。大型家電店などでは、8個パック・12個パック・20個パック等でもう少し安く売られているが、今回は一般的な価格ということで、大型家電店で4個パックで売られているものにした。(それでもメーカーの希望小売価格よりは安いのだが)ニッケルマンガン電池も同じN社の製品を購入した。



◎ 小型扇風機で連続使用

 この5種類の電池の長もち具合を調べるのだが、下の画像のように単3電池を2本使用する手持ち型の電池式小型扇風機を使用することにした。



 5種類の電池を入れたそれぞれの扇風機のスイッチを同時にオンにして、羽根の回転が止まるまでの時間を調べるのである。

 前もって行った予備実験では、一度羽根の回転が止まっても、しばらく休ませれば、また動くことがわかったので、回転が止まった時点から2時間休ませて、もう一度電源を入れて止まるまでの時間も計ることにした。

 扇風機の回転だけでは電池の減り具合があいまいなので、スイッチを入れる前と、回転が止まった直後の電池の電圧も測定することにした。



◎ 実験の結果

 その結果を一覧にしたものが次の表である。


100円ショップの
マンガン電池
100円ショップの
アルカリ電池
一般店の
マンガン電池
一般店の
アルカリ電池
ニッケル
マンガン電池
1.最初の電圧(ボルト)1.651.601.651.601.65
2.扇風機が止まるまでの時間(分)243210195167184
3.止まったときの電圧(ボルト)0.600.600.750.750.75
1.101.201.10
4.休止2時間後の電圧(ボルト)1.101.251.251.301.30
5.2回目に止まるまでの時間(分)2926535513
6.2回目に止まったときの電圧「3」とほとんど同じ結果




◎ 結果の考察

 上の表だけではわかりにくいが、実際に実験してみると想像もしていなかったような意外な結果がたくさん出てきて、「へぇー!」の連発であった。以下、ポイントごとにまとめてみる。



★ 新品の電圧は1.5ボルトより高い

 乾電池(単1・単2・単3・単4など)は、電圧が1.5ボルトということになっている。しかし新品の場合にはそれよりも高い電圧であった。この実験では、マンガン電池とニッケルマンガン電池が1.65ボルト、アルカリ電池が1.6ボルトであった。私にとっては初めて知る事実であった。



★ 100円ショップのマンガン電池がいちばん長もちした!

 価格から考えれば「一番安いものが一番長もちしないだろう」というのが実験前の予想であった。

 ところが結果は逆で、一番長もちしたのが、100円ショップのマンガン電池であった。反対にもちが悪かったのが、2番目に価格が高い一般店のアルカリ電池だった。

 1回目のもち時間に2回目のもち時間を加えて表示したのが、下のグラフである。安いものほど長もちするという意外な結果になってしまった。





★ 出しているパワーは違うのだが‥‥

 ただし、上のグラフは「扇風機が完全に止まるまで時間」を表示したのであって、扇風機の羽根の回り方にはずいぶんと差があった。

 電源を入れてすぐのときには、どの電池を入れた扇風機も勢いよく回るが、数分もたつとマンガン電池の扇風機は回転が弱くなる。1時間たった時点ではマンガン電池は弱々しい回転になるし、アルカリ電池も回転の勢いがかなり落ちてくる。ニッケルマンガン電池はスイッチを入れたときとほとんど同じような力強い回転であった。

 2時間半ぐらいの時点では、マンガン電池の回転は目に見えて弱くなる。アルカリ電池(一般店のもの)はこのへんでガクンと回転が落ち、それから10数分で回転が止まってしまった。ニッケルマンガン電池はまだ勢いよく回っているので「優勝はこの電池かな(^^;)」と思っていたら、3時間ぐらいのところで急激に回転が落ち、すぐに止まってしまった。

 マンガン電池は、3時間経過のあたりでは、いつ止まってもおかしくないような弱々しい回転になってしまうのだが、それでもねばり強く回り続け、100円ショップのマンガン電池はなんと4時間過ぎたあたりでやっと止まった。

 2時間休ませて再びスイッチを入れると、マンガン電池は弱い回転でスタートし、それでもまた弱々しい回転で長もちした。アルカリ電池はかなり力強い回転でスタートするが少しすると回転が落ち、まもなく止まってしまった。ニッケルマンガン電池は新品同様の勢いで10数分回り続け、「突然に」という感じで回転が止まった。

 そのイメージをグラフのようにしたのが下の図である。(正確に電圧を測っていたわけではないので、あくまでも扇風機の回転をめどにしたイメージなのだが‥)



