知ってることは無視する


 ♪「ゼーロイーチニーゼロ、xxxxxx、ラーラーララララ、はじめてコール」テレビ等でおなじみの消費者金融のコマーシャルがある。江戸時代風のお姫様と家老らしき人物がメインキャラクターで、町娘や町人がたくさん出演して乱舞するという、あのCMである。(姫が三味線を弾いて都々逸風に歌うなどというバージョンもあるが)

 毎日のように耳に(目に?)するCMなのだが、不思議に私には「xxxxxx」の部分が思い出せない。数字を連呼していることは覚えているのだが、その数字を覚えていないのである。



 歌っているのは、電話番号であり、CMのねらいとしては、視聴者がその番号に電話してくれることを期待しているのだろうが、私のようにその電話番号を覚えていなくては効果がない。

 私みたいにトシのせいで(^^;)記憶力が減退した人間だけが、この番号を覚えていないのではないかと、身近な人10数人に聞いてみたのだが、老若男女を問わず、はっきりと覚えているという人は一人もいなかった。

 中には、どこの会社のCMかということも意識していない人もかなりいた。



 CMによって、会社名を宣伝し、その番号に電話させようというねらいがあるのだとすれば、このCMは失敗であろう。



 ちなみに、この電話番号は「ゼーロイーチニーゼロ、ヨンヨンゼロサンロクゴ」(0120−440−365)であり、会社名は「プロミス」である。

 CMの最初の部分で、「♪プロミスー」と言っているし、最後に「♪黄色い看板プロミス」というフレーズが入るので、気をつけて聞いていれば全ての情報が網羅されているのだが、私の感覚では全ての情報がばらばらで結びつきがなく、視聴者にアピールする効果は薄いように思える。



 このCMソングの失敗の原因は、「ゼーロイーチニーゼロ」というフリーダイヤルでは当たり前の数字を曲の最初に使ってしまったことにある。しかも電話番号部分で2小節を使っている中で、「0120」の4桁で1小節を使ってしまい、いちばんアピールしなければならない「440−365」の部分(6桁)を残りの1小節に押し込めてしまっているのも問題である。



 業種は違うが、車の保険関係の会社で、電話番号を「ハロー、スイス」と語呂合わせしている例がある。番号は「860−212」なのだが、これを無理矢理「ハロー、スイス」と読ませているのである。

 CMでは「フリーダイヤル、ハロー、スイス、ハロー、スイス」と連呼している。

 スイスに本社がある保険会社のようだが、「212」を「スイス」と読ませるあたり、かなり無理矢理感があって、これはこれで聞いている人間に強烈なインパクト(なぜ212がスイスなんだろう?)を与える。最初の「0120」の部分は、一般的には常識となっているので「フリーダイヤル!」という表現で省略している。

 これは前述のプロミスと違って成功例であると思う。

 フリーダイヤルでは「0120」の他に「0800」で始まるものもあるそうだし、「フリーダイヤル」という呼称もNTTコミュニケーションズの固有商標で、他には「フリーアクセス・フリーナンバー・フリーコール」等の呼称もあるということなので、いちがいに「0120」を「フリーダイヤル」と言いきれないということもあるようだが‥‥(このことは、unspecさんからご指摘いただきました。この車の保険会社「チューリッヒ」がスイス系の会社であることを私が失念していた点もご指摘いただきまして、ここの部分を若干書き換えました。unspecさん、ありがとうございました)



 ちょっとハナシは変わるが円周率の数字がある。正確には「 3.141592653589‥」というものなのだが、これを10桁近くまで暗記している人は少ないだろう。

 私は小数点以下9桁までは覚えている。覚え方は「1号球、風呂のゴミ」である(^^;)



 これを「サンテンイチヨンイチゴウキュウニーロクゴーサン」と覚えようとしても無理がある。

 円周率が「3.14‥」というのは誰でも知っているので、その部分はあえて記憶の範囲に含めない。覚えればよいのはそれ以下の部分である。その「1592653」というのを「1号球、風呂のゴミ」と語呂合わせしたのである。(ちなみにこの覚え方は私のオリジナルである。1号球というのは円から連想されるボール等のサイズだとイメージすればよい)



 10桁の数字をそのまま数字読みして覚えるというのは、記憶するという作業の中でも難しい部類に入ると思う。これを無理なく覚えるには、いくつかの部分に分割したり、語呂合わせをしたりするという工夫が必要であろう。

 2の平方根(1.414213562373‥)を「ひとよひとよにひとみごろ(一夜一夜に人身頃)」、5の平方根(2.2360679774‥)を「ふじさんろくおうむなく(富士山麓オウム鳴く)」などと覚えるのはその類である。



 まあ、語呂合わせについては別の機会にでも述べるとして、今回重視したいのは、例の「ゼーロイーチニーゼロ‥‥」のCMソングで、ほとんど常識にもなっている「フリーダイヤル」の「0120」を曲の最初に使ってしまったというミスについてである。



 ちょっとハナシは飛ぶが、私はパソコンソフトを使う場合、そのソフトが高機能なものであれば、できるだけ使用説明書を読むようにしている。

 最近では、ソフトを買っても分厚い説明書がついてくるということは少なくなったようで、パソコン上でヘルプを参照すれば使い方がわかるという例も多いようだが、その場合でもなるべく市販の解説本を読むようにしている。

