「ただ今、火災が発生しました。担任の先生の言うことをきいて避難しなさい!」
どなたも子供の頃、学校で体験した(あるいは現職の教職員の方は今でもやっている)おなじみの避難訓練である。
これが年中行事として行われているのは、消防法によって義務づけられているからである。
消防法施行規則第3条6には「特定防火対象物(学校もこれに含まれる)の防火管理者は、消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施しなければならない」というような内容が書かれている。
また、同施行規則第3条で「防火管理者は消防計画を作成し、所轄消防長に届け出なければならない」と規定されている。
この消防計画にも避難訓練の時期と方法を明示しなければならないので、防火管理者がちゃんと役目を果たしていて、所轄の消防署の指導もきちんとしているところならば、年に2回の避難訓練が実施され、少なくてもその中の1回は消火訓練・通報訓練なども含めた総合訓練が行われているはずである。
おそらく、きちんと行われている学校がほとんどだとは思うが、昔からのやり方を踏襲しているせいで、通報訓練や消火訓練を行わずに、避難訓練だけを実施している学校があるとすれば、総合訓練を行うことを強くお勧めする。これによって、学校の設備や消防署への連絡システムがチェックできるからである。
もしかして存在するかもしれない「総合訓練を訓練をやっていない学校」の参考のためと、私自身の覚え書きのために、総合訓練の流れを書いてみたい。
火災発生
(発煙筒を使うのが理想的だが、火災想定場所の屋内消火栓起動ボタンを押してもよい)
↓
最初の校内放送非常ベルが鳴りましたので、様子を調べています。
次の放送があるまで静かに教室で待ちなさい。
↓
火災報知装置の表示灯で火災区域を確認し、確認のため現場に直行
(3名程度が望ましい)
↓
火災発生確認
発見者が「火事だ!」と大声で周囲に知らせる
↓
通報訓練部門 ↓
避難訓練部門 ↓
消火訓練部門 発見者が屋内消火栓に付いて
いる非常用通話器で職員室に
火災の情報を連絡する。(通
話器がない場合は職員室まで
急いで走り、報告を行う。)
↓ ↓消火器による初期
消火を行う。
↓火の勢いが強い場
合は屋内消火栓を 119番通報 校内放送┓ 用いて、放水を行 訓練、訓練
火事です。
○○町○番地
○○小学校で
○○室から火
が出て、○○
が燃えていま
す。訓練、訓練
○○室から火災
が発生しました
口を閉じて放送
を聞きなさい。
グラウンドに避
難します。担任
の先生の言うこ
とを聞いて廊下
に並び、避難を
始めなさい。↓
放送を受けて
廊下に整列し担任
が先導して、それ
ぞれの避難口から
避難場所に移動す
る。
押さない・走らな
い・しゃべらない
・戻らないの4原
則を守らせる。
逃げ遅れた児童
がいないか校内検
索を行う。う。 ↓
全員避難場所に集合し、人数確認を行う。
↓
消火ポンプの停止などの終了処理を行う。
以上が、総合訓練の主な訓練マニュアルである。(ホームページ掲載用にかなり省略してあるが)
校内の訓練だけですませようとすると、「屋内消火栓の起動ボタンを押さない」「消防署への119番通報をするマネだけにする」「消火栓からの放水をするマネだけにする」などということをやりがちだが、これは、きちんと本物の行動で訓練してほしい。
そのためには、事前に関係諸機関に連絡をしておかなければならない。
屋内消火栓の起動ボタンを押すと、校内に非常ベルが鳴り響き、ポンプ室にある消火栓用ポンプが起動する。それだけでなく、警備保障会社等に警報が送信されるので、前もって連絡しておかないと、「何かありましたか?」という電話が警備会社から入るということになってしまう。
これも、実際にやってみないとわからないことなので、屋内消火栓のボタンを押すのを省略して、別の校内ベルで代用したりすると、警備警報が正常に送信されているかが確認できないことになる。
消防署への通報も同様で、前もって連絡をしておいて、訓練の際に119番通報を行うべきである。
この場合は、電話の最初に「訓練、訓練」と言ってから通報するように決められている。実際に通報してみると、必要な情報を的確に、しかもすばやく伝えるのが難しいということが実感できるはずだ。
