割り切れない眠れない
インターネットを学校に導入したら莫大な電話料金を請求されたというトラブルが、全国各地でたくさん起きているという。
私はホームページを開いて数年たつという理由だけで、地区の人たちからは「インターネットの専門家」のように思われているようだが(実はそんなことはない)そういうこともあって、インターネットに関わる相談を受けることがある。そんなときに聞いた話である。
(なお、専用線接続などを行っている学校には関係のない話題であることを、あらかじめおことわりしておく)
今ではプロバイダのアクセスポイントも増え、ほとんどの学校では「区域内通話」の環境であるはずだ。
その場合、通話料(電話使用料)は、3分間で10円である。1時間つなぎっぱなしにして200円。仮に1日5時間の使用だとして1000円。1ヶ月の授業日数はせいぜい20日ちょっとだから、かなり頻繁にインターネットを使っている学校だとしても月に2〜3万円程度で落ち着くだろう。(私のところでも使いまくって、その程度であった)
ところがそれとは桁違いの(事実、10倍以上の例もあったそうだ)通話料が請求されたのだという。
これは全くおかしい。仮に1ヶ月間、完全に接続したままだとしても、30日間で144,000円にしかならないはずなのに、その何倍もの請求になった例もあるというのだ。(私の近隣の学校では、デイタイム特約という、朝の7時から夜の9時までだけの時間制限契約しているところがほとんどなので、1ヶ月間つなぎっぱなしということはありえないのだが)
この原因については後述するが、そういうトラブルが起きた学校で、電話会社に出かけて話し合ったところ、こういう事例が全国でたくさん起きているという話が出たそうだ。
当然のことだが、学校で扱うお金というのは、私的な家計と違って、地方自治体の財務で管理されている。年度当初の予算に沿って執行しなければいけない。若干の予算オーバーであれば補正予算で対応もできるが、桁違いな支出過多の場合は対応しきれない場合もある。
財務担当者としては、想像もしていなかった巨額の請求に驚き、後述の理由もあって、いくらかでも減免措置をとってもらえないかと、電話会社にお願いしたのだそうだが、全国で多発している事態であり、1つの学校だけに特別なはからいをしてやるわけにはいかないということで断られたのだそうだ。
「そういう事態は本当にあり得るのか」という相談を受けたので、私は自分で考えつくことを話してみたのだが、その後、コンピュータを設置した業者や電話会社で調べた結果は、やはり私が考えたようなものであった。
結論を明かす前に、その奇妙な事態について、もう少し補足しよう。
まず、接続の記録を調べてみると(電話会社では情報を持っている)、学校に誰もいないはずの深夜にも頻繁に通話されていたという。しかも、その通話はほとんど数秒程度で切断され、それが何度も繰り返されていたのだそうだ。
なるほど、これなら桁違いの通話料になることは納得できる。接続したままであれば3分間10円なのだが、数秒の接続ならば、それが1回ごとに10円になってしまう。これだと3分間に10回以上も接続できるから、3分間で100円を超えるということが可能になるのだ。
それにしても、深夜にそのような接続があるというのはどういうことだろうか?
誰かが何らかの方法で、学校に忍び込んでインターネットを使用したということも考えられるが、それは警備保障会社の記録を見ればわかることである。調べた結果、不正な校舎侵入の記録もなく、また学校職員が警備を解除して学校に入った記録もない。奇妙なアクセスがあった時間、学校には誰もいなかったのである。
かといって、幽霊がインターネットをしたとも考えにくい。
いろいろ調べた結果、犯人はコンピュータ自身であるという結論になった。
私も、何らかの自動接続が行われたためにそうなったのではないかと考えていたのだが、やはりそうだったらしい。
その後、詳しい話を聞いていないので(あまり関係のない人間に話すのを控えたのだと思うが)はっきりしたことはいえないのだが、コンピュータの設定によっては、定時になると自動的に電話回線を接続して動作を行うこともある。
例えば、一般的なブラウザソフトでも「メールサーバの設定」のところを見ると「メールを○分ごとにチェック」という項目がある(詳細設定を開かないと見えないが)初期設定の段階では、ここが「しない」になっているはずなのだが、誰かがここを「する」にしてしまうと、ブラウザが動いている間は、勝手に回線が接続されることになる。
個人が家庭でモデムやターミナルアダプタを使っている場合は、接続されたことが表示されるので気づくのだが、LANを使っていてルータで接続している場合は気づかないことが多い。
電話回線は接続されてもインターネットへの接続が成立しない場合もある。例えば前述した「デイタイム特約」の場合、夜の9時から朝の7時までの間は、アクセスポイントへの電話回線は接続されるのだが、その時点で「このユーザは夜間のアクセス権がない」と判定されて、電話の接続を切られてしまう。
ここで、アクセスが成立しなかった場合にリダイヤルするという設定になっていれば、リダイヤル設定した回数まで、何度も電話を接続して、すぐに切断されるということを繰り返すはずだ。
私が聞いた事例のうちの1つの学校では、ネットワークのサーバ用コンピュータの電源を24時間つけたままにしておいたそうなので、こういうことが起きたのかもしれない。
