バージョンダウン


 アプリケーションソフトはできるだけ新しいバージョンのものを使うようにしているのだが、バージョンアップして「失敗した!」と思うこともある。



 最近では、ホームページ作成ソフトがそうだった。



 新機能満載ということで、さっそくインストール。

 操作性もなかなかよい。一通り作業を終えて、保存したファイルをテキストエディタ(ワードパッド)で見てびっくりした。

 前のバージョンでは使われていなかったようなタグがソースの中にたくさん埋め込まれているのだ。



 私はふだんホームページを作る場合、ホームページ作成ソフト(以下、作成ソフト)でおおまかなものを作ったあとに、そのソースをテキストエディタでもう一度編集し、細かい部分を手直しして仕上げるという方法をとっている。

 作成ソフトでは必要以上に<BR>タグや<P>タグが入る傾向があるので、行間を自分の好みにするにはテキストエディタで修正するしかないというのが一番の理由なのだが、その他に、不要なタグを取り除いてソースのファイルサイズをできるだけ小さくしたいというのも、理由の1つである。



 特に<META>タグなどは、ページを表示するためには全く不要である。(<META>タグの中に検索エンジンに引っかけたいキーワードを羅列して、検索ヒット率を高めるという裏技もあるが)

 ほとんどの作成ソフトは、ソースの頭の部分に自動的にこの<META>タグを書き込む。メーカーでは絶対に欠かせない機能(?)なのだろうし、他の人が作ったページを見るときなど「ははあ、これは○○○で作ったな‥‥」ということがわかって便利だったりするのだが、自分の作ったソースでは全く不要であるし、ファイルサイズを大きくする無駄なものでしかない。



 そこで、テキストエディタで編集する際に、こういう部分は、すっぱりと削除してしまうわけである。



 <META>タグの他にも、ソースを細かく見ていくと、フォントや書式など、文章全体で最初と最後にタグを置くことで設定できるようなものを、文字単位や行単位でこまぎれに何度も指定していることもある。



 こういうタグの無駄は、ページの作成手順のせいで生ずることが多い。ページの文章を書いているうちに「ああでもない、こうでもない」と書いたり消したりコピー&ペーストしたりしているうちに、部分部分でフォントや位置揃えを行う結果になったりする。

 効率的な手順で作業を進めれば、無駄なタグの発生を押さえることもできるだろうが、文章作成というのは推敲があって当然なので無駄な手順を踏んでしまうのもいたしかたない。

 古いバージョンでは、それでも無駄なタグが発生することが少なかったのだが、新しいバージョンでは、その発生率がとても高い。



 これは、作成画面のイメージ通りに表示させようという、ソフトのねらいが影響しているのだろう。

 どんなブラウザで見ても自分が思ったようなレイアウトで表示させようとすると、必然的に使うタグが増えてしまう。

 一昔前に売れたある作成ソフトなどは、レイアウトをきちんとするために、ソフト側が勝手に(^^;)<TABLE>タグを使って、ページ全体を表形式で(BORDERを0に指定しているので見た目には表が使われていることがわからないが)仕上げてしまうという凄いものもあった。

 こうやって仕上げられたページは、ソースのデータサイズも巨大になるし、ブラウザで見た人が、その文章を引用しようとコピーするときに全く具合が悪い。



 最近では、専用の作成ソフトを使わなくても、作った文章をHTML形式で保存するというワープロソフトも増えてきた。

 一太郎のバージョン9で試してみたが、たしかにワープロの画面イメージそのままに表示されるようなソースができる。文字のフォントや大きさ、色なども完璧に表現される。ワープロ上で罫線を引いて作った表も見事に<TABLE>タグで再現される。

 ところが、そのソースをテキストエディタなどで見てみると、これが凄い!!

