悪口を言わない
お子さんをおもちの方は、どんな子に育てるのをお望みだろうか。
控えめで優しい子、それともばりばりと自己主張をする子?
もし前者がお望みならば、かなり効果のある方法がある。
それは、子供の前で絶対に他の人の悪口を言わないという方法だ。
簡単なことのようだが、これはかなり意識しないとできない。
私などは、つい他人の非難をしがちだ。テレビでニュースなどを見ると、「この頃はケーサツも地に落ちたもんだよなー」とか「学校の先生にも変なのが増えてきたねぇ」などと口に出してしまう。
思ったことを口走ってしまうということなのだが、自分の子供の前でそういうことを言うと、なんだか自分が正義の味方のようで偉くなったような気になってしまう。

これが大きな勘違いなのだ。
年端もいかない子供にとって、教師とか警察とか政治家とかいう人たちは、尊敬すべき人でなければいけない。
子供にとってのとりあえずの権威というのは、自分の親であるから、その親の言うことは、ある程度、その子の考えの基本になってしまう。
その結果、子供は「警察とか教師とか政治家というのは、あまり尊敬できない人たちなんだな」という見方をするようになる。
そうしておいて、いざとなったら「先生の言うことをきかなきゃダメじゃない!」などと言っても、子供は教師の言うことなど聞くもんじゃない。
夫婦の間での悪口になると最悪である。
普段、「お父さんは本当にだらしがなくて」とか「お母さんはモノを知らないんだから」などという悪口を言い合うのを子供にさんざん聞かせておいて(中にはご丁寧に、父親がいないところで、子供に『お父さんみたいにはならないでね』などと言い聞かすお母さんもいるようだが)、子供が何かしたときなど「お父さんも、この子に意見して!」ということになっても、子供が尊敬できない父親の話を本気で聞くはずもない。
この「他人の悪口を言う」というのは、かなり家風のようにも思う。
以前、そういう感じの家におじゃましたことがあるが、最初は家族の中で言い合いでもしているのかとびっくりしたことがある。
しばらく聞いていたら、そうではなくて、それがそこの家の普通の話し方なのだとわかったのだが、いずれにせよ、あまり良い感じはしなかった。
そういう雰囲気の中に育つと、子供も影響を受ける。
結果的には、その子も同じように他人を批判的に見て悪口を言うような人間に育つか、あるいは「うちの親たちは他人の批判ばかりしているけど、実は大した人間じゃないのだな」と悟るかのどちらかになる。
どちらにせよ、その子育ては失敗である。
もともと、本人に面と向かってではなく、その場にいない人の批判をするというのは、あまり立派なことではない。
弱い犬ほどよく吠えるなどというが、人間でも自分に自信のない人に限って他人(特に権威のありそうな人)の批判をしがちである。自分はそれで偉くなったような気がするかもしれないが、実は寂しい自己満足である。しょうもない鬱憤晴らしに過ぎない。
もっとも、いつもそういうことばかり言っている人はごく一部の「変わった人」だけなのだが、家庭に戻ると、つい気を許して日頃の愚痴とともに他人の批判をしてしまうということも多いだろう。
それはそれで仕方がないのだが、少なくても子供の前ではやるべきではない。
子供の前での他人の悪口は、考え方のひねくれた子供に育てるか、親を尊敬しない子供に育てるかという、どちらにしても悪い効果しか残さない。
余談だが、親が教師という場合は特に気をつけないといけない。職場についての愚痴が、すぐに教師についての悪口になってしまうからだ。
「最近の若い先生は‥‥」などという話を常時聞かされている子供は、自分の学校の教師をも軽く見がちである。
子育てということを考えると、親が子供の前で話すことは十分に配慮しなければいけない。
思ったことをそのまま口にするというのでは、良くないことのほうが多い。まして自分の鬱憤晴らしのために、人の悪口を子供に聞かせるなどということは厳に慎むべきである。
子供の前では、親はある程度、演技者でなければいけないのだ。
「親が演技すべき」ということには異論もあるかもしれない。ただ、私はそれが必要だと考えている。
だから、子供がいないところでは、自分の地を出してもかまわないだろう。
しかし、地の自分と、演技している自分が、あまりにかけ離れている場合には、演技することも辛くなるし、建前の部分でのボロも出やすい。
悪口を言いまくりたい人が、「子供の前では絶対に他人の悪口を言わない」という演技をしても、いずれ子供が成長すれば本質を見抜かれてしまう。(それでも子供が優しい子に育っていれば、一応の成果はあったことになるが)
本当は、軽々しく他人を批判したりしないような人間に、自分自身を変えていくことのほうが、もっと大切なことである。
これも余談であるが、以前、生徒指導上の問題を話し合ったとき、母親の精神状態が安定しないのが原因で、子供に悪影響が出ているという事例があった。
母親がゆっくりと安定した精神状態で暮らすことができれば、事態は改善するということになったのだが、その母親には親しい友人などが全くいないらしい。
それまでも、その母親と仲良くなろうと、近づいていった人はかなりいるらしいのだが、その母親が好む話題は他人の悪口ばかりで、話し相手になろうとした人たちは、その話題にあわせることができず(悪口にうなずいていれば同調したことになるし、反論すれば機嫌を悪くするので)、結局、誰も友達になれなかったそうである。
それに他人の悪口ばかり言っている人をみると、その場では自分の悪口を言われなくても、「きっとこの人は、私がいなくなれば、私の悪口を言うのだろう」と思ってしまうので、気が許せないものだ。
この母親も、たぶん悪口ばかり言っている家庭に育ったのかもしれない。
ちょっと長くてくどい文章になってしまったが、結論としては、「できるだけ他人の悪口は言わないほうがよい。それが無理だとしても、せめて子供の前では悪口をやめよう」ということになろう。
えっ? 私の家ではどうかって?
そんなにうまくやっているわけではありません(^^;)あまりうまくいかなかったからこそ、これから子育てをする人たちの何かの参考にでもなればというわけで、だらだらと書いているわけで‥‥。
おあとがよろしいようですな(^^;)
<99.09.23>
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