ギタレレの話



 ギタレレという小さな6弦楽器を買った。

 ウクレレみたいな大きさでギターと同じ奏法ができるので名付けられたらしい。ヤマハの製品である。



 いきなり話がわき道にそれるが、私の世代(昭和20年代後半から30年代前半に生まれた、現在40歳から50歳ぐらいの世代)は、ギターを弾く人の割合がとても高いという特別な世代らしい。今の30代以下の若い人は、かなりの音楽好きでもないとギターは弾かないようだ。

 エレキブームからフォークブームのまっただ中、日本中の若者の誰もがジーパンをはきギターをかき鳴らすという時代に青少年期を過ごした私の世代は、上手下手は別として、誰でも一度はギターを抱えたことがあるといっても過言ではなかろう。



 高校時代のクラス会を開くことになった。例によって私が幹事である(^^;)

 高校時代は私の世代が最もギターをかき鳴らしていた頃。幹事の私としても、クラス会の場には当然ギターを準備しなければと思っていたところに加えて、参加予定のメンバーからも「彰、ギターはあるんだろうな」というようなメールがいくつか届いた(^^;)



 普通のギターは何本か持っている。スピーカー内蔵のエレキギターもけっこう重宝である。しかし、酒席に持っていくとなると荷物になる。酒宴が盛り上がれば二次会に繰り出すことにもなるが、そのときに持ち運ばなければならないとなると、普通サイズのギターはかえって邪魔者になる。



 そこで、小さいギターを1本入手しようということになり、見つけたのが、冒頭に書いたヤマハのギタレレであった。

 かなり小さい。バイオリン程度の大きさなので、専用ギタレレケース(標準附属品)に入れて持ち運んでも苦にならない。

 と、文章に書いてもわかりにくいので、実物をご覧いただきたい。



 これがギタレレ(右側)である。左にあるのが普通のクラシックギターである。ギタレレの小ささがご理解いただけるだろう。ちなみにギタレレの下に置いてあるのがVHSのビデオテープ(2本)である。



 小さいけれど、楽器としてのプロポーションは整っている。楽器メーカーの第一人者であるヤマハの製品だけあって、フレットの調節もしっかりしている。この種のミニギターの場合、単にサイズを小さくしただけの安価な製品(名もしれないメーカーで、価格が5千円前後のもの)は、フレットの打ち方が滅茶苦茶で、どんなに頑張っても正確なチューニングができないというものも多いが、このギタレレは楽器として高い完成度を持っている。

 ただし、価格もそんなに安くはなく、定価が1万2千円である。街の楽器店では、税込みでも1万円以下の価格設定をしている場合もあるが、それでもけっこうな値段である。



 普通のクラシックギターの弦を使っていて音もけっこう良い。買った私も大いに気に入ってしまい、クラス会までの毎日、小脇に抱えて、ポロンポロンと、昔歌っていたフォークソングなどを弾いていた。

 クラス会でも大好評で、我がギタレレはギター好きの友人たちの手から手へと渡り演奏されていた。



 個人的には、買って大正解という感じなのだが、ギターと同じように使えると思って買ってしまうと「こんなはずではなかった」という可能性もある。

 ギタレレに興味を持って、買ってみようかなと思う人のために、私の感じた長所と短所をまとめてみよう。



ギタレレの長所

まずはボディが小さくて軽い。

 例えば事務机に向かい、肘掛けのついた椅子に座った状態でも何の支障もなく演奏ができる。普通サイズのギターだとそうはいかない。

 曲のコードを確かめながら、机の上の紙にメモをするなどという場合には、とても便利である。



次に、演奏が楽である。

 演奏する際には、ウクレレのように胸に抱えるという感じになるので、ストラップがいらない。(下の写真のような感じ)


 ネックは細めで、クラシックギターの5弦分よりもちょっと広い程度で、エレキギターとほぼ同じである。弦高も低めなので、コードを押さえるときはとても楽である。手が小さい女性や子供などにはぴったりだと思う。

 他のミニギターなどでは、弦の長さを確保するために、ネックはそのままでボディだけ小さくするという例もあるが、それだとヘッドの方が重くてバランスが悪くなる。ギタレレではそんなことがない。



