給食費問題



 教職に就いて20数年になるが、その間に2年だけ学校給食がない学校に勤務したことがある。



 その間、昼食は妻が作ってくれた弁当を持って行ったが、準備をするほうは時間的にも経済的にも大変だったはずだ。せっかく妻が作ってくれた弁当にけちをつける気はないが、学校給食と比較すると栄養バランスは良くなかったようで、その2年間は少々体調が良くなかった(^^;)

 これはその学校の子供たちも同じだったようだ。家族が忙しいと市販の調理パンだけの昼食という子もいたし、好き嫌いがある子だと持ってくる弁当も「フルーツ弁当」のようなものだったりして、その学校の子供たちは他の学校と比較して体位も良くなかったし、偏食も多かったようだ。



 さて、学校給食の始まりは、明治22年(1889)に山形県の学校が貧困児童のために行ったものだといわれているが、全国に普及したのは昭和の戦後のようだ。



 昭和27年(1952)に全国の小学校で完全給食が実施され、昭和29年(1954)には学校給食法が制定・施行された(私が生まれた年である)

 学校給食の歴史については、こちらのサイトで詳しく紹介されているので、ご覧いただきたい。



 貧困児童のために栄養を与えるという目的で始まった給食だけに、カロリーや栄養バランスはよく考えられている。



 この頃は飽食の時代などと言われているが、かえって食べ物の好き嫌いが激しくなっているので、給食によって必要不可欠な栄養素を摂っているという子供も多い。最近の給食はカロリーよりも微量元素等のバランスを重視している。



 大学時代までは、1日1食程度の食事と酒類だけという、ほぼ完璧に破綻した食生活を送り(^^;) 体重50kg以下というロックンローラー体型を保っていた私も、教職に就いてからは栄養満点の給食のおかげで、今では限りなく「太り気味」に近い標準体重を持つ立派なオジサン体型になった(^^;)



 給食を毎日食べていて感心するのは、とにかく材料の種類が多いことである。



 一般家庭の料理ではまねができないほど、1食の中に多様な材料が使われている。これは大量の食事を一気に作る給食だから可能なことである。

 数人分の食事しか作らない家庭料理の場合、挽肉を気がつかない程度混ぜるとか、ゴマを数グラム、ニンジンもちょこっとだけ刻んで入れるなどということをしたらお金がかかってしょうがないだろう。



 しかも、これが驚くほど安く提供されている。



 地域や学校の種類(小・中)などによって差はあるが、1食あたりの給食費は、250円〜300円程度である。

 これと同じ内容の食事を、街の食堂で提供するとしたら、2〜3倍程度の値段をつけざるを得ないだろう。



 安いお金で質の高い給食を提供できるのは、人件費や設備費が不要だからである。調理員さん等の賃金や、給食のための調理場・器材等の費用は、行政が負担しているので、子供から集める給食費には含まれていない。もちろん給食を行うことで利潤を追求するなどということもない。

 また、材料についても、大量に一括購入することで安くなるし、一部の食材については学校給食のための補助金等によって、市販のものよりもぐんと安価で納入されている。



 安くて、栄養バランスもよく、美味しい給食を食べられるのは幸せなことである。



 「学校の先生はいいなあ」などと言われることがある。いろんな勘違い(夏休みがある等)もあるが(^^;) 少なくとも良質な昼食を安く食べられるという点では、幸せな職業だと思う。



