10数年前からよく行われるようになった教師の指導形態に「team teaching」というものがある。「協力教授」とか「協力的な指導」などと訳されているが、簡単に言うと2名以上の教師がいっしょに指導を行うことである。
個性化教育の研究の中で重要視されるようになった指導形態で、初期の頃、個性化教育研究者たちは「T・T」というように「・」(なかてん)を入れて略称を表記していたが、最近の文部省刊行物等をみると「TT」と表記するのが一般的になっているようだ。
まあ、今回、私がふれたいのは「team teaching」の効果とか、略称の表記がどうとかいうことではないので、前置きはこのぐらいにしておく(^^;)
問題にしたいのは「team teaching」をどう読むか、もっと正確にいうとカタカナでどう書くかということである。
私は、この言葉が出始めてからしばらくの間は「チーム・ティーチング」と読んでいた。カタカナで書くときも同様であった。
「仲間」という意味の「team」という言葉は、「野球チーム」などのように日本語の中でも広く使われており、「チーム」という日本語化した読み方(書き方)が定着している。また一方の「teaching」は動詞「teach」の名詞形で、教師の意味の「teacher」が「ティーチャー」と(日本語化して)読まれるように「ティーチング」というのが一般的である。
したがって、この2つを続けた「チーム・ティーチング」が、私にとっては「正しい」読み方だったのだが、最近の教育関係の書籍等では「ティーム・ティーチング」と表記されている(文部省刊行のものもそうである)
これを見て、私は「ん?」と思ってしまった。
英語の辞書で発音を調べてみると、たしかに「ティーム・ティーチング」が正しい。「team」も「teach」も発音記号では最初の部分が下のようになっており、同じ発音なのである。
しかし、この「ティーム・ティーチング」という言葉、私にはどうもしっくりとこない。そこで調べてみたら無理もない理由(^^;)があったのだった。
外来語のカタカナ表記について、私の言語感覚の基本となっているのが、昭和29(1954)年3月15日に出された「国語審議会報告」の「外来語の表記」という文書である。
これでは次のようになっている。
1.外来語は原則としてかたかなで書く。
(中略)
11.原音における「ティ」「ディ」の音は、なるべく「チ」「ジ」と書く。
- 例)チーム、チンキ、ラジオ、ジレンマ
- ただし、原音の意識がなお残っているものは、「ティ」「ディ」と書いてもよい。
- 例)ティー、ビルディング
さらに付録として出された「外来語用例集」では、次のような例が挙げられている。
「チ」と書くもの
- スチーム、スチール、ゼラチン、チーム、ベンチレーター、エチケット、イニシアチブ、エキゾチック、エロチック、ロマンチック、プラスチック
「ティ」と書くもの
- アーティスト、カッティング、スティック、ギャランティー、オーソリティー、ティーパーティー
私が生まれた年に出されたこの「国語審議会報告・外来語の表記」が(絶対的な基準ではないにしろ)国語表記のよりどころとなっており、新聞や教科書の表記はこれに基づいていたので、ちゃんとお勉強をしてきた私(^^;)は、「チーム」とか「スチール」というのが正しいのだと思って育ってきたわけである。
これが大きく変わったのは、平成3(1991)年6月28日に「内閣告示・訓令」として出された「外来語の表記」によるものである。(内閣告示も絶対的基準ではなく、国語表記のよりどころという性格だが、国語審議会報告よりは国民的基準としての要素が強い)
この告示では、なるべく原音に近い表記をするという傾向が強くなり、「シェ・ジェ(セ・ゼ)」「ティ・ディ(チ・ジ)」「ディ・デュ(ジ・ジュ)」「ファ・フィ・フェ・フォ(ハ・ヒ・ヘ・ホ)」などが一般的な表示として認められるようになった。
※( )内はこれまで一般的とされた表記。
つまり「ティ」「ディ」に関しては、これまで「なるべく『チ』『ジ』と書く」とされていたものが逆転して「ティ」「ディ」という表記が一般的になり、「チ」「ジ」は慣用のある場合のみ使われるという例外的な立場になったわけである。