 極論すると、高価なニッケルマンガン電池は、電池の寿命になるまで高い電圧を維持し続けるし、マンガン電池は電圧がどんどん下がりながらも細々と仕事をし続けるということになる。アルカリ電池はニッケルマンガン電池に近い特性を持つということになる。

 上の図に、「高い電圧を必要とする場合」を緑の直線、「低い電圧でも作動する場合」を茶色の直線で示したのだが、デジカメのように高い電圧がなければ「電池切れ」ということにで使えなくなる機器だとニッケルマンガン電池が最適ということになる。この場合はマンガン電池だとすぐに「電池切れ」になってしまう。

 反対にラジオとか懐中電灯のように、とりあえず低い電圧でも用をなすという機器であればマンガン電池を使ったほうが合理的である。



★ 安売り電池は復旧力が低い

 この実験の結果をみると、100円ショップの電池に軍配が上がるようだが、実験は連続使用の状態で行ったので、日常生活で一般的な「一定時間使用して、長い時間休ませ、また使う」というやり方だと違った結果になるはずである。

 2時間休ませて行った実験を結果をみると、一般店の電池のほうが、マンガン電池でもアルカリ電池でも、100円ショップの電池よりも2倍の時間もつことがわかる。つまり価格が高い一般店の電池は、連続使用では長もちしないように見えるのだが、復旧力が高いので、こまめに休ませて使うというやり方ならば100円ショップの電池よりも長もちするという結果になるだろう。

 この差は、一般店の電池の材質の良さや構造の違い等が影響しているのではないだろうか。「長もち大電流パワー」というキャッチフレーズも実際の使用では誇大広告ではないと思う。



★ 安売り電池のほうが新しいはず

 100円ショップの電池は文字通り「飛ぶように」売れている。店頭の在庫が無くなって「明後日でないと入荷しません」などと言われることもある。したがって100円ショップの電池は常に新しいということになる。

 ところが今回の実験に使った一般店の電池は、あまり商品の回転がよくないものだと思う。一般店では単3電池が8個パック・12個パック・20個パックなどで売られており、電池1本あたりの単価はそちらのほうが安くなっている。今回の実験で使ったような4個パックの商品を買う人は少ないだろう。今回買った電池も、もしかしたら店頭に並んでいる期間が長くて、若干劣化していたのかもしれない。完璧な新品で実験をしたら、もう少し違った結果が出た可能性もある。



★ アルカリ電池は変わった減り方をする

 実験の結果の一覧表をご覧いただくと気づく通り、アルカリ電池とニッケルマンガン電池の「止まったときの電圧」の数値が2段になっている。これは実験に使った扇風機が単3電池2本を入れるものであって、扇風機が止まった時点で2本の電池を取り出し、その電圧を測ってみたら、2本の電圧が大きく違っていたためである。

 いずれの場合も、2本の電池のうちプラス(+)側の電池の電圧が大きく低下しており、もう1本(マイナス側)の電圧は「1.1〜1.2ボルト程度」とあまり下がっていなかったのである。(電池の発熱もあって、これはアルカリ電池特有の現象であった)

 この2本の電池は2時間休ませると、どちらも1.3ボルト程度に復旧した。念のため、1回目に停止したときと2回目に動作させるときの電池の位置を入れ替えて追加実験してみたが、やはりプラス側の電池だけが電圧低下を起こしていた。

 このような現象は、電池2本を直列につないだときのアルカリ電池(ニッケルマンガン電池も)の特性なのかもしれないが、今回のような実験を電池1本だけで作動する機器で行えばどのような結果になったか興味深いところである。

 また、電圧があまり低下しなかったマイナス側の電池だけを2本使って、引き続き動作させればどうなるかという実験も、今回はできなかったが、面白そうである。



◎ 安さは魅力

 前述したように、個々の電池にはそれぞれ特性があって、使用する機器によっては、高価であってもその機器専用の電池を使ったほうが結果的には得になるということもあるようだ。

 しかし、電池1本あたりの単価が、12.5円(100円ショップのマンガン電池)、25円(100円ショップのアルカリ電池)というのは大きな魅力である。値段が5倍もする電池を使うよりも、安い電池を何個も買う方が合理的である場合もある。特に電圧が低くても作動するような機器を使う場合には、100円ショップのマンガン電池を使うのが大いに得である。

 「安売り乾電池は品質的に大きく劣るのではないか」と考えて、この実験を行ったのだが、「品質的には全く問題がない」ということができるだろう。

 電池の特性や用途をきちんと理解した上で使うならば、私は100円ショップ乾電池の利用を強くお勧めしたい。
<03.08.11>

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