 まず、ソースの前段は<META>タグの山である。ワープロのイメージ通りに表示させるために、細かい部分まで全て設定している。また、文章中に使われているタグの数もただごとではない(^^;)

(一太郎のバージョン10は現時点でまだ使ったことがないので、よくわからないが)



 まあ、タグが多くても少なくても、見た目では全く同じなのだから、難しいことを考えないでホームページを作ろうという人にはそれでよいのだが、私はファイルサイズが大きくなるということがとても気になってしまう。

 HTMLのソースは基本的にはテキストファイルであるから、サイズが大きくなるといっても画像データなどからくらべたら本当に小さいのだが、その小さなファイルでも何百も集まるとけっこうなサイズになる。

 無駄なタグを省くことで、1つのコンテンツのファイルサイズは数パーセントしか小さくならないが、使用できる容量が限られているサーバのハードディスクの中に、できるだけ多くのファイルを置くことを考えれば、この数パーセントの差もばかにはできない。

 また、気がつかない程度の差ではあるが、自分のホームページを見てくれる人にとっても、ファイルサイズが小さいほどサーバから転送される時間も短くなるわけだから、見た目が同じ画面になるのならファイルサイズを小さくすることが親切だということにもなるだろう。



 そこで、作成ソフトが作ったソースを、もう一度、テキストエディタで開いて、細かいところを調べ、無駄なタグを見つけたら取り除くという作業をしているのだが、新しいバージョンの作成ソフトにしたら、削除しなければならない部分が何倍にも増えたというわけである。



 ソースのファイルサイズが大きくなるのは、作成ソフトが多くの機能を持つようになったからだと思う。

 ご存じのように、HTMLの規格も初期の頃より新しくなり新しいタグも登場してきた。さらには「DHTML」・「スタイルシート」など、新しくて便利な機能も使われるようになった。

 これらを全てサポートしようとすると、作成ソフト側でも新しい機能を追加しなければならなくなる。その結果、ソフトの動作のアルゴリズムも変わるわけで、場合によっては単純なタグで済む処理を、わざわざ面倒なタグにしてしまうということも出てくるのだろう。



 ホームページ作成ソフトに限ったことではなく、一般にバージョンアップするたびにプログラムのサイズも、出来上がるファイルも肥大化するアプリケーションが多いようだ。

 新しい機能を追加すれば無理もないことだろうが、結果的にはパソコンに対して過重な負担を強いることになる。

 CPUの性能アップ、メモリの増大、ハードディスクの容量増など、最近のパソコン高性能化に応じているのかもしれないが、旧型のパソコンを新型に替えることができない場合には、新しいバージョンのアプリケーションをインストールできないということも起きてくる。

 無理してインストールしても、古いバージョンよりも動作が遅くなってしまい使い物にならないということもある。



 TVゲームなどに、主人公が次第に剣や鎧、盾などのアイテムを手に入れて強くなっていくものがあるが、ソフトのバージョンアップにはそういう感じを受ける。

 たしかに様々のアイテムを身につければ強力にはなるが、重い鎧や盾を常に持って歩かなければならないとしたら、それに耐えられる体力が必要になってくる。

 強力な敵と戦うのなら鎧や盾も必要だろうが、野ウサギを追いかける程度なら裸に素手のほうが軽快に動けるはずだ(^^;)



 MS-DOSマシン全盛の頃、安くて軽いソフトが人気を集めたことがある。当時、ワープロソフトの正価が5万円、表計算ソフトが10万円もしたときに、1万円を切るワープロソフトや表計算ソフトが登場して、かなり売れたのだ。

 高価なソフトに比較して、使える機能は削減されていたが、基本的な機能は全て備えられており、動作も速かった。



 Windowsのソフトにも、こういう発想はできないものだろうか。

 バージョンアップしたら、同じマシンなのに見違えるように動作が速くなったというようなソフトはないものだろうか。

 せっかくWindows上で動かしているのだから、通常は必要最小限の機能だけを装備した本体プログラムで軽快に動き、必要に応じてプラグインのかたちで特殊な機能に対応する部分を動かすといったような‥‥

 ちょっとWindowsを使い込んでいる人なら、プラグインのやり方でなくても、別のアプリケーションを別ウインドウで動かしておいて、そこでできたソースをコピー&ペーストして本体側のソースに取り込んでくるということもできるのだし‥‥。