参考のために、平成3年6月の内閣告示の「ティ」等に関する部分を掲載しておく。
4.「ティ」「ディ」は、外来音ティ、ディに対応する仮名である。
[例]
- ティーパーティー、ボランティア、ディーゼルエンジン、ビルディング、アトランティックシティー(地)、ノルマンディー(地)、ドニゼッティ(人)、ディズニー(人)
注1 「チ」「ジ」と書く慣用のある場合は、それによる。
[例]
- エチケット、スチーム、プラスチック、スタジアム、スタジオ、ラジオ、チロル(地)、エジソン(人)
注2 「テ」「デ」と書く慣用のある場合は、それによる。
[例]
- ステッキ、キャンデー、デザイン
なお、この告示にも付録として「用例集」があり、「team」は「チーム」という書き方になっている。
この内閣告示は、出されてから10年に満たないこともあって、私のような中年にはまだ徹底していないということもあるが、マスコミ等の表記はほとんどこれによっているので、「ティ・ディ」表記が増えてきており、その度に私などが「ん?」と思ってしまうということになるのだろう(^^;) まあ、英語を日常的に使っている人には違和感がないと思うが‥‥。
しかし、これまで述べたことからすると「team teaching」を「チーム・ティーチング」と読んでも間違いでないことは確かである。いや、むしろ「用例集」に「チーム」という用例が明記されていることからすれば「ティーム・ティーチング」よりは標準的な読み方だと言えないこともない。(さすがに「チーム・チーチング」とは言えないが‥‥)
同じ発音を持つ外来語が日本語化したときに、別な発音になるというのが、おかしいといえばおかしいのだが、このような例は、野球用語では多くあるようだ。
例えばバントや犠牲フライのような打撃を「チーム・バッティング」というが、打撃練習のときに、ボールを「tee」という球置台(発音は、やはりティー:tiである。ゴルフのティー・ショットも同じ)に載せて打つのは「ティー・バッティング」という。ほとんど似たような発音の言葉なのに別の表記をするのはおかしいかもしれないが、それぞれを単独で使う場合には、「チーム・バッティング」「ティー・バッティング」で全く違和感がない。「ホーム・スチール(steal)」も「ホーム・スティール」よりは耳に馴染む。
こういうことを言い出すときりがないし、結局は自分が子供の頃から耳に慣れた言葉が基準になってしまうということなのだろうが、日本人の大半が常時英語を話すようにでもならない限りは、日本語化した英語(外来語)は必要であると思う。
その際、もともと日本語の発音体系にない音を仮名で表すということには無理があるのだから、「チーム」のような慣用的表現は認めていったほうがよいのではないかと思う。そうでなければ「team teaching」のように原語のまま表記するのもよいのではとも思うが、これも「誰でも読める日本語の文章」としてはどうかなあという気もする。
ということで、私としては「チーム・ティーチング」という書き方を使っていくつもりである(^^;)
さて、ここからは恒例の余談であるが(^^;) ここまで私は「team teaching」を「チーム・ティーチング」のように、2つの語の間に「・」(なかてん)を入れて書いてきた。この書き方についても「チーム ティーチング」「チーム・ティーチング」「チーム-ティーチング」「チーム=ティーチング」のような様々な書き方がある。
これについて、昭和25年の「国語の書き表わし方」(文部省編)では、「地名の場合は『リオ-デ-ジャネーロ』のように『-』を入れる。人名の場合は『レオナルド=ダ=ヴィンチ』のように『=』を入れる」というような具体例が示されていたが、前述の平成3年「外来語の表記」では「つなぎ符号の用い方については、それぞれの分野の慣用に従うものとし、ここでは取り決めを行わない」となっている。
もうひとつ余談になるが、学習指導で、2つの学級がいっしょに学習を行い、担任の2名が指導にあたっても、それは「team teaching」とは呼ばないのだそうだ。これは「合同授業」と呼んで区別している。このことについては他の文献やWEBサイトをご参照いただきたい(^^;)
<00.03.15>