この場合は、夜間の電源を切っておけば回避できるが、別の事例では、日中も同様な瞬間的な接続と切断を繰り返した例もあるようだ。この場合は、アクセスするメールサーバの設定が違っていたということも考えられる。接続しようとしても、そこで蹴られてしまってリダイヤルを繰り返すという可能性もある。
これまで述べたようなメールチェックの動作の他にも、コンピュータが自動的に接続するという可能性は多くある。例えば時刻の自動修正のために天文台に接続するとか、ニュースサービスの更新を自動的にチェックするとか、プラグインの更新を確認するとかがそうである。特にプラグインの中には、インストールすると勝手にそういった設定にしてしまうものもあるようだ。(ブラウザ自体がそうなっているものもある)
これらの設定を全て確認して、自動的な回線接続を全て外しておかないと、冒頭に述べたような問題が起きることも考えられる。
さて、問題は、不幸にしてこのような事態になってしまった場合のことである。
前述したように、電話会社では料金の減免措置はとれないということなのだそうだ。たしかに電話会社の責任は一切ないし、何十万円分の通話が行われたことも事実である。
責任は誰にあるかといえば、そういう設定をした人にある。それがコンピュータを扱う業者であることも多いだろうし、学校のコンピュータ管理者かもしれない。あるいは、それらの人はきちんと設定したにもかかわらず、使用者の誰かが不用意に設定を変えてしまったのかもしれない。時としては、あとからインストールしたおせっかいなプログラムが勝手に設定をいじった結果かもしれないのだ。
この場合、巨額の電話使用料を誰が負担すればよいのだろうか。
設定を担当した業者の責任が明確だとすれば、その業者が弁償するということも必要かもしれないが、実際にそうなったら大変だろう。うっかり設定を変えてしまった使用者が特定できた場合に、その人に責任をとってもらうことができるだろうか。これも大変である。
私は、電話会社のチェック機能も甘いのではないかと思う。現在は1ヶ月ごとに使用料の請求が来る。接続状態におかしな状態が発生しても、それに気づくのは、早くても1ヶ月後である。タイミングがずれれば最悪の場合、3ヶ月近くも異常な状態に気づかないということも考えられる。
1ヶ月に何十万円もの通話料を請求されれば、その時点で何らかの対策をとるので、異常な状況をずっと続けるということは考えられないが、電話会社でも、せめて10日位の周期で料金使用状況をチェックし、急激な増加がある場合には、その旨を連絡するというサービスを行ってもよいのではないかと思う。
事実、このようなトラブルが起きているわけだし、今後もいっそう増えると考えられる。学校などの公的な利用だけでなく、個人ユーザでも起きる可能性もあるだろう。
多発している事例の中で1つの例だけに減免措置を行うわけにはいかないという説明ももっともだが、だとしたら、このようなトラブルが起きることを未然に防ぐ手だてをするか、あるいはトラブルが起きても早期の段階に利用者に知らせるという手だてを行うべきであろう。
トラブルが起きるのがわかっていて、そこで生じた大きな使用料を全部収入としてもらってしまうのはどういうものだろうか。割り切れない気もする。
割り切れないといえば、今回のような数秒の接続も、3分ちょうどの接続も、同じ10円というのも、すっきりしない。
電話会社によっては、10円単位ではなく1円単位の課金をするところも出てきたようだが、仮に秒単位で使用料を計算するとしたら、何十万円という金額にはならなかったはずである。また先進国では既に行われているようだが、デジタル通信の場合、使用時間ではなく通信データ量で課金する方法もあるようだ。これだと、この例のトラブルのような場合には、料金はほとんどゼロになってしまうだろう。
一昔前に流行った漫才で「○○のことを考えると、夜も眠れない」というギャグがあった。あの場合は「地下鉄をどこから入れたかを考えると‥‥」であったが、私も考えると夜も眠れないというようなことが、いくつかある(^^;)
例えば、公衆電話の料金。100円玉が使える公衆電話で、10円玉がないためにしかたなく100円を入れることがある。ほんの数分話しただけでもお釣りは出てこない。もちろん、そのことは電話機に明示されているのだが、使用者にとっては全く無駄な数十円を電話機に入れてしまうことになる。その数十円は通話料ではない。だとしたら、どんな名目で収入に組み入れられるのだろうか?(まさか御芳志ではないはずだが‥‥)この金額も全国的には莫大なものになっているだろうと思う。
こうやって考えると、インターネットの接続トラブルで発生した莫大な使用料といい、公衆電話の出てこないお釣りといい、電話に関わるお金というのも、なんだかすっきりしない感じがする。まあ、そのような収入をあらかじめ見込んでいて、一般の利用者に対する料金は低く設定しているというのであれば理解できないわけでもないが‥‥。(トラブルで泣きをみた人は泣いても泣ききれないだろうが)
さて、またまた余談である。
「○○を考えると夜も眠れない」と書いたが、私は何かが心配で夜も眠れないということは全くない(^^;)布団に入ってすぐ寝てしまうのは私の特技でもある。
仕事が遅れていることが気にかかって眠れないという場合、深夜に布団の中で悶々としていても全く生産性がない。そんなに気になるのなら、起きて仕事をすればよいのである。夜中に起きてまで仕事をしたくない私は、悩むことなく、さっさと寝てしまうというわけだ(^^;)
<99.12.21>
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