さらに、音量がちょうどよい。

 ボディの形状もつくりもよいので、音色も響きもよい。それでいて、あまり大きな音ではない。夜に部屋で弾いたりするとき、普通のギターでは音が大きくて近所迷惑になるなどの心配もあるが、ギタレレの音量は、自分の耳に心地よく響くという程度でちょうどよい。

 かといって音が小さすぎるということもなく、きちんと弾けば生で歌うときの伴奏にもじゅうぶんに使える。宴会などでボーカル用のマイクがある場合は、ギタレレを抱えてマイクに向かって歌えば、ちょうどよいバランスで音がマイクに拾われるし、もっと大きな音で演奏したいという場合は、マイク内蔵でギターアンプに接続できるタイプ(正価1万8千円)もある。(ギタレレの用途としては、そこまでは必要ないかと思うが‥‥)



ギタレレの短所

 ギタレレの短所というよりも特徴といったほうがよいのかもしれないが、ギタレレのチューニングはギターと異なる。

 ギターの場合、低い弦から順に「ミ(E)・ラ(A)・レ(D)・ソ(G)・シ(B)・ミ(E)」(文字の表示の関係上、オクターブ上表現は省略)であるが、ギタレレのチューニングは「ラ(A)・レ(D)・ソ(G)・ド(C)・ミ(E)・ラ(A)」となっている。

 これは、ギターの5フレットにカポタストをはめたのと同じである。

 ギタレレの弦長は433mmで、ギターの650mmよりもかなり短い。弦の長さでいうと一般のギターの7フレットまでと同じである。(一番上の写真参照)

 ボディが小さい分、剛性も若干落ちるだろうから、弦のテンションを少し弱めて、7フレット短の弦長で5フレット短の音程にしているのだろう。

 私もこの推奨のチューニングにしてみたところ、音色に張りと輝きがあって美しく感じた。



 ところが、このチューニングにすると、ギターと全く同じに演奏するということはできなくなる。

 具体的には、ギタレレで「C」のコードのかたちでフレットを押さえた場合、出てくる音は4度上になるので、実際に鳴るのは「F」のコードになる。ちょうどキーを変えられるカラオケで「♯」を5つ上げたようになるため、「これじゃ高くて歌えない」という具合になる。

 で、「C」の高さで演奏しようとするならば、4度下げて「G」の押さえ方をしなければならない。



 市販のヒット曲集等の歌本のコード譜で演奏をするときに、常に4度下げた転調をしないと、正しいキーで演奏することができない。

 例えば「C−Am−F−G7」というコードの曲であれば「G−Em−C−D7」で演奏しなければならないのである。

 またギターやピアノなどの楽器と合奏する場合も、同じようにコードを読み替えて演奏しなければならない。和声等の音楽的知識が豊富で、かつ演奏にも慣れている人ならば大丈夫かもしれないが、コード変化のはやい曲の場合、私はついていくことができなかった(^^;)



 そこで私がやっているのが、思い切ってギターと同じチューニングにしてしまうという方法である。

 本来650mmの弦長で出す音を、433mmで出そうというのだから、弦の張りをかなり緩めることになる。当然、音の張りがなくなり、すこしぼんやりした音になるが、思ったよりもひどい音にはならなかった。慣れてくるとけっこうよい音である(^^;)

 正規のギタレレのチューニングをしていたものを、ギターと同じ音まで緩めると、しばらくの間は弦の状態が落ち着かず、チューニングが狂いやすくなるが、数日使っていると安定してくる。緩めた状態でも各フレットを押さえたときの音は狂っていない。ここらへんはつくりの良さを再認識させられた。



もう一つの短所は、フレット間が狭いということである。

 ギターを弾いたことがある方ならば、7フレットにカポタストをつけた状態のギターがどのくらい弾きにくいかということがおわかりだろうが、ギタレレはまさにその状態である。

 ギターと同じ感覚でコードを押さえると、指が下のフレットにはみ出してしまって、ちゃんとした音が出ないということがよくある。意識的に指と指の隙間を密着させるようにしないといけない。手が小さい子供や女性だとギタレレの押さえ方がちょうどよいということもあるかもしれないが、一般的な成人男性だと指が苦しいという感じもあるかもしれない。しかし、これは慣れで克服できる。

