学級閉鎖のめやす



 毎年、この時期(1月下旬〜2月)になると、インフルエンザが流行して児童生徒の欠席も多くなり、学級閉鎖や学年閉鎖・休校の措置をとったなどというニュースを聞く。



 ご存知のように、インフルエンザ(流行性感冒)は、一般の風邪(普通感冒)とは違い、強い全身症状が現れ、生命にも関わる伝染病である。(下表参照)

インフルエンザ
(流行性感冒)
インフルエンザウイルスによる。ウイルスを吸収して
1〜2日後に突然発病する。39度以上の高熱、悪寒
頭痛、咳、全身倦怠感などの症状が出る。1週間ほど
症状が続く。
風邪(普通感冒)
一般ウイルスによる。鼻から喉までの炎症の総称。喉
の痛み、くしゃみや咳などの症状が出る。熱は38度
程度までしか上がらない。安静にすれば1〜2日で症
状が治まる。




 学校教育法や学校保健法でも、インフルエンザ等の伝染病が発生した場合、状況に応じて出席停止や臨時休業等の措置をとることができるとしている。

 関係法規の内容は以下の通りである。



学校教育法施行規則第48条

[臨時休業]
非常変災その他急迫の事情があるときは、校長は、臨時に授業を行わないことができる。この場合において、公立小学校についてはこの旨を教育委員会に報告しなければならない。(他の条項により中学校・高等学校・幼稚園でも同じ)


学校保健法第12条

[出席停止]
校長は、伝染病にかかっており、かかっておる疑があり、又はかかるおそれのある児童、生徒、学生又は幼児があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる。


学校保健法第13条

[臨時休業]
学校の設置者は、伝染病予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる。


学校保健法施行規則第19条

学校において予防すべき伝染病の種類は、次のとおりとする。

第一類
コレラ、赤痢(疫痢を含む)、腸チフス、
パラチフス、痘瘡、発疹チフス、猩紅熱、
ジフテリア、流行性脳脊髄膜炎、ペスト及
び日本脳炎
第二類
インフルエンザ、百日咳、麻疹、急性灰白
髄炎、ウイルス性肝炎、流行性耳下腺炎、
風疹、水痘及び咽頭結膜熱
第三類
結核、流行性角結膜炎、急性結膜炎、その
他の伝染病


学校保健法施行規則第20条

令第5条第2項の出席停止の期間の基準は、前条の伝染病の種類に従い、次のとおりとする。

第二類の伝染病にかかった者については、次の期間。ただし、病状により学校医その他の医師においてその伝染病の予防上支障がないと認めたときには、この限りでない。

インフルエンザ
解熱した後2日を経過するまで。
百日咳
特有の咳が消失するまで。
麻疹
解熱した後3日を経過するまで。
急性灰白髄炎
急性期の主要症状が消退するまで。
ウイルス性肝炎
主要症状が消退するまで。
流行性耳下腺炎
耳下腺の腫脹が消失するまで。
風疹
発疹が消失するまで。
水痘
すべての発疹の痂皮化するまで。
咽頭結膜熱
主要症状が消退した後2日を経過するまで。




 ということで、学校でインフルエンザと診断された児童生徒が出た場合、その児童生徒は出席停止になる。実際には学校側で出席停止を命じなくても高熱や頭痛等で出席できない状態にあるわけだが、この場合、出席簿での扱いは一般の「病気欠席」とはならず「出席停止」扱いになるわけである。(出席簿や指導要録では「出席すべき日数」という欄があり、普通は授業日数がそのまま「出席すべき日数」になるわけだが、「出席停止」があった場合、その児童生徒の「出席すべき日数」は授業日数から出席停止日数を引いた日数になる。「忌引き」の場合も同様の扱いとなる)

 インフルエンザの場合、出席停止の期間が「解熱した後2日を経過するまで」(あるいは医師が伝染病予防上支障がないと認めたとき)ということに注意しなくてはならない。

 インフルエンザの伝染期間は発症から3〜5日程度(小児の場合は7日程度)となっている。発症後5日程度で熱が下がっても、その後2日程度はインフルエンザウイルスを出していると考えられる。

 熱が下がったからとすぐに出席すれば、他の児童生徒を感染させてしまうおそれもあるので、出席にあたっては保護者に児童生徒の病状をきちんとたずね、平熱に戻ってから2日が経過したこと(あるいは医師が出席を許可したこと)を確認してから、出席停止を解除しなくてはならない。

