DVD普及のきざし



 1996(平成8)年の末に製品化されたDVD(デジタル・ビデオ・ディスク、最近はデジタルバーサタイルディスクともいう)は、新時代のビデオ信号記録再生媒体として鳴り物入りで登場したが、これまであまり一般化していなかった。




 ところが、ここにきて大いに普及しそうな兆候が見えてきた。



 かくいう私も最近になってDVDを使い始めた一人なのだが、使ってみると、これがなかなか良い。

 ということで、DVDについてのうんちくを一席。



 といっても、いつもの通り、私もインターネット等で調べたりした情報の付け焼き刃で、自分自身よくわかっていないままの情報提供である(^^;)

 私と同様に「DVDって何?」というレベルの人には参考になるかもしれないが、プロフェッショナルの方を対象にした情報でないことを、あらかじめおことわりしておく(^^;)



 レーザーディスク(映画再生用やカラオケ等で使われていた銀色の大きなディスク)の次世代メディアとして、高品質・大容量・コンパクトな記録・再生方法は各メーカーで研究されていた。

 当時、東芝・松下電器・パイオニア等が開発を進めていたSD規格と、ソニー・フィリップス等が開発を進めていたMMCD規格が競合していたのだが、IBMをはじめとするコンピュータメーカーが、DVDを1つの規格に統一するように強く要求したため、双方の規格を合わせたかたちで、1995(平成7)年末に最終的な合意に達した。そして、DVDコンソーシアム(共同出資体、前述の開発企業等10社が参加))が作られDVDとして規格化がスタートした。(現在、DVDコンソーシアムはDVDフォーラムに改称)



 世界で最初に発売されたのは日本製のDVDプレーヤーで、これが1996(平成8)年11月のこと。次いでアメリカで発売されたが、これは日本より少し遅れて1997(平成9)年3月になる。



 詳しい事は後述するが、DVDは、ビデオ(ビジュアル)信号の他に、音声信号や、コンピュータデータの記録ができる。下の表のように、他の記録メディアと比較してみるとその凄さがわかる。

 なお、DVDは両面に記録ができ、更に片面ごとに表層・底層の2層を使える。下の表のDVDのデータで「最大」というのは「両面・2層」で記録した場合であり、「標準」というのは「片面・1層」で記録した場合のデータである。

ビデオ(ビジュアル)データ

DVD
LD
S-VHS/VHS
Video-CD
CD
MD
記録方式
デジタル
 MPEG2
アナログ
アナログ
デジタル
 MPEG1


画質
(水平解像度)
500本以上
430本
400/240本
240本


再生時間
最大480分
標準135分
片面 60分
両面120分
180分
540分(3倍)
74分


オーディオ(音声)データ

DVD
LD
S-VHS/VHS
Video-CD
CD
MD
記録方式
デジタル
 MPEG2
デジタル
アナログ
デジタル
 MPEG1
デジタル
リニアPCM
デジタル
 ATRAC
音質
ドルビーAC-3
5.1chサラウンド
8カ国語吹き替え
2ch
ドルビー
フルロジック
2ch
ドルビー
フルロジック
2ch
ドルビー
フルロジック
2ch
2ch
リニア
PCM音源
48k,96k/
16bit,20bit
.24bit
44.1k/16bit
FM変調

44.1k/16bit
約1/5圧縮
44.1k/16bit
DAコンバート
コンピュータデータ

DVD
LD
S-VHS/VHS
Video-CD
CD
MD
容量
最大17GB
標準4.7GB
CD/CD-ROM互換


650MB
650MB
140MB

注:「LD」は「レーザーディスク」




 見た目にはCDと全く同じサイズのDVDのディスクに、このように大量の情報を記録できるのは、次のようなしくみになっている。



 まずは記録されるトラックのピッチをCDの倍以上つめている。さらに変調の仕方の工夫などの効果もあって、CD1枚の容量が650メガバイトなのに対して、DVDはディスク片面の1層だけで4.7ギガバイト(4700メガバイト)という、7倍以上のデータ量が記録可能である。



 さらに、片面の中に、半透明な表層と、その下にある底層という2つの層を持たせることによって、データ量を2倍にし、この記録面を裏表の2面持つことで、さらにデータを2倍(17ギガバイト)にしている。



