偏屈率



 先日(2000.06.25)行われた総選挙のデータを面白半分流に分析してみた。といっても衆議院選挙のことではない。同時に行われた最高裁判所裁判官国民審査のことである。



 この国民審査、1949(昭和24)年に第1回目が行われて、今回が18回目になるそうだ。これまで延べ133人の裁判官が審査を受けたが罷免された裁判官は1人もいないということである。(ちなみに、×印の票が過半数になると罷免が成立する)

 一度もその罷免機能が働いたことがないというのであれば無駄なことのようにも思えるが、三権分立を国民がチェックする大事な機能なのだから廃止するわけにはいかない。もし将来、異常な判決を乱発するような裁判官が出現した場合(そういうこともないだろうが)この制度がなければ大変なことになる。



 それに、結果がどうあれ、とても多くの国民(今回は6千万人以上)が投票を行うという行動は他にはない。視点を変えてみると、とても面白いアンケートにもなる(^^;)



 下の表は、全国投票およびわが県の投票の結果である。細かい数字が並んでいるがご勘弁いただきたい(^^;) (※Noは裁判官の名簿番号)

全国の結果わが県の結果
No無印(信任)×印(罷免)罷免率No無印(信任)×印(罷免)罷免率
151,609,9725,919,82510.29%1583,19948,9187.74%
252,040,1025,489,7449.54%2588,22943,8886.94%
352,139,7195,390,1589.37%3588,39943,7186.92%
451,993,2805,536,6309.62%4588,31543,8026.93%
552,103,8465,426,0589.43%5589,40142,7166.76%
652,002,6215,527,2909.61%6589,46442,6536.75%
752,550,1744,979,7468.66%7592,08040,0376.33%
852,535,1584,994,7328.68%8592,23539,8826.31%
952,109,2425,420,6839.40%9591,48240,6356.43%


 数字だけだとわかりにくいので、罷免率をグラフ化してみたのが下の図である。細かく見ると違いもあるが、だいたいの形が似ているということはおわかりだろう。




 名簿の最初の裁判官の×印が多いのは毎回同じなのだそうだ。たしか投票方法の説明見本でも最初の人には×印がついていたようなので、それも影響しているのかもしれない。この裁判官だけが他の裁判官と比べて国民から好かれていないということではないようだ(^^;)

 見本通りに×印をつけようと思っている人が多いということはないだろうが、まず最初の1人だけには×印をつけてみようという人が、全国には50万人近くいるようだ。



 2番目の裁判官からはだいたい同じような数になるのだが、7番目・8番目になると、かなり数が減る。これも、この2人の方が国民から好かれているというよりは、最初の裁判官からずっと×印をつけてきた人が、このへんになると「もうそろそろやめようかな」と思って×印をつけるのをやめてしまうからだろう。少々根性が足りない人(^^;)が、約50万人ほどいるようだ。



 そうなると最後の裁判官の×印の数も減ってもよいのだが、これは他の裁判官に近い数になっている。おそらく途中で「やめようかな」と思った人たちは、最後の裁判官にも×印をつけなかったのだと思うが、両端(最初と最後)の裁判官に×印をつけた人が多かったのではないだろうか(見本でも最初と最後に×印がついていたような‥‥)

 ということで、最初の裁判官と同じように両端の裁判官に×印をつけた人が約50万人、最後の3人には×印をつけなかった人が約50万人ということで、相殺されてこのような結果になったのではないかと、自分勝手に解釈してみた(^^;)



 もう少し細かく見ると、4番目の裁判官の×印の数が他より少し多い。これはこの方の名前に「金」と「利」という文字が入っていたことが微妙に影響しているのかもしれない。ずっと前の国民審査のときにも「色」とか「黒」とかいう文字が入った名前の裁判官がいて、その人の×印の数が他の裁判官よりも少し多かったような記憶がある。

 名前の文字から受けるイメージも、×印の数に若干は影響しているのかもしれない。



 名簿の順番や文字のイメージだけで×印をつけるくらいなのだから、それぞれの裁判官のことをはっきりとわかっていて罷免しようとする人の割合はごくわずかだと思う。



 私自身のことを考えてみても、国民審査の対象となった9人の最高裁判所裁判官の方の名前は投票所に行ってから初めて目にしたようなものである。

 本来であれば、各裁判官の判例等に目を通して、その結果で判断すべきなのかもしれないが、そういう作業を行った上で×印をつけたという人は全国で1万人もいないのではないだろうか。



 あとは、思想的な理由などで裁判所そのものに対して反感を持っている人とか、自分自身裁判によって裁かれ、それを不服と思っているために裁判官というものに恨みを持っている人などもいるのだろうが、それもごくわずかな割合だろう。



 そういう人が全国に500万人以上もいるとは考えられないので、×印をつけた人の多くは、なんとなく不機嫌だったりふざけ半分だったりという、個人的な気分で×印をつけてみたのではなかったかと思う。

 こういう表現をすると支障もあるだろうが、いわゆる「変わり者」とか「へんくつ」という人なのではないだろうか。人が右と言えば左と言いたいというような感じの人のような気がする。「へそまがり」と呼んでもいいかもしれない(^^;)

 もちろんこれまで述べたように、はっきりした分析をした結果、熟慮の末に×印をつけた人や、確固とした信念を持って×印をつけた人もいるだろうから、単純に「変わり者」「へそまがり」で括ってしまうのには問題もあるだろうが、多くは「へんくつ」な方の投票結果ではないかと考える(^^;)



 これを私は愛情を込めて(^^;)「偏屈率」と呼ぶことにする(^^;)

 屈折率とか偏光率とはかなり違うが‥‥



 さて、全国的な偏屈率を見ると、約9.5%程度のようだ。わが県では若干割合が下がって、6.7%程度である。

 もっとも、投票率が、全国的には約62.5%、わが県では70.1%なので、本格的に分析するには、投票しなかった人たちをどう見るかという問題もあるだろう。

 投票しなかった人たちは、どちらかというと「へんくつ・変わり者」の仲間に入るような気もするのだが、これも様々な事情があって、投票したくてもできなかったという人もいるだろうし、しっかりした信念のもとに棄権したという人もいるだろうから、ここでは敢えて分析の対象から外すことにしよう。



 ということで、投票した人の結果だけで考えてみても、全国的には約9%のへんくつな人がいるようだ。(熟慮の上で×印をつけただろうという人を外すと、だいたいこの数値になるだろう)



 そうなると、誰が考えても「これは正しい」というようなことを言ったとしても、それに対して反対したり反感を持ったりする人が、約9%程度はいるということになる。

 そういう人を無視して物事を進めるというわけにはいかないだろうが、何かを提案したときに、賛成者が90%ぐらいいたら、それはほぼ全員の賛成と見なしてもよいのではないかという考え方も成り立つ。



 この「偏屈率」については、全くの私見であるし、学問的な裏付けもないのだが、全国6千万人の意識調査ともいえる投票結果から、かなりはっきりと見えてきた結果である。もし、学問的に分析してくださる学者の方がいたら、面白い学説になるかもしれない。

 私の個人的な感じからすれば、偏屈率がこんなに高いとは思わなかったので(^^;) 「世の中ってけっこう大変なんだなぁ‥‥」というのが、正直な印象であった。

 余談になるが、最高裁判所裁判官の罷免に関する国民審査ではなく、政治家の方に対する国民審査を行ったら、9%程度に落ち着くということはないような気がする(^^;) もちろん、その場合は×印をつけた人をへんくつ者などと呼ぶことはできないだろう(^^;)

<00.07.01>


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