 例えば、ワープロソフト「一太郎」を使う場合には、「一太郎入門」などの解説本を買って読むという具合である。アプリケーションソフトだけでなく、パソコン本体そのものやWindows等のOSについても説明書はきちんと読むようにしている。

 ここで更に余談になるが(^^;)パソコンが普及してたくさんの人が使うようになってきたら、説明書を全く読まないで使う人も増えてきたように思える。使い方が分からないと「○○さーん、このやり方教えてー」とか「ここはどうやればいいのー?」と、他人に頼るタイプの人も増えてきた。

 ちょっとキビシイことを言わせてもらえば、こういう人はいつまでたってもパソコンに上達しない。自動車の運転に例えれば、自動車の基本構造も知らずにハンドルの回し方やギアの入れ方だけを他人に聞いて運転しようとするようなものである。極端な場合にはハンドル操作まで他人にやってもらおうとしている。私の場合、普段目にするのは学校の先生が多いわけだが、老若男女を問わずこういう人がけっこういる。今の教育では子供たちに「自ら学ぶ力・生きる力」を育てようとしているのだが、残念なことに教師自身にそういった力が身についていない人も多いようだ(^^;)



 それはさておき(^^;)私が説明書を読むときの方法を紹介しよう。(たぶん、たくさんの人がやっていることだとは思うが‥‥‥)



 説明書の内容の全てが私にとって初めて知ることではないので(もし、そうだとしたら、そのソフトは自分にとって難しすぎるということで、とりあえずは使用することを諦める)わかっていることはどんどん読み飛ばしていく。

 そうやっているうちに「おっ、これは知らなかった」という部分を見つけたら、黄色のマーカーペンで色をつけていく。同時にその内容をできるだけ覚えていくようにする。とはいっても、覚えるというレベルまでいかずに「理解できない」ということもあるが、それでもまずは黄色い色をつけておくのである。



 そうやって、ひととおり説明書を最後まで読む。全てを理解できなくても、まずは最後まで目を通すのである。

 そうやって、ソフトを使い出すと、作業をしているうちに、「そういえば、これをうまくやるには、たしか説明書のあのあたりにやり方が書いてあった」と思い出し、再度読んで使い方をマスターすることもある。



 そんな具合に数ヶ月使ってみたら、また説明書を読み直す。

 今度は、全部の文章を読むのではなく、前回、黄色いマーカーを塗った部分だけを読めばよい。そこで既に身につけた知識は無視する。2回目に読んでも、自分にとってまだ身についていない部分にだけ、今度は緑色のマーカーで色をつける。



 更にまた数ヶ月後、今度は緑色のマーカーがついたところだけを読み直す。この段階になると読み直さなければならない部分は絞られてくるから、数十分程度で読み直しが可能である。

 この時点でも自分のものになっていない知識や技能については、更にピンク色のマーカーを塗る。

 このピンク色のマーカー部分をもう一度読み直す頃になれば、その説明書の内容はほとんど自分のものになっているはずだ。



 職業柄、あえて学校教育にこじつけてみると(^^;)私たち教師はややもすると、「ゼーロイーチニーゼロ」のようなことをやっているのではないだろうか?

 子供たちが既に知っていること、身につけていることを、改めて繰り返し確認する必要はないのである。これをしつこくやりすぎると学習意欲を低下させることにもなりかねない。

 教えるべきは未知の部分である。子供がどこまで既習事項として知っているかをきちんと見きわめ、そこから先の部分を身につけさせる方法を工夫すればよいのである。その場合も、ただ単に無理矢理覚え込ませるというような方法は避け、CMの例でいえば語呂合わせのような効果的な方法を工夫して指導していくべきであろう。



 さて、プロミスのCMの例に戻ろう(^^;)

 「0120−440−365」で、「ゼーロイーチニーゼロ」は不要である。残った「440−365」をきちんとアピールすればよい。この数字をよく見ると最後の部分は「365」になっている。「365」といえば1年の日数と同じである。

 これに気がつけば、次のようなフレーズが生まれるだろう。

 「フリーダイヤル、ヨンヨンゼロで1年じゅう!」

 フリーダイヤルの「0120」は常識だから数字を言う必要はない。「365」は「1年じゅう」と覚えてもらう。残った「440」は工夫して語呂合わせをしてもよいのだが、3桁程度の数字はそのまま覚えてもらっても無理はないだろう(^^;)



 せっかく集団が群舞する豪華なCMを作っているのだから、あの画面で「ヨンヨンゼロで1年じゅう!ヨンヨンゼロで1年じゅう!」と叫ばせれば「0120−440−365」という数字は視聴者の記憶に刻み込まれるであろう(それが営業成績や企業イメージに効果的かどうかはわからないが‥‥)



 ちょっとくどい文章になってしまったが、教育にしろ、CMにしろ、記憶術にしろ、既に知っていることや常識になっていることは、これから覚えなければいけないことから外して、覚えさせたいことだけを、インパクトのある方法でアピールしたらどうだろうというのが今回の私の提言である(^^;)

<02.05.01>


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