 また、画像を扱う場合に、MPEG2という圧縮方法を用いているので、画像再生時間480分という膨大な画像データを扱うことが可能になっている。



 このように凄い性能を持つDVDであり、もしパソコンのデータ・バックアップなどに使用すれば、最大で17GBものデータを保存することができるスグレモノなのだが、実際には、現在の段階で製品化されているのは再生専用の「DVD−Video」の規格だけである。



 DVDフォーマットの規格には、次のようになっている。

再生専用ディスク
記録型ディスク
DVD-Video
DVD-Audio
 DVD-ROM 
 DVD-R 
 DVR-RW 
 DVD-RAM 


 この中で、DVD-Videoだけは、早い時期(1996年末)にDVD-Videoプレーヤーが商品化され、ソフト(DVDディスクタイトル)も発売されたので、一般的に(まだそれほどでもないが)市場に出回っているが、他のフォーマット、特に記録の方法は、メーカーがばらばらな規格で開発しているような状況で、統一がとれていない。

 ただ、DVD-ROMドライブはCD-ROMと上位互換性があることから、パソコンにかなり装備されるようになってきた。私が最近購入したSOTEC社のパソコンでは、10万円を切る廉価版モデルでもDVD-ROMが標準装備されている。

 パソコンに装備されても、現段階ではDVD-Videoの再生機能だけしか使えないが、今回発売されたWindows2000ではDVD-ROMをサポートしているそうだから、今後はパソコンに装備するための需要が大きく伸びるだろう。



 DVD-Videoに限ってみれば大ヒットするかと思われたDVDだったが、発売当初は映画会社の規制等の理由で発売される作品(タイトル)が少なかったことや、再生装置の価格が高かったことなどもあって伸び悩んでいたようだ。

 現在でもDVD-Video再生用のプレーヤーは安価なものでも5万円以上するので、これをテレビに接続して映画等を鑑賞するということになると、けっこう割高感があるが、パソコンにDVDのドライブが組み込まれたことで、普及に勢いがつくかもしれない。



 しかし、私が「DVDが大いに普及しそうな兆候が見えてきた」と書いたのは、実はパソコンに装備されてきたという理由からではない。

 ご存じの方も多いかもしれないが、この春に発売されるソニーの「プレイステーション2」にDVDが使われるのが一番の理由である。



 プレイステーション2(以下プレステ2)は、ゲームソフトをDVD(DVD-ROM)で供給する。

 これによって使用できるデータ量が飛躍的に増えるのだから、新作ソフトの質もぐっと向上することが期待されるのだが、DVDを使うことで他にもたくさんのメリットがあるのだ。



 1つめは、旧来のプレステのCD-ROMで供給されていたゲームソフトをそのまま使用できることである。

 DVDがCDの上位互換性を持つために可能なのだが、ゲーム機を新しくしても、これまで使っていたソフトで引き続き遊べるということは、ユーザーにとっては嬉しいことである。(もちろん、これまでのプレステ同様、音楽CDの再生も可能である)



 2つめは、(実はこれが一番大きなメリットだと私は思うのだが)プレステ2でDVD-Videoのソフト(映画等)を観ることができることである。

 プレステ2を購入する人の一番の目的は、もちろんゲームを楽しむことだろうが、ゲームをしないときには市販のDVDソフトで映画等を楽しむことができるのだ。

 これまでのプレステでも音楽CDを楽しむことができるという付加価値があったが、テレビに接続したプレステで音楽を楽しむという人はあまりいなかっただろう。音楽CDを聴くのならば、CDラジカセやポータブルCDプレーヤーなど、安価で手軽な再生装置があった。

 しかし、DVD−Videoを鑑賞するとなると話は別である。DVD−Videoを観るための専用デッキを5・6万円もかけて購入するのは、現在、一部のマニアだけだと思うが、これがテレビゲーム機でも鑑賞可能ということになれば、「じゃあ、DVDでも鑑賞してみようか」という人はたくさんいるだろう。しかもゲーム機を接続したままのテレビで、そのまま観ることができるのだ。

 これまでDVDでのビデオ鑑賞に無関係だった人たちが、大量にDVD−Video鑑賞者になることは容易に想像できる。



 3つめは、ソニーにとってのメリットということになるが、現在まだ規格がきちんと整備されていないDVD−ROMのフォーマットにおいて、ソニーが優位に立てるということだろう。

