自分のキーを調べる曲
カラオケで歌うと自分の声の高さに合わない曲がある。
特に女性歌手の曲を、男性である私が歌うと、キーが高すぎて苦しかったり、かといって1オクターブ下げて歌うと低い方の音が出なかったりで具合が悪いことがある。
今のカラオケはキーを上げたり(♯)下げたり(♭)することができるので、調整が可能だが、どのくらい上げたり下げたりすればよいかは、何度も試行錯誤しなければならず、なかなか難しい(^^;)
声の出る範囲を音符で表すと、個人差がある。
これは、声帯の長さや厚さと、声の使い方が関係するのだそうだが、一般的には一番下の音から一番上の音まで2オクターブもあれば、「音域が広い」と呼んでもよいだろう。
私の場合は、まがりなりにも「自称ロックボーカリスト」(^^;)なので、一般の方よりは音域が広い。私が(裏声を使わない)地声で歌えるのは、次のような範囲である。
ただし、これは「とりあえず歌声として出せる」という範囲なので、「歌って気持ちがよく、聞いている人にも不快感を与えない」という音域は、上の図の音域の半分程度である。
歌を歌うときには、無理のない程度に高めのキーで歌うと、声に張りが出て美しく聞こえる。
それよりも高いキーで歌うと、歌っていても苦しいし(上の音が出せないこともある)キンキン声になってしまって聞き苦しい。反対に低いキーで歌うと、張りのない歌になってしまう。
では、自分にちょうど合ったキーを見つけるにはどうしたらよいだろうか。
ピアノが上手な人にお願いして、いろいろなキーで伴奏してもらい、どのキーが自分に合うのかを探すのがよい方法なのだが、そういう条件に恵まれる人は少ないだろう。
カラオケのキーコントロールを利用して、自分に合ったキーを探すこともできるが、それが楽譜上のどの範囲になるのかは、わかりにくい。
そこで、私が発見したのが(^^;)次の方法である。
まずは、歌わないでしゃべってみる。
ぼそぼそしゃべるのではなく、放送局のアナウンサーにでもなった気分で、張りのある声でしゃべってみる。
そのときしゃべる言葉は「これが私の普通のしゃべり方です」である。
これを何度かしゃべったら、「普通」という部分を伸ばしてみる。
「これが私のふつーーー」と伸ばすのである。
この「つーー」の音の高さを維持したままで「きよしこの夜」を歌ってみよう(^^;)
「これが私のふつうーー♪ーよしーこーのよーるー」と歌うのである。
「きよしこの夜」をハ長調で記譜すると、下のようになる。
「つーー」と伸ばした音の高さ(音程)は、上の楽譜の「ソ」にあたることになる。
この曲で多く使われるのが、「ソ」から「上のレ」あたりの範囲である。自然に話したときに、「ふつー」にあたるあたりの声が、歌声として一番歌いやすく聞きやすい音程になる。
自分の声で一番よく響くこの高さを、「きよしこの夜」の「ソ」の音として使うのである。
「きよしこの夜」の楽譜をご覧になってわかるように、この曲はとても広い音域を必要とする曲である。(下の「ド」から上の「ファ」まで)
自分の話し声で、よく響く高さの音を「ソ」に設定して、この曲を歌うと、一番高い音である「上のファ」のあたりを出すにはけっこう苦しいかもしれない。しかし頑張ればなんとか歌えるはずである。「ねむりたもう」の部分は高い音が連続するのできついが、ここは聞かせどころであるので頑張ろう。どうしてもここの音が出ないという場合には、「ふつーー」という歌い出しの音をもう少し下げて再挑戦してみよう。
曲の最後の「ド」の音は、かなり低くて出しにくいと感じるかもしれない。
この音が、歌声として使えるような響きで出せれば、今歌っているキーが自分に合ったキーということになる。もし、この「ド」の音は出るには出るが、低すぎて歌声としては響きが足りないという場合は、少しキーが低すぎるということになる。そのときはもうちょっとキーを上げてみよう。
こうやると、自分の音域に合った(きよしこの夜の)キーを探すことができる。
そこで、「きよしこの夜」の最後の音(ド)が、ピアノで何の音にあたるか調べてみよう。「♪ゆーめやーすくー」と歌って、「くー」の音を伸ばしたまま、その音と同じ高さの音をピアノの鍵盤で探すのである。(絶対音感でもない限りはぴったりの音はないはずなので、一番近い音を探すとよいだろう)
私の場合は、これがだいたい「ド」になるが、皆さんはいかがだろうか。
男性の場合は、「ド」よりちょっと低い「シ」や「ラ」になるかもしれないし、女性の場合は「ミ」とか「ファ」あたりになるかもしれない。
それをもとにして、下の図でキー(調)を探してみる。
「きよしこの夜」を歌うのであれば、ここで見つけたキーで歌うとちょうどよいということになる。
つまり、「♪ゆーめやーすくー」の「くー」の音が、ピアノの鍵盤で探したら「レ」だったという人は「ニ長調」で、「ラ」だったという人は「イ長調」で歌えばよいということになる。
実際には、ここに示したキーの他に「B♭」(変ロ長調)、「E♭」(変ホ長調)などがよく使われるが、ここでは省略してある。
