9月新年度制を考える
内閣府が「学校の入学時期を9月にすることについて」のアンケートを行った結果が先日発表になった。
全国の15歳以上5千人を対象に行ったアンケートで、賛成は37%、反対が46%であったという。学校全般ということでなく大学の入学時期だけに限定すれば賛成が40.7%、反対が40.5%でほぼ同程度という結果だった。13年前の同じアンケートでは学校9月入学に賛成が27%で、今回は37%であるから、賛成する人の割合はかなり増えてきているということになるだろう。
日本では百年以上も続いている4月入学制を、ここにきて9月に変更しようというのは、欧米諸国と足並みを揃えようという意図があるようだ。
アメリカをはじめ、イギリス・フランス・ロシアなどは9月入学制をとっているのだという。
海外の大学に留学したり、海外からの入学生を受け入れるには、欧米諸国と同じように日本でも9月入学制にしたほうが都合がいいのだろう。
大学生の国際交流だけでなく、小中学校にとっても9月に新年度を始めたほうが都合がよいのではと思うことがある。
子供にとってはあまり関係がないかもしれないが、私のような教員にとっては、かなりのメリットがあると思う。
それは年次有給休暇を活用できるという点である。
地域や学校種によって若干の違いがあるかもしれないが、現在、私たち教員の年次有給休暇は年間20日である。
採用後の1年は、有給休暇の日数が20日ちょうどであるが、次の年からは前の年に残した日数が繰り越しされるので、有給休暇の日数は20日+前の年の残日数ということになる。例えば1年目に有給休暇を5日しか使わなかった場合には残日数が15日ということになるので有給休暇日数は35日になる。
ただし繰り越しされる日数の上限は20日なので、最大限の日数は40日になる。有給休暇を20日以上使うことは少ないので、だいたいの教員の有給休暇日数は40日が普通である。(事情があって1年に有給休暇を32日使ったなどという場合には残日数は40−32で8日になるので、翌年の有給休暇日数は28日になる)
有給休暇は私たちに認められている権利なので、有効に使うのが望ましいのだが、教員の場合、学校に子供を預かって教育活動を行っているので、授業日にはなかなか休みづらい。(他の職種も同様かとは思うが‥‥)
夏休み・冬休みなどのような長期休業中に取れればよいのだが、それもできにくい状況がある。
それは、有給休暇の日数を計算する期間が1月1日〜12月31日の1年間になっているためである。
翌年の年次有給休暇の日数が極端に少なくならないように、私たちの場合、有給休暇取得日数を20日以内にしようという意識がある。
その20日をできるだけ有効に使えればよいので、夏休みなどに多めに取れればよいのだが、夏休みのある7・8月時点では12月までの生活の見通しが立っていない。8月のうちに有給休暇の(安全圏である)20日のほとんどを使い切ってしまえば、その後、9〜12月のうちに予測していなかった事態が起きて有給休暇が必要になったときに対応できないということもありえる。
そこで、8月頃にはできるだけ有給休暇を残しておくようにしてしまうわけである。
12月になれば心配なく有給休暇を使い切れるのだが、現実的には冬休みに入るのが12月25日前後で、その後12月29・30・31日は「年末の休日」ということになってしまうので、「授業のない日に有給休暇を使い切ろう」などと思っても使える日は2・3日程度で、結局は有給休暇の大半を使い残してしまうのである。
もし、有給休暇を計算する上での1年間が、9月1日〜翌年の8月31日ということであれば、授業のない夏休みに心おきなく有給休暇を取得できるのでとても都合がよい。
4月から新年度が始まると現在の仕組みでも、有給休暇の算定期間が1月〜12月という変則的な状態になっているので、この算定期間を9月から始めるように変えるだけでも対応ができるのだが、どうせなら新年度の始まりそのものも9月からにしたらよいのではと思うこともある。
そうなれば、子供たちにとっての卒業式や修了式(学年の終わり)も7月下旬頃になり、夏休みは宿題に追われないゆっくりした休みになるだろう。(学力低下が心配されないわけでもないが‥‥)
3月中旬から4月はじめにかけての、卒業式・修了式、人事異動の発表、離任式・送別会、年度末の整理と新年度の準備、始業式・入学式といった(授業をやっている時期よりも忙しい)春休みの慌ただしさも解消するだろう。
例えば、8月1日までは年度末の事務処理をする。人事異動などに伴う引継がある場合は8月5日までに行い、8月6日から20日までは学校関係・研修関係の行事を一切持たない。新年度の準備は8月21日から行い、9月1日以降に始業式・入学式を行う‥‥という具合にすれば、ゆとりをもって学校の運営を行うことができるし、年次有給休暇を活用してゆっくり休みをとることもできる。
教員がゆとりをもった生活をすることは、子供にもよい影響を与えるはずである。
ということで、日本でも全ての学校で9月入学制にすればよいようなものなのだが、いろいろな側面から見ると、問題点もある。
まずは、学校だけでなく、国全体の年度を9月始まりにしないと、いろいろ不都合が出てくるということだ。
予算の会計年度や、役所・企業等の入社式は、現在4月を基点としている。学校の入学・卒業の時期がずれると都合が悪いこともあるだろう。
ただし、欧米諸国等では、あまり「全国一斉の年度」という考え方はないようで、企業の新人採用等も随時行っているとのことなので、日本もそういう感覚に変わっていけば、これはあまり大きな問題ではないのかもしれない。
2つ目の問題は、これまで長く続いてきた「学年の割り方」が変わってしまうということである。私はこれが一番大きな問題のように感じる。
これまでは同級生(同学年)といえば、4月生まれから翌年3月生まれまで(正確には4月2日生まれから翌年4月1日生まれ)が同一の学齢ということになっていた。
これが9月新年度制に変わると「9月生まれから翌年8月生まれ」が同一の学齢ということになってしまう。
年度の切り替えを行う時点で、学齢の割り方が変わるために、学年の人数が多くなるところと少なくなるが生じてしまう。「来年、入学するつもりだったのに、再来年になってしまった」ということも出てくるだろう。なによりも、長く親しんできた「同級生」という感覚が微妙にずれてしまうことへの違和感が大きいかもしれないし、それに反発する人も多いのではないだろうか。
最後の1つは、日本の季節感と9月新年度制とが馴染むかどうかということである。
寒い冬が終わり、春の気配が感じられる頃に卒業し、桜の花の中で入学式を行うというのが、日本人の季節感にはマッチしていたように思う。
9月新年度制となると、盛夏の卒業式、残暑の入学式ということになり、気分は盛り上がらないかもしれない。まあ、慣れてしまえばそれもよいのかもしれないが‥‥(^^;)
学校の4月新年度制(国全体もそうだが)は、世界的にも珍しいのだそうで、9月新年度制への切り替えは、これから国際化を考えるときに避けることのできない問題だろうし、そうすることによって改善されることも多いようだが、長い間親しんできて、日本人の常識のようになっている季節感の問題もあり、性急に決めてしまうことなく、十分に考え協議した上で、よりよいあり方を求めていく必要があるだろう。
<01.10.22>
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