 ホームページを作成しようという人の中には、私のように、必要最小限のタグだけで十分という人もいると思う。

 全ての人が最先端の機能をフルに活用するものでもない。新しいバージョンにする場合、そういう点も考慮して、フルスペックのバージョンの他に、最小限の機能ながら軽快に動き、できあがるファイルも小さいというような「ライト版」も、販売するCDの中に収録してくれるとありがたい。(あるいは、そのような設定に変更できるという機能でもよい)

 アプリケーションソフトは次第に安価になってきて、年に1度ぐらいは新しいバージョンを購入することもできるが、まだコンピュータ本体を毎年購入するということはできないようだから、ソフトのバージョンアップは、マシンの高性能化を追いかけるのではなく、使う人の立場になったものであってほしいのだ。



 ということで、せっかく新しいバージョンをインストールした私だったが、もとのバージョンの方が使いやすいことがわかったので、バージョンダウンをすることにした。

 インストールしたばかりの新しいバージョンを、アンインストーラを使って削除し、古いバージョンをもう一度インストールしようとしたのだが、これがうまくいかない。

 手順が悪いのかとも考え、アンインストール後、パソコンを起動しなおしてやってみたりもしたが、これもだめであった。



 幸い、この作業をしたのは、ふだん、ホームページ作りに使っている自宅のパソコンではなく、仕事用に職場に置いてある自分のパソコンでやってみたので、自宅のパソコンには、まだ古いバージョンが健在である。

 しかし、職場のパソコンは、結局、古いバージョンに戻すことができず、仕方なく新しいバージョンのままにしてある。

 一般に、どのソフトも、バージョンアップの作業は簡単にできるように配慮されているが、バージョンダウンとなると考えていないようである。私の場合のように、バージョンダウンができないということもあるようだ。

 高いお金を払って、新バージョンを購入し、インストールしてみないことには、本当の使い勝手がわからないし、その結果、もとに戻したいと思っても、それができないとなると、かなり辛いことである。



 私の場合は、失敗例であったが、何かの参考になればということで紹介した。

 パソコンショップなどで試用ができればよいのだろうが、これはなかなかできないようである。



 さて、ここからは余談である。



 ちょっと前に、学校にセールスにきた業者の方から「イントラバケッツ」というソフトのデモ版を見せてもらった。

 この中に、子供やパソコンに慣れない教師でも簡単にコンテンツが作成できるという機能があった。

 試してみると、これが実に使いやすい。作成のためのボタンは7つだけで、無駄な機能は一切省いてあるのだが、これだけでほとんどの表現が可能であった。

 できあがったソースもエディタで見てみたが、無駄がなくすっきりしていてサイズも小さい。



 「これはいい! 私が求めていたのはこれだ!!」と思ってしまったのだが、業者の人が帰って、あらためて、できあがったソースを見て、また驚いた。

 実は「スタイルシート」を使っていたのである。これだと作る際に思い通りのレイアウトで、文章の書式なども自由自在なのだが、ただひとつ残念なことに、これで作ったページは「Internet Explorer」でないとその通りに表示されないのだ。スタイルシートに対応していない「Netscape Navigator」で見ると、レイアウトがぐちゃぐちゃで、何が何だかわからないページになってしまうのだ。



 注意書きをよくみたら「このページはInternet Explorerでご覧ください」と書いてあった。

 そういえば、商品名も「イントラ」とついている。企業や学校等のLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)で、使用するブラウザをInternet Explorerに統一している場合は全く問題がないのだが、本格的にWEB上で公開することになれば、スタイルシートに対応していないブラウザではきちんと見えないのだから、その名の通り「イントラ」向けであって、インターネット向けではないのだろう。

 あやうく購入しそうになったのだが、早まらないでよかった(^^;)



 この手のソフトで、完全にインターネット対応版ができたら、悩むことなく学校に導入するのだが、あと一歩足りないソフトであった。

 いずれにせよ、ソフトは実際に使ってみないと真価はわからない。また、そのソフト自体は間違いなく高性能化していても、私の場合のように、それが自分にとって使いやすいかどうかは別物のようである。

<99.12.05>


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