 インフルエンザにかかると、発症後3日程度で一度熱が下がり、その後2日ほどしてまた高熱を出すという例も多い。この場合は2度目の高熱が下がってから2日の経過が必要である。このような例も多いので、解熱後2日の経過をみるということが大事である。



 インフルエンザの発症が少人数の場合には、個々の児童生徒への出席停止という措置で対応できるが、発症者が多い場合には、学級あるいは学校としての「臨時休業」いわゆる学級閉鎖等の措置が必要になることもある。

 多くの児童生徒が長時間いっしょに暮らす学校という場は、インフルエンザ伝染の危険性も高い。伝染を予防し、発症した児童生徒の病状が回復するのを待つためには、学級閉鎖あるいは学年閉鎖・休校という措置も効果が大きい。



 では、どの程度の児童生徒が欠席および罹患したら、閉鎖の措置をとるべきなのだろうか。

 このことについて調べてみたが、学校関係法規の中にそれに当たるものはなかった。基本的には学校医等の医療関係者に相談をし、指示をあおぐことになる。

 ただ、茨城県で昭和52年に県教育委員会教育長通知として出されている例を、「茨城県保健福祉部保健予防課」のホームページの中に見つけた。それによると「学級等における欠席率が20%に達した場合は、学級閉鎖、学年閉鎖及び休校等の措置をとる」を措置基準としている。

 全国的な公式文書ではないのだが、ひとつの基準と考えてもよいだろう。



 「欠席率が20%に達する」となると、「30人の学級の場合は6人の欠席」、「100人の学年の場合は20人の欠席」、「500人の学校の場合は100人の欠席」ということになる。

 いずれの場合も、かなり深刻な状況であるから、閉鎖の措置をとるのは当然かもしれない。

 「欠席はしていないが風邪気味で出校している」という「罹患出席者」の割合については、学級閉鎖等の措置をとる基準はないようだ。「風邪気味」といってもいわゆる「普通感冒」の状態で「くしゃみや鼻水、咳などの病状があり、特に病状が急激に悪くなる者は少ない」という状態であればインフルエンザの可能性は低いだろうし、「風邪気味を訴えた後、すぐに高熱を発して休む」という児童生徒が多ければ、インフルエンザ流行のおそれがある。

 いずれにせよ、児童生徒の状況を的確に把握し、学校医等に相談して対応を考えることが大切だろう。



 学級閉鎖等の措置の効果を上げるためには、1日や2日の閉鎖ではあまり効果がないそうだ。

 前述したように、インフルエンザにかかった児童生徒が出席できるようになるには1週間程度が必要である。学級閉鎖等の効果を期待するならば5日程度の閉鎖が必要だという。(金曜日から閉鎖し、間の土日をはさんで月曜日までの閉鎖というように、土日を活用すれば出席日数上の閉鎖は2日であっても効果はあるようだが)



 今年度(平成14年度)から新学習指導要領が施行され、学校完全週5日制が実施された。全ての土曜日が休みになったことによって、昨年度と比較し、授業日数にして約20日、授業時間数にして約70時間が削減された。

 学習すべき内容も少なくはなったものの、授業を進めるうえで時間の余裕は少なくなっているのが現状である。仮に5日間の学級閉鎖等を行えば、授業時間数にして20数時間のカットになる。

 学級の欠席者が20%を越えるような状況では通常の授業を進められないことも事実だが、かといって思い切って5日間程度の学級閉鎖にも踏み切れないような実情もあり、学校としてはインフルエンザが大規模に流行しないように願いながら(もちろんそのための予防措置もとり)個別の出席停止等で対応しようとするところが多いだろう。(繰り返しになるが1日・2日程度の閉鎖措置ではあまり効果がないので)



 いずれにしても、問題は児童生徒の健康・生命に関わることであり、授業日数がどうのこうのといった学校の都合だけを考えてはいられない。

 学校としては、児童生徒の健康状態の把握をきちんと行い、関係医療機関との連絡を密に行って、適切な対応をとらなければならない。

 同時に、保護者の方にも、子供が急激に高熱を出したり悪寒を訴えたりした場合には、「ただの風邪だろう」と楽観視せずに(インフルエンザの場合には市販の感冒薬は全く効かない)早めに医者に診せることをお願いしたい。
<03.02.10>


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