すごいアンケートの例


 最近では、各種のアンケートもコンピュータを使って処理されることが多くなってきた。



 全県を対象とした大規模なアンケートなども、データ入力用のフロッピーディスクが送付されて来て、それに各調査対象(学校等)のデータを入力して届けるという形式になりつつある。

 これまでは、集計用の用紙にデータを手書きして提出することがほとんどだったが、これも手書きのデータを見ながら、最終的にはコンピュータに入力するという方法だったろうから、どこの学校(職場)にもコンピュータがあるのがあたりまえになったこの頃では、合理的な方法といえるだろう。

 もっと進んだ方法を考えるならば、インターネットでメールを活用して、ファイルをやりとりするのがベストだろうが、インターネットの普及率や、それを使う技能の現状から考えると、ここ数年はフロッピーディスクを使う方法が一般的だろう。



 文部省とか都道府県単位の教育委員会などが作った入力用フロッピーは、さすがに細かいところまで配慮が行き届いているのだが、もう少し小規模な団体で、コンピュータに少し詳しいというようなレベルの人が作ったものだと、かなり不具合があるというものも見られる。

 先日も、私が少し知っている団体で、アンケート処理をフロッピーを使ってやるというので、データ入力用として配布するフロッピーディスクを見せてもらったが、代表的な不具合を全て持っているという素晴らしいもの(^^;)であった。

 これからそういうフロッピーを作ろうという方にも参考になると思うので、そこで見られた3つの不具合について書いてみる。



1.フロッピーディスクの容量が1.2Mbではまずい

 そのフロッピーディスクを、私の新しいパソコンで読み込もうとしたら、できなかった。「もしかして‥‥」と思い、古いパソコン(NECの9821バリュースター)で読み込んでみたらOKであった。

 原因は使われていたフロッピーディスクが1.2Mbフォーマットされたものだったのである。



 ご存じの方も多いと思うが、旧型のNECパソコンはフロッピーディスクの基本フォーマットが、1.2Mbであった。ところが他のDOS/V機等のパソコンでは、1.44Mbフォーマットが標準であったため、NECでもWindows対応機を出す際に、1.44Mbフォーマットに対応したのだが、旧型に対応したソフトやデータとの互換を残すために1.2Mbフォーマットも残したのである。

 NEC機もDOS/V機もこの他に720Kbのフォーマットにも対応していたので、実質的にはNECは「1.44Mb・1.2Mb・720Kb」の3モード・フロッピーディスク・ドライブ、DOS/V機は「1.44Mb・720Kb」の2モード・フロッピーディスク・ドライブということになる。(DOS/V機でもデータの互換をとるために、1.2Mbの読み込みができる3モード・フロッピーディスク・ドライブを備えているものもあるが‥‥)



 説明がくどくなってしまったが、要するに、1.2Mbフォーマットのフロッピーディスクに保存した場合、それを読み込めないパソコンが存在するのである。新しい安価なパソコンはほとんどそうである。

 このフロッピーを作った人は、NECの比較的新しいパソコンを使ったようだが、作る際にフロッピーの容量を確認しないまま作業を行ったようだ。

 パソコンショップ等では「フォーマット済フロッピー」というのを売っている。このときに「98フォーマット」などというフロッピーを買ってしまうと、1.2Mbフォーマットのフロッピーを入手することになってしまう。



 前述のようにNECのパソコンでなくても「3モードFD」を備えているパソコンであれば読み込めないこともないのだが、全てのパソコンで確実に読み込めるようにするには、1.44Mbフォーマットのフロッピーを使わなくてはならない。



2.最新バージョンのファイル形式ではまずい

 このアンケートは表計算形式で集計をするのでロータス1−2−3とエクセルの2つのファイル形式から選んで入力できるようになっていた。こういう配慮はとてもよいことなのだが、「では、使い慣れたロータスで読み込んでみよう」としたら、「これは新しいロータスのバージョンで作られているので読み込めません」というエラーメッセージが出て、読み込み不能であった。

 私の古いパソコンに入っているロータスは「1−2−3 97」バージョン。これは古すぎるのかなと思って、新しいパソコンに入っている「1−2−3 98」バージョンで読み込んでみたが、これもだめだった。