これで、自分に合ったキーがわかったといっても、「きよしこの夜」を歌うときにちょうどよいキーがわかったということで、世の中の全ての曲を(私の場合であれば)「ハ長調」で歌うとちょうどよいということではない。
曲によっては、メロディの多くの部分を、「ドレミ」のあたりで展開しているものもある。これを「ハ長調」で歌うと低い声になってしまうし、かといって1オクターブ上げてしまえば高すぎて苦しい。
こういう曲の場合は、「ヘ長調」か「ト長調」あたりにすると具合がよい。歌声が楽に美しく出せるのは、だいたい(ハ長調でいうと)「ミ」から「上のド」のあたりなので、「ハ長調」で「ドレミ」が多い曲は、「ヘ長調」にすれば(ハ長調読みの)「ファソラ」になるし、「ト長調」にすれば「ソラシ」になる。
文章ではわかりにくいので、下の例の楽譜をご覧いただきたい。
これは、音楽の教科書にも載っているコンバース作曲の「星の世界」である。
楽譜でピンク色に塗られている部分が、いわゆる「良い声で歌える」音域である。作曲者は、この音域でメロディの多くの部分を展開するように、意図的に「ヘ長調」の曲にしている。
これを「ハ長調」にすると、上の楽譜の下段のようになってしまう。これだとキーが低すぎて歌いにくいということがおわかりだろう。
次の例も同様である。
文部省唱歌の「茶つみ」である。「ト長調」で書かれた原曲がほとんど「良い声で歌える」音域に入っているのに対して、「ハ長調」にすると下で歌っても上で歌っても「苦しい」音域になってしまう。
このように、作曲家は歌を作るときに、一般的な人が楽に美しく歌えるようにキーを設定している。
しかし、「良い声で歌える」音域には個人差があるので、必ずしも原曲通りのキーが全ての人に合うわけではない。そのときに役立つのが、私の「きよしこの夜キー判定法」(^^;)である。
「ゆーめやーすくー」の「くー」の音が、私のように「ド」あたり(「レ」とか「シ♭」あたりでもよい)だと「一般的なキー」の人ということになるので、文部省唱歌のような普通の曲は原曲通りのキーで歌うのがちょうどいいのだが、「きよしこの夜キー判定法」で「くー」の音が「ファ」・「ソ」・「ラ」あたりになった人は、原曲通りではなくキーを変えて歌ったほうがよいかもしれない。
例えば、「くー」の音が「ド」よりも低い「ラ」だったとしたら、原曲が「ヘ長調」の「星の世界」の場合、「ニ長調」あたりで歌うと具合がよいだろう。
自分は一般的なキーよりどの程度低い(高い)と楽に美しく歌えるかということを知っておけば、歌を歌うことが楽しくなるのではないだろうか。そのためにも「きよしこの夜キー判定法」をご活用いただきたい(^^;)
ところで、「文部省唱歌のような普通の曲」ならこれでよいのだが、いわゆる「歌手がCDで歌っている曲」などには、これまで述べたことがあてはまらないこともある。
プロ歌手というのは、どちらかというと「一般的でない音域」の人が多いからである。もう少し正確に言うと、「一般的な音域でもちゃんと歌えるが、一般的でないような高い(低い)音域の声も美しく響かせることができる」のである。
しかも、プロ歌手は、一般の人では出すことのできないような高い(低い)音域の声を売り物にして、その部分の音を多用するようなキー設定で歌っていることが多い。
例えば「レッド・ツェッペリン」のロバート・プラントや、「ディープ・パープル」のイアン・ギランと同じキーで歌おうとすると(実際、私もやってみたことがあるが)脳の血管が破れてしまいそうになる(^^;)
「低音の魅力」のフランク永井の曲なども逆の意味で一般の人は歌えない(^^;)
プロ歌手は、自分の声が一番美しく聞こえるように、キーの設定に気をつかっているわけである。
市販の楽譜集などを見ると、♯や♭がたくさんついた(楽器で演奏するには)難しいキーになっていることも多い。
Misia(ミーシャ)の曲では「♯」が6個もついた「F♯」のキーになっている例を見たことがある。あと半音下げれば「♭」が1個の「F」(ヘ長調)になるし、半音上げれば「♯」が1個の「G」(ト長調)になるので、ピアノなどの楽器で演奏するにはとても楽になるのだが、あえてその中間の「F♭」にした(ピアノで弾こうとすると超ムズカシイ)のは、Misiaの声を一番美しく響かせるキーはこれしかないということにこだわったからだろう。すごいことである。
ちなみに器楽曲の場合も同様なようで、楽器の音色を一番美しく聞かせるということを配慮してキーを決めるようだ。音感のよくない私などはあまり気づかないことも多いのだが、自分で楽器をいじってみると、たしかにキーを半音や1音上下するだけでも、楽器の音色の輝き・きらめき・張りなどが微妙に違ってくるように感じる。
人間の声の場合も、最適なキーを見つけて歌うということは大事なことだと思う。
<03.07.05>
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