 ただ、メロディを弾くことになると、これはかなり苦しい。ブルースのメロディを弾こうと5フレットあたりから8フレットあたりでやってみると思うようにいかない。かなり無理をすればできないこともないが、音の伸びはよくないし、チョーキングなどの技巧も使えないに等しい。

 このギタレレで「禁じられた遊び」「アルハンブラの想い出」などを演奏しようとしたり、ブルースバンドのリードギターを弾こうとしたりするのは無謀な挑戦という気もする(^^;)

 あくまでも、ローコードを中心とした曲をコード奏法で演奏するというのが、ギタレレには向いていると思う。



ミニギターと弦長の考察

 ギターやミニギター、ギタレレ等の弦の長さをまとめてみると次のようになる。

楽器の種類
弦 の 長 さ
1.クラシックギター
650mm
2.エレキギター
630mm〜650mm
3.ミニギター
600mm程度
4.ジュニアギター
540mm・580mm
5.ギタレレ
433mm
6.ウクレレ
350mm



 エレキギターがクラシックギターよりも短い(ものが多い)のは意外だが、クラシックギターが生の弦の鳴りを100%使うのに対して、エレキギターはピックアップの磁界をスチール弦が切ることで生じる電圧変化を音源にしてるわけだから、弦の長さが若干短くても問題がないのだろう。エレキギターが生ギターよりも弾きやすい感じがするのは、ネックの幅も狭く、弦のテンションも弱めであるというのも一つの理由になっている。



 ミニギターというのは、弦の長さはほぼ普通のギターと同じままで、ボディの大きさを小さくしたものである。



 上の図がそのイメージである。粗末な画像で申し訳ない‥‥(^^;)

 真ん中がミニギターのイメージ図である。フルサイズのギターと同じネック長のままボディを小さくするとすれば、図のように弦の端のブリッジ部分をできるだけ響体の端にするしかない。弦の音を響体にうまく響かせるには、ブリッジを響体の中央(一般のギターの場合、2つの楕円がくっついたヒョウタン型の大きい方の楕円の中央)付近にするのが望ましいので、上のミニギターは音響的にはあまりよくないのだが‥‥。

 これで響体のサイズをある程度大きくすると、図の赤線のようになり、弦のオクターブの音を出す12フレットを押さえにくくなる。この問題を解決するには、図のように響体を小さくするか(ちょっと上の例は極端だが)、手があたる部分をカットアウェイするしかない(カットアウェイしたギターは生ギターの場合、あまり弾きやすくはないが)

 こういう方法で作られたミニギターは多いが、持ったときのバランスが悪くなるし、思ったほど小さくならないという欠点もある(ギタレレのように胸に抱えて弾くという感じにはならない)



 ジュニアギターというのは、やはりヤマハの製品で、普通のクラシックギターやフォークギターを全体的に小さくしたものである。

 弦の長さやボディの大きさは、普通のものの約9割というサイズである。女性や子供が弾くにはちょうどよいという感じである。小さいとはいっても普通のギターよりちょっと小さいという程度なので、持ち運びが楽というメリットなどがあるかというとそれほどでもない。あくまでも手が小さい人のためのギターと考えたほうがいいかもしれない。



 ミニギターもジュニアギターも、基本的には普通のギターと同じネックの感覚・同じチューニングで演奏することを前提としている。

 それを第一の目的とするならば、ミニギターやジュニアギターの購入を検討するのが妥当だと思うが、期待するほど小さくはないということはあらかじめ念頭に置いたほうがいいだろう。



 ギタレレは、それらとは全く別の発想で作られた楽器なので、前述した「ギタレレの短所」のように、チューニングがギターと違う・フレットが狭いのでギターと同じ感覚では弾けないという問題もあるが、それを理解した上で購入するならば、手軽に音楽を楽しむには最適な楽器である。(チューニングに関しては私のように弦を緩めて使ってもそんなに問題もないし)



ギタレレやミニギター等の情報を詳しく知りたい方は、下のリンクもどうぞ!!

ヤマハ・アコースティックギターのカタログページ

楽器オンラインショップ「ガッキコム」のミニギターのページ

<02.09.09>


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