 ファイルの拡張子は「123」なので、一見、上の2つのバージョンでも読み込めそうだが、実際には最新バージョンの「1−2−3 2000」で作られたものらしい。



 全てのパソコンユーザーが常に最新バージョンのアプリケーションを使っていれば問題はないのだが、誰もが簡単にバージョンアップできるものでもない。特に学校に導入されているパソコンの場合、予算やリース契約の問題もあって、導入された時点の古いバージョンを使い続けていることも多いのだ。

 新しいバージョンのアプリケーションで作成したファイルでも、保存時の設定で古いタイプのファイル形式で保存が可能である。都道府県教育委員会等で作ったきちんとしたアンケートの場合、ロータスのファイルだと拡張子が「123」の新しいバージョンではなく、「wk4」の古いバージョンで作られているのがほとんどである。

 これなら、ほとんどのパソコンで読み込み可能である。こういった細かい部分の配慮に、パソコンの使いこなしの差が出てくるようだ。



3.2大ソフトの移植ではまずい

 前述したように、このアンケートのためのフロッピーには、ロータスでもエクセルでも処理ができるように、2つの形式のファイルが収められていた。

 しかし、ロータスのファイルはエクセルで作ったものを移植したものらしくて、エクセルでは表示がスムーズにいくのだがロータスだと表題表示設定(一部のセルがスクロールしないようにする)などがうまくいかない現象も見られた。また罫線表示とか、行の幅、列の高さなどにも若干の不具合が見られた。

 ロータスとエクセルのファイルはかなり互換性があるようにはなったのだが、細かいところを見るとだいぶ違っている機能もあるので、単純に移植しただけではなく、設定のしなおしをするなどの配慮も必要である。



ということで

 代表的な3つの不具合について述べてみたが、こういう例は、最近になってパソコンをバリバリ使い出したという人に見られるような気がする。

 Windows98あたりからパソコンを始めたという人でも、勉強熱心で高度な使いこなしができる人も多いが、古いパソコン環境に配慮するという点では、気がつかないことも多いのではないだろうか。

 Windows95からはパソコンのメーカーや機種に依存しないかたちでアプリケーションが動くようになったが、それ以前のWindows3.1やMS-DOS時代には、OS自体も機種に対応したものが必要だったし、アプリケーションとなると「NEC9801用」とか「FM-16β用」などというように、完全に機種限定型であった。

 こういう時代にパソコンを使っていた人には、メーカーの差による媒体等への配慮は必須であったのだが、今のようにその必要がなくなってくると忘れられがちである。

 また、パソコン歴が長いとアプリケーションのバージョンアップなども多く体験しているので、バージョンの違いによる拡張子や機能の変化などにも敏感になっているが、最新バージョンから使い始めたような場合は、その点を見逃してしまうのだろう。



 いずれにせよ、自分が使っているパソコンの環境が、全ての人に通用するかというと、そうでもないことが多いようだ。今回の「不具合の多いアンケート・フロッピー」の場合は、自分の使っているパソコンで動作確認をして大丈夫だったために、他の人の環境に配慮するということを忘れてしまったのだろう。

 ホームページ作成でも似たようなことが見られる。最新の作成ソフトを使って、自分では意識しないまま新しいタグを使ってしまい、しかもInternet Explorerでしか動作確認をしないために、一部の人しかきちんと見られないようなホームページになってしまっている例も見かける。

 アンケートにしろ、ホームページにしろ、自分一人で使うのではなく不特定多数の人に使って(見て)もらう場合には、十分な配慮が必要である。



さて、本題からそれるが(^^;)

 このアンケートの設問を処理する表は、異常に横長で、実際にデータ入力する際にはとてもやりにくいものだった。また、表の中に無意味な空欄がたくさんあったり、設問の選択肢が多すぎたりという具合で、パソコンの表計算ソフトで処理することを前提としたものとは考えられないものであった。

 事情を聞いてみると、アンケートの設問を考えたのはパソコンを使えない人で、その人が作った集計表をもとに、処理を依頼されたパソコンに詳しい人が作ったものらしい。

 これでは、パソコン処理に適したアンケートはできない。



 さらに、私から言わせてもらえば、調査の各対象(学校)のデータの集計結果だけを集めて、対象全体の処理をすればよいはずなのに、各学校の個人のデータを全て入力して集計するようになっている。

 「なんで、こんな面倒なことを?」と思ったのだが、アンケートを作成した人の意図だと、例えば、1の設問で「A・B・C」の選択肢のうち「A」を選んだ人で、2の設問の「B」を選んだ人数はどのくらいいるのかを調べるというような集計(ご本人たちはクロス集計と読んでいるが)を行いたいためなのだそうだ。



