一晩寝かせる作曲法



 私の高校・大学の先輩で、地元でシンガーソングライターをやっている人がいる。

 全国的に知られているような人ではないが、それでも音楽活動で生計を立てているのだから、たいしたものである。




 若いときに、全国的なコンテストで上位に入賞し、その後、自らの演奏活動とともに、主に秋田県内の町民歌やイベントのイメージソングなどの制作を中心に活動している人だが、他にも地元放送局で流されるコマーシャルソングもたくさん作っている。



 ローカルネタになってしまうが、私の近くの方は、次のようなCM曲を聴いたことがあるかもしれない。

 ♪ 愛のともしび イヤタカ会館‥‥

 ♪ 愛の鐘 安らぎの鐘 ベルコ ベルコ 冠婚葬祭 ベルコ‥‥

 ♪ おはようはママの味 おはよう納豆 ソフトなの‥‥



 いずれも、かなり印象に残るメロディで、県内の子供たちは、どの曲もよく知っているはずである。

 こういうメロディ作りは、かなり難しいのだろうが、この人は、こういう分野の才能は素晴らしいと思う。



 私とは10代の頃からつき合いがあるのだが、奇遇にも、現在の私の勤務校は彼の母校である。

 数ヶ月前に勤務校のイベントがあり、子供たちが母校出身の方とテレビ会議をすることになり、その相手を彼にお願いした。町民歌も彼の作曲なので、子供たちにとっては有名な先輩である。



 テレビ会議の中で、子供たちから彼に次のような質問があった。

「○○さんは素晴らしい曲をたくさん作っていますが、こつは何ですか?」

 彼の答は、こうであった。

「曲が思い浮かんだら、そのままにして、次の朝まで放っておくのです。翌朝になっても、その曲をちゃんと覚えていたら、それを楽譜にします。もし思い出せないようであれば、その曲はボツですね」



 期せずして、私が普段考えていることと同じだったので、正直なところびっくりしたし、同時に私の方法も間違いでなかったなぁと意を強くした(^^;)



 私もプロではないが、若い頃にロックバンドをやっていたこともあって、今でもたまには自作曲などを作っている。上記の彼もそうなのだそうだが、私も正規に音楽の勉強をしたわけではないので、譜面を見てすぐに歌ったり、思い浮かんだメロディをすぐに楽譜に書いたりすることはできない。

 階名(ドレミ)でどうなっているのかはわからないまま、歌を「ふし」として認識している。自分で歌うだけならそれでも十分だし、忘れないようにするにはカセットテープ等に録音すればよいのだが、生の音を使わないで、第三者にそのメロディを伝えたり、自分で保存して置くために楽譜を用いている。

 しかし、私の場合、自分で考えたメロディを楽譜にするには、ピアノ等の楽器がないとできないし、楽器があったとしてもリズム割をきちんとするのも難しくて、なかなか大変な作業である(^^;)



 したがって、自作曲を作るときには、ギターやピアノで和音を鳴らしながら、それに合わせて「歌」を口ずさむということが多い。ときには、楽器を使わずに車を運転しながら歌うなどということもある。

 そのときには「なかなか良いメロディだなぁ」と思うことが多いのだが、それからしばらく時間をおくと、そのメロディを思い出せないこともある。むしろそういうことのほうが多いようだ。



 これは、もともと、あまり良いメロディではないということだと、私は考えている。

 ヒットする歌(曲)は、一度聴いただけで強く心に残るメロディを持っていないといけないと思う。そういうメロディは、作った本人にとっても印象深いものでなくてはいけない。一晩放っておいただけで思い出せなくなるようなメロディは、万人の心に響くようなメロディではないのだ。

(ただし、これは口で歌う「唄」に限ったものであると思っている。オーケストラやジャズバンド等で演奏する曲には、また違った要素があるようだ)



 これが、すぐに楽譜を書くことができる人であれば、メロディが浮かんだ瞬間に楽譜化してしまうのであろう。曲を作るときには、ある程度、興奮状態にあるので、どんな曲でも名曲に思えてしまう。

 しかし、冷静に見てみると、どうってことのない駄作であることも多い。楽譜にしてしまえば、それが駄作であっても作品として残ってしまう。むしろ楽譜にしないで、「ふし」として記憶しておき、翌朝になっても、それが鮮やかに思い出せるのであれば、それは価値のあるメロディで、思い出せないようであれば、それは作品にする価値のないもの、というように判断するのも、良い方法であると思う。



 むりやり自分に関係のある話題に持っていって恐縮なのだが、ホームページに載せる文章もそうなのかもしれない。

 私の文章は、夜に仕上げることが多い。書き上がると若干の推敲をするだけで、その夜のうちにネットにアップロードしてしまう。

 たいていは晩酌をやった後に書くので、いうなれば飲酒制作である。飲酒運転が厳禁されているのは、思考力や判断力が落ちた状態での運転が危険なためであるので、文章を書く際にも同じことがいえるかもしれない。

 ついつい興に乗り、筆が滑って、不適切な表現をしてしまうという失敗も数多くあった(^^;) あるいは、書いているときは「これは素晴らしい内容だ」と思っていても、アップロードして数日たち、あらためて読み返してみると、たいしたことのない内容だったということも多い。



 これも、書いたらすぐにアップロードしないで1日置いてみるとか、アイディアが思い浮かんだら、文章にするまで時間を置く、などという方法で対応できるかもしれない。



 ただ、実際にそうやってみたこともあるのだが、そうすると途中で気合いが失せて、結局、きちんと仕上げないまま、その文章はボツになってしまうということのほうが多いようだ。

 曲を作るにしろ、文章を書くにしろ、しょせんは自分の「これはいいぞ!」という思い込みなのだから、熱いうちに仕上げてしまうということも必要なのかもしれない。ただ、それが自分以外の人にアピールするものなのか、それとも自己満足のひとり相撲なのかということは、少なくても一晩寝かせるというフィルターにかけることで見えてくるようだ。

 と言いながら、この文章もほろ酔い気分で書き上げ、仕上がるとすぐにアップロードしてしまう私であった(^^;)

<00.01.26>


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