 プレステ2専用のDVDゲームソフトは、ソニー独自のデータ記録方式になるはずである。

 これはゲーム機としては当然のことである。プレステ2用のDVDディスクが他のメーカーのゲーム機でもプレイできるのであれば専用機を発売する意味がない。またDVD−ROMが装備されているパソコンでも、このディスクを読み込んでプレイするということは不可能である。ゲームの動作に関わるほとんどの部分がプレステ2本体の機能に依存しているはずだからだ。

 しかし、DVD−ROMとしてのファイルの記録法などの形式は、プレステ2が世界的に普及することによって、ソニーの方式が世界標準になることも考えられる。これによって、ソニーはゲーム機業界で優位に立つだけでなく、コンピュータ業界でもDVD−ROMの規格を確立したということで確固たる地位を占めるようになるかもしれない。実際にマイクロソフト社とソニーの接近は、プレステ2の世界的ヒットを予想してのことだろう。



 プレステ2の定価は4万円を切る。この価格で高品質なゲームを楽しむだけでなく、DVD−Videoも鑑賞できるとなると、ずいぶん格安感があるのだが、実はDVD−Videoソフトの価格もかなり安い。

 「タイタニック」などの映画ソフトのディスク価格が、定価で4千円程度である。この価格が上限のようで、あまり人気のない映画のソフトなどは3千円程度。安売りCDショップ等では2千円ちょうどで売られているDVDソフトも多い。私が初めて買ったDVDソフト「ウッドストック」は2千円であった。

 今後、おそらく、プレステ2の効果やパソコン装備のDVDで楽しむ人の増加などで、DVDソフト市場は飛躍的に増大するだろうから、発売されるソフトのタイトルも急増し、価格ももっと安くなってくるだろう。



 音声や映像、コンピュータデータ等の記録については、これまで多くの媒体が考案され、製品化されてきた。

 中には、一世を風靡しながら、今ではほとんど使われなくなったもの(オープンリールテープレコーダーやレコードプレーヤー等)もあるし、性能の高さは評価されながらもあまり普及しなかったもの(Lカセット、8トラックテープ、レーザーディスク、ベータビデオ等)もある。

 最近では、大容量フロッピーディスクやMOなども同様の運命をたどるように思える。



 カセットテープ、VHSビデオテープ、CD、MDなどのように、長期にわたって安定した需要を維持している媒体と、上に挙げたようなあまり普及しなかった媒体をくらべてみると、性能のよしあしよりも再生記録機器の価格と操作性が大きく影響しているように思える。



 今では音楽の供給媒体として完全に定着した音楽CDも、最初はあまり普及の出足がよくなかった。再生機器が、ステレオに接続するCDプレーヤーに限定されており、しかもそのプレーヤーの価格がかなり高かったし、CDで供給される音楽も少なかったからである。

 ところが数年たって、CDラジカセやポータブルCDプレーヤーのような、安価で操作も簡単な再生機器が出てから、急速に普及してきた。これに伴って発売される音楽CD(ディスク)も急増した。

 CDが市場に出始めた頃は、新曲はレコード盤で発売され、ごく一部の人気曲だけがCD化されたのだが、CDラジカセが普及する頃になると、新曲はCDのみで発売されるという状況になった。



 ちょうど今、DVDがその状況に差しかかったように思える。

 その引き金になるのが、プレステ2の発表と、パソコンへのDVD標準搭載なのではないかと思う。

 現在、まだ映像データの市場供給はVHSビデオテープが大半で、あとはCD−Videoが少々という状態だが、ここ1〜2年のうちにDVD−Videoが大きなシェアを占めるようになるだろう。



 DVD−Video普及の影響を受けて、DVD−ROM搭載のパソコンが増えれば、コンピュータデータ供給の媒体としてDVDが標準的になることも大いに考えられる。これも遠いことではなさそうだ。

 時代を先取りしたいという方は、今のうちにDVDを導入しておいたほうがよさそうだし、商売や株で一儲けしたいという方も、DVD関連業種に早めに注目したほうがよいだろう。



 なお、今回の文章をまとめる上で参考にしたのは、パイオニア社の「DVD技術解説」と、ダイキン工業の「DVDオーサリングシステム」のページ。詳しい情報等をお知りになりたい方は、参照いただきたい。
<00.02.20>


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