 こういう処理はかなり高度である。表計算ソフトで扱うというよりも、データベースソフトを使って、個々のデータを入力して処理するのがふさわしい。

 ご本人たちが「クロス集計」と呼んでいる処理を、表計算ソフトで行うためには、かなり高度なテクニックが必要とされるし、処理に時間もかかる。



 ところが、この集計を依頼した人自身がパソコンを使えないのである。そうなると集計の結果を考察するためには、パソコンでこのアンケートを作成してくれた人に常に立ち会ってもらわなければならないということになる。これも大変なハナシである(^^;)

 作成を依頼した人自身がパソコンを使えないために、「パソコンを使えば何でもできる」と勘違いしているのだと思うが、実際にパソコンで処理するとなると難しいことが多いのだ。

 まずは、自分たちがパソコンをある程度使えるようになることが必要だと思う。アンケート処理のためのプログラム(表計算のワークシート)を作成するレベルまではいかなくても、データ入力された結果を分析できるぐらいの能力は必要だし、それができないのなら無理をしてパソコン処理でやることもないだろう。

 アンケートをパソコンで処理するときに、どんな作業を行うかをある程度わかっていてこそ、パソコン処理に適した設問を作成できるのだし、それがわからないと、パソコンの可能性を過信して、処理に無駄な手間をかけるような設問の設定になってしまう(^^;)



センスのよい設問を

 ここで例に取り上げたアンケートのあら探しばかりするようで恐縮だが(^^;) 設問も整理されていないものが多かった。

 設問をそのまま転載すると差し障りもあるので、少々表現を変えるが次のような設問があった。



◎ 夜は誰とすごしましたか?(あてはまるもの全てに○を)

   大人と(祖父・祖母・父・母)
   子供と(兄・姉・弟・妹)
   ひとりで



 これほど細かい選択肢は必要ないだろう。アンケート全体の趣旨を見ても、それほど細かいデータを必要としていないようだし、分析にも反映されないようだ。

 せいぜい、「家族全員で・大人を含む家族数人で・子供だけで・ひとりで」ぐらいの選択肢で十分だろう。

 そのアンケートで何を知りたいのかを明確にし、そのために必要な選択肢を絞るべきである。思いつくものを全て載せる必要はない。十分に吟味した選択肢にすることが、回答者も答えやすく、集計や分析の処理もしやすいアンケートを作る条件であると思う。



役立たせるのがいちばん

 私も過去にいろいろなアンケートを作り、パソコン等で処理したことがある。

 自分で本当に必要とするデータを集めるときには、調べたいことはたくさんあったのだが、アンケートは新しいデータを素速く手に入れることが最重要なので、なるべく設問はシンプルにし、処理のしやすい形式にした。

 しかし、自分が事務局を担当した団体などで、年間の主要事業としてアンケートを行うなどといった場合には、設問も多岐にわたり、複雑な分析を加えるといった「豪華絢爛」なアンケートにすることも多かった(^^;)

 そうなると、データ入力や分析処理にも長い時間がかかり、それをグラフ化して視覚に訴えるようなものにするには(仕事の合間にやっていることもあって)数ヶ月かかるということもあった。

 そうなると、何のためのアンケートかということよりも、アンケートをやることそのものが目的になってしまうということにもなりかねない。

 年間の事業報告の際に、「私たちの研究部では、今年度、アンケートを行いました」では、笑い話にしかならない。しかし、実際には、そういうことは多いのではなかろうか。



 本来は、何らかの指導を行うために、その資料の収集の一手段として行うのがアンケートである。アンケートだけが(立派に)行われても、それに対応した指導が行われないのでは意味がない(^^;)

 これに似た例では、研究レポートなどがある。

 研究レポートをまとめることだけに力点がおかれて、「私たちはこのような研究を行いました」で終わりではまずい。

 研究の成果が次の指導に生かされるようでなければ、役に立つ研究レポートとはいえない。



 アンケートにしろ研究レポートにしろ、指導に役立てるという本来の目的からはずれて、「私たちはこれをやりました」という提出証拠資料になってしまっては本末転倒である。

 それをまとめるために長い時間を費やして、効果がほとんどないようであれば、まとめることに労力をかけるよりも、これからやろうとすることの計画表を作るほうに力を入れて、まとめは、その実施状況の簡単なチェック表程度にするほうが、賢明なのではないだろうか。

<00.06.25>


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