 ところが、子供の給食費をきちんと納入しない親が増えてきた。



 いろいろ話を聞くと、私の周辺だけでなく、かなり一般的な傾向らしい。



 学校によって若干異なるが(土曜給食の有無等)、年間の給食の食数は約200食。年間の給食費は5〜6万円程度である。

 これを月ごとに均等割して、1ヶ月に約5千円程度の給食費を集金している。



 少し前までは、町内会ごとに給食費の集金当番を決めて、現金を集め、学校の給食担当者に納めるというやり方をしていたところが多かったようだ。

 しかし、これだと集金当番も大変なので、近年では各家庭の預金口座から自動的に引き落とすというやり方が一般的になってきた。



 ところが、預金口座に引き落とすだけの金額が入っていないと、学校では給食費をもらうことができない。



 その場合は、学校から文書等で督促し、口座に入金してもらうようにしている。



 たいてい、うっかりして入金を忘れている場合がほとんどなのだが、中には何度督促しても入金せず、滞納が数ヶ月分にもなるという例もある。

 在学している子供が1人でなく、2人、3人となると、場合によっては滞納額が十万円を超えてしまうこともある。

 こうなると、なかなか一度では全額納入できないという事態も出てくる。



 本当にお金がなくて給食費を払えないという場合もある。



 しかし、本当に生活に困窮しているような家庭には、生活保護や就学援助などの制度がある。困窮の旨をきちんと申告し、認めてもらえば問題はない。

 ところが、私が見たり聞いたりする事例では、それほど経済的に困窮していないのに給食費を滞納してしまう例も多い。



 あまり極端なことをいうと、またいろんなところから叱られるかもしれないが‥‥(^^;)



 そういう親は、性格的な部分で問題があるようだ。

 月々5千円なり1万円なりのお金を、ちゃんと預金口座に入れておけばよいものを、面倒がっていて、それがいつのまにか十万円以上にもなってしまう。

 毎月1万円程度の入金なら難しくはないが、一気に十万円を入金しなさいと言われたなら、これは難しい。よほどのお金持ちでもなければ大変だろう。私なら払えない(^^;)



 私もどちらかというと、「明日できることは、今日はやらない」というタイプなので、ある意味で共感できないこともないのだが、自分の子供の食費を入金するという、親として当然行うべき手続きを、自分の生活のルーズさのためにおろそかにしてしまう未成熟な親が増えてきているようだ。



 まあ、それぞれの家庭の経済事情を私がわかるわけではないのだが、いろんな周辺事情から判断すると、給食費をしょっちゅう滞納する親が、そんなに経済的に困っているわけでもないようだ。そこの家の子供が高価なブランド・スポーツ用品を愛用していたり、その親と(私もよく行く)パチンコ屋であったりすると(それは別に悪いことではないのだが)、つい「オイオイ、給食費はどうしたの‥‥」と思ってしまう。



 経済的に特別困窮しているわけではないようなのは前述したとおりなのだが、その親たちが毎年のように滞納しがちになるところを見ると、やはり、性格というか、生活に対する態度に問題があるように感じてしまう。



 こういう実態を学校として一般に公開することはない。



 ある意味では「職業上知り得た秘密」のようなものであるから、教育公務員の守秘義務によって、「○○さんの家では給食費を滞納しています」などということを公にすることはできない。

 前述したように、一昔前までは、町内会の当番など保護者自身が給食費を現金で集めるやり方だったので、滞納があったりするとすぐに近所の評判になったりして、世間体を気にする親は借金をしてでも納入したはずだが、今のように給食担当者だけしか給食費の納入状況がわからないというシステムになると、滞納しても平気という親も出てくる。

 もっとも、毎月、誰かが現金を集めてくれるようなシステムだと、とりあえず手もとにあるお金を払うだろうから、数ヶ月分も滞納するという状況もなくなるかもしれないが‥‥。



 私が滞納状況を知っているのは、滞納がひどくなった場合、電話等で督促をする役割だからなのだが。



 親が給食費を滞納していても、子供には全く罪がないわけだし、「あなたの家では給食費を○ヶ月分滞納しているので、今日から給食を食べてはいけませんよ」などと言うことは(もちろん)できない。

 自分の子供を養育するのは親の義務だから、昼食のお金を納入するのは当然のことである。しかもその昼食は良質のものが安価で提供されているのである。

 繰り返しになるが、本当に生活が困窮している場合は様々な対応が準備されているわけだから、きちんとそれを活用すればよいし、そうでもないのに親の生活のルーズさで払うべきものも払わないで甘えている状況を見ると、私としては「親としてしっかりせい!」と心の中で思いながら、1日もはやく親が自覚して、ちゃんと給食費を納入してくれることを願うしかない。

<01.04.16>

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