絵がうまいと頭がいい
ホームページで自作の絵を公開されている方も多い。
私の知り合いの方のサイトでも、こちらや、こちらなど、素晴らしい絵を拝見することができる。こちらなどはプロの方であるし‥‥。
こういう絵の上手な方を見ると、この方は頭がいいんだろうなあと思ってしまう。
「頭がいい」というのは、いろいろな解釈があるので、ひとことで「頭がいい」とくくってしまうのには問題があるかもしれないが、ここでは、要するに物事の判断力にすぐれていて、表現力も確かだという意味である。
絵が上手だというのも多様なとらえ方があるわけだが、ここでは芸術的に価値がある絵(形や色彩等がデフォルメされているものも多い)を描くという意味ではなく、対象の形をそのとおりに描くことができる意味でとらえている。
「私は絵が苦手で‥‥」という人もいるが、考えようによっては、見たままの絵を描くのは、そんなに難しいことではない。

例えば、上の画像のように、自分が描きたい範囲(上の大きい赤い長方形)を決めたら、その中の対象物の位置関係(縦横座標)を忠実に用紙の上に再現していけばよいのだ。
色づかいや微妙な筆のタッチなどはセンスや技量の差が出るが、とりあえず形を再現するだけなら、ていねいにこの作業をすれば誰でもできるはずなのだ。
それでもうまくいかないというのは、空間を座標的にとらえるという「位置関係の認識力」が劣るのかもしれない。ただ、「力が劣る」というよりは、そういった訓練が不足していたという理由が大きいのかもしれない。
何度か練習をすれば誰でもできるのだが、特別に練習をしなくてもすらすらと見たままの絵を描ける人もいる。
私は、こういった人は「頭がいい」のだろうと思うのだ。
こういった方は、もともと「構造」というものを素速く把握する力がすぐれているように思う。この力は絵を描く場合だけでなく様々な場面で発揮される。構造の本質を素速く的確に見抜き、効果的に表現する能力は、文章・会話・思想・社会状況分析など、諸々の場面で効果的に働く。
くくって言えば「器用な人」とでも言えるだろう。レオナルド・ダ・ヴィンチなどは万能の天才だが、彼などはその典型かもしれない。
天性の才能としてこういう力を備えている、いわゆる「天才」もいるのだろうが、それよりは少年期・青年期の経験が影響しているかもしれない。
私が自分で「頭がいい」というつもりはないが(^^;) 絵はヘタではない。けっこう見たとおりの絵を描くのは得意である。
そこで、こういう技能を身につけた体験を振り返ってみると、小学生の頃に、マンガの写し描きをやったのが効果的だったと思う。
小学校時代に愛読していた「少年マガジン」等の「8(エイト)マン」とか「紫電改のタカ」などの主人公の似顔絵描きをするのが好きで、ヒマがあればそういう絵を描いていた。中学生になっても「ボーイズライフ」連載のさいとうたかお作「007」の絵などをよく描いていた。
マンガの似顔絵描きは全くの模写である。これによってモデルとなる絵の構図と自分が描く絵の構図を座標的に一致させるということが身についたと思うし、絵(といってもマンガであるが)の構図の工夫(遠近法等)を学ぶこともできた。
教師という職業についてからも、絵を描かなければならない場面が多かった。
この頃ではコピー機やイメージスキャナ取り込みなど便利な機器が普及してきたので、教師があまり自分で絵筆を持たなくてもよくなったが、昔は教科書の小さな挿し絵などを黒板に掲示するときなど、自分でその絵を大きく描かなくてはいけなかったので、模写の技能はひとりでに身についたのである。
また模写でなくても、黒板にチョークでちょっとした図解をするときなども、わかりやすい絵を描けなくてはどうしようもなかったので、そういう練習もした。(私の場合は子供の頃のマンガ描きの経験が役に立った)
学校の先生には絵がうまい人が多いというのは、頭がいいからというよりも、その技能が指導技術の1つとして必要だったからである。(この頃はどうかな‥‥?)
余談めいた内容に飛んでしまうが、文字の形も教師になってから少しはきれいに書けるようになった。特にひらがななどは、青年期まで私はひどい悪筆だったのだが、黒板や掲示物にきちんとした形の文字を書かなければならないということになると、教科書などの文字の形を真似なければならない。このときになって初めて文字の正しい形を認識したという恥ずかしい経験もある‥‥(^^;)
最後のほうはなんだか自分の思い出話になってしまったが、形の整った絵を描けるということは、物事を的確に判断する力にもつながるということを言いたかった次第である。
児童画の指導では、あまり形にこだわらず、感じたことを楽しく自由奔放に描かせるという傾向もある。それはそれで意味のあることだが、芸術とか創作という領域ではない部分で、正しいデッサン力を身につけさせる指導も必要なようにも思うし、それが頭をよくすることの1つの手だてなのではないかと考えている。
さて、これまで述べた「絵がうまい」というのは、あくまでも形を正確に写し取るという線画のことである。
本当に「絵がうまい」という人の絵を見ると、それだけではないことに気づく。対象となる事物を、かたまり(マス)としてとらえたり、光でとらえたり、ときとしては風情までとらえているのだ。表現方法も私のように線画できちんと描いてそれに色塗りをするというものではなく、一筆の絵の具の濃淡で対象をみごとに描き出すというような技法も使っている。
こうなると練習うんぬんではなく、やはり天賦の才能とか、専門的な技法の習得などが関係してくるように思われる。残念なことに私にはその才能はないようだ(^^;)
<00.06.11>
ホームページに戻る
うんちく目次へ