さて、タイトルの「ホース掲揚塔」に関係した文章がまだ出てきていないのだが、これからが本題である(^^;)
消火訓練で、屋内消火栓からの放水を実際にやってみるのが望ましいと前述したのだが、放水を行うとホースが濡れる。
これを元どおりにしまうには、きちんと乾かさないといけない。濡れたままだとホースが腐食する原因となる。
校舎内の廊下や教室に干してもよいが、きちんと水切りをして乾かすには数日かかる。
すばやく乾かすには、ホースを縦に一直線にしてぶら下げるのが理想的だ。校舎の屋上(または3階などの高いところ)から下げるという方法もあるが、ホースを屋上まで持ち上げたり、乾いたホースを取り込むのに手間がかかる。
そこで、私が推奨する(^^;)のが、国旗掲揚塔を利用する方法である。
屋内消火栓のホースは、15mのものが2つ連結され、全長30mになっている。この連結部分を外して、真ん中から2つ折りにすれば長さは7.5m。国旗掲揚塔は8m〜10m程度のものが多いので、ちょうどいい。
15mホースの真ん中を掲揚塔のひもにくくりつけ、するするとあげると、おあつらえむきの乾燥塔になる(^^;)
これだと、半日も乾かせば収納可能になる。この方法なら一人でも簡単にできる。
ただ、単にぶら下げておくと、ホースの端の金属部分が風に吹かれてぶらぶらして、周囲の物に当たると危険なので、下のほうもしばっておいたほうがよいだろう。
というような、たいしたことのない内容で恐縮だが、何かの参考になれば幸いである。
ここで恒例の余談(^^;)
一般に学校の防火管理者は教頭が担当することが多いが、消防署の人の話を聞くと、たまには「ポンプ室の場所も知らない防火管理者」がいるとのことである。
前述のような消火栓の放水を行っていれば、ポンプ室の消火栓用ポンプが作動するので、放水後にポンプを停止しておかなければならない。消火栓の機種によっては起動ボタンを引き戻すだけでポンプが停止するものもあるようだが、ほとんどの場合は、ポンプ室に入ってポンプ本体の停止ボタンを押さないといけないようだ。
私の経験では、消火訓練の場合だけでなく、何らかの理由で防火用水タンクが満水になったりした場合も、放水を行ってタンクの減水をしなければならないということがある。
そういう時には、屋内消火栓の起動ボタンを押さずに、ポンプ本体の起動スイッチを入れればよい。本体のスイッチを入れただけでは警備会社への警報は送信されないので、校内だけでの作業ができる。
こういうことは、ポンプ室がどこにあって、ポンプの構造がどうなっているかわからない防火管理者ではできない。
転任したばかりの学校では、校内の設備がどうなっているのかわからないということもあるが、赴任後数年たっているのに「ポンプ室の位置もわからない」というのでは、防火管理者として失格である。
「私はメカに弱くて‥‥」などとは言っていられない。「こういうことは全て校務員さんに任せてある」でもいけない。少なくても赴任後1ヶ月以内には、こういう設備を確認しておく必要がある。
また、設備がきちんと作動するかどうか、年に2回位は、ポンプを作動させて確かめておかなければならないだろう。そのためには、前述のような総合訓練を行うのが望ましい。いざというときに消火栓用ポンプが故障していて放水ができなかったなどというのでは、それこそ危機管理能力がゼロということになってしまう(^^;)
もう1つの余談(^^;)
避難訓練をやると、消防署の方から「学校の先生たちは静かですね」と言われることがある。
たしかに、事前に「避難訓練計画」を職員会議等で確認しているためか、教師も子供と同じように「押さない・走らない・しゃべらない」という約束を守って(^^;) ハンカチを口に当てて避難している。
しかし、デパートなどの避難訓練では、職員が必死の形相で大声を張り上げ、「お客様!こちらから避難してください!」などと叫ぶのだそうだ。
企業等では、本番さながらの真に迫った訓練が展開されるのだという。学校でも、本当に火事になった場合には、教師が無言でいるわけにはいかないだろう。子供たちに無言ですばやく行動させるためには、教師が迫力ある言動をとらなければいけない。次回から、私が避難訓練を企画する際には、「ドラマチックな教師の表情」も訓練の1項目に加えることにしよう(^^;)
<00.11.13>