見事な例え



 「サイコ」「鳥」などで知られる、アルフレッド・ヒチコック監督。この8月13日が生誕100年だったそうだ。



 その日の新聞記事からの受け売りで恐縮だが、「スリルとサスペンス」などという日頃よく耳にする言葉を、実にうまく説明しているヒチコック自身の言葉があるのだそうだ。



「乗るべき列車の時刻に間に合うかどうか必死で駅に駆けつける」のが、サスペンス

「ホームに駆け上がり、発車間際にステップにしがみつく」のが、スリル

「やっと座席に落ち着くことができたが、それが違う列車だったと悟るその瞬間」が、ショック



 実に見事な例えである。サスペンス・スリル・ショックという、似たような言葉を、列車に間に合うように走る1人の人間の行動によって、きちんと区別して説明している。しかも、その行動にはストーリーがあり、かつ、起承転結を踏んだドラマ性もある。

 こういう考え方ができた人だからこそ、傑作を残し、天才・鬼才・巨匠と呼ばれたのであろう。



 この「うんちく講座」でもそうだが、私も何かを説明しようとするとき、「例えば‥‥」という例え話をすることも多い。

 しかし、なかなかうまい例え方をすることができない。例えが直接的過ぎたり、まわりくどかったりするため、かえって例えを使わないで事実そのものをずばっと言ったほうが分かりやすいのでは‥‥ということの方が多いようにも思える。



 講演会などで話を聞いても、例え話が上手な人は、話そのものが上手なように感じる。話の内容がカタイものなほど、上手な例えを使って話されると、なんだか分かったような気になる。

 ただ、なかなかそういう話をする人に出会うことがない。教育関係でよく話される「基礎・基本」などについて、「基礎は家の土台で、基本は柱にあたるもの」などと言われても、「なんだかなぁ‥‥」という気分になる。



 うまい例え話を聞いたときには、なるべくメモしておいて、もらうようにしているのだが、自分でオリジナルの例えを考えついたときにはとても儲けたような気分になる。

 それがつまらないものだったとしても、少しは良い気分になるのだが(ほとんど使えないけれど)、人前に出せるような例えを考えついた時には、1万円くらい拾ったような気分になる。

 ヒチコックのような天才的な例えはできないのだが、それなりに気のきいた例えを探すというのも、私の趣味のひとつではある(^^;)


 ちょっと差し障りのある内容の文章を書くときには、わざとわかりにくい例えを使って、分かる人にだけ分かってもらうという手法もあるのだが‥‥(^^;)

<99.08.19>


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