立場をかえる



 PTAの役員会で、おもしろい提案があった。

 登校時の交通指導を子供にもやらせてみたらという提案である。



 普通、登校時の交通安全指導は、教職員や保護者が行っている。子供は常に指導される側である。

 これを、指導する側に立たせてみようというのだ。もちろん、全ての小学生にやらせるというのは無理だが、高学年の児童ならできないわけでもないだろう。1回の交通指導につき、数名ずつ当番を決めてやってみるのもよいかもしれない。



 児童に交通指導をさせるのは、その日の登校の安全をねらうのではない。交通指導をする人の立場になってみることによって、普段の自分の歩行のしかたなどを見なおすという効果を期待しているのである。

 大人から指導されるままに、道路の右側を1列になって歩くだけでなく、自分が指導する側として、道路状況などに気を配りながら、横断のしかたなどを指示するという体験は、交通安全意識の向上に生きてくるはずだ。



 このように「立場をかえてみる」ということが効果的だということは、他の生活場面でも感じることがある。



 たまに、研修会などで、講義を聞く立場になってみると、ただ話を聞くだけということが、どんなにつらくて退屈なことなのかということがよくわかる。

 「ここで、ちょっと実際の操作活動をやらせてくれればいいのに」とか、「もう少しくだけた話も交えてくれればいいのに」とかいうことを感じることもある。

 そこで、普段の自分の授業を振り返ってみると、その退屈な講師と同じようなことをしているのに気がついて、赤面してしまうこともある。



 授業改善を考えるとき、「子供の立場に立って」というのは、よく言われることだが、本当に子供の立場に立って考えているのかと問われると、かなり自信がない。

 指導案の文章表現は、「○○を指導する」「○○の活動をさせる」という教師の立場での表現から、「○○を学習する」「○○の活動をする」という具合に、子供の立場で表現するようになってはきているが、その本質はというと、あまり変わっていないような気もする。

 教える立場の人間も、ときには教わる立場に立ってみるのも、大事なことだろう。



 反対に、「たまには教える立場になってみたら」と思うこともある。

 よく感じるのが、パソコン講座の指導をしているとき。パソコンの研修に熱心なのはとてもよいことなのだが、いつも受講者側にいる先生をときどき見かける。短期間にいくつもの講座を積極的に受講しているのなら立派だが、そうではなく何年も前からそうなのである。

 どうも、パソコンは教えてもらって覚えるものと考えているように感じられる。これだと、あまり上達はしない。

 全くの初心者がパソコンに触るときには、講座などで効果的に学ぶのがよいと思うが、ある程度手ほどきをしてもらったら、あとは自力でやっていくべきである。

 あまり自信がなくても、自分の職場などで、自分よりも初心者の人に指導をしていくぐらいの気持ちでやってほしい。自分で講座のプログラムを立て、テキストも市販のものをコピーしたりしないで自作するとよい。

 私も10年以上、パソコン講座の指導をしてきたのだが、講座資料を作る際に、自分の知識のあいまいなところを確認できるし、教えるために勉強しなおすことも多かったので、自分のパソコンの力を高めていくには、とても効果があったと感じている。



 「指導する・される」という例だけを述べたが、他にもまだあるだろう。例えば夫婦の間でも、相手の立場に立ってみればよいことがたくさんあるのだが、自分ではほとんど実行できないでいるので、ここでは、あえて触れない(^^;)

 まあ、「思いやり」という言葉の本来の意味が、「思い」を(他の人に)「遣る」であるから、立場をかえて考えるということは、古くから大事なことだとされているのだろう。



 「自己チュー児」という言葉があるのだそうだ。「自己中心」な児童をさすのだそうだが、これがかなり増えているという。

 「学級崩壊」のひとつの要因にもなっている。(指導の側の問題もあるとは思うが)

 自己中心の度合いが高い子供を特定して「自己チュー児」と呼ぶのだろうが、自己中心という点では、私などもかなり自信がある(^^;)

 私より年齢が上の人には、あまり見かけないので、私どもの年代が、そのはしりだったのかもしれない。そして年齢が若くなるにつれ、その傾向が強くなってきているようにも感じる。最近の若い人の政治離れ・労組離れなどは、その現れかもしれない。

 自分に強くこだわるということも大切なことなのだが、自分の立場だけでしか物事を見ないというのではいけないと思う。そうならないためにも、たまには、自分と反対の立場に立った体験をしてみることも必要ではないだろうか。

<99.08.11>


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