魚屋ホームページ考
2軒の魚屋があったとする。
1軒は、ポスターやカレンダーの裏紙に太いマジックで手書きの価格表。「今朝採れたて!アジ1匹100円!」などと書かれている。
もう1軒の店主はコンピュータ好き。仕入れた魚をデジカメで撮影。それを取り込んで画像処理ソフトで作りカラープリンタで仕上げた価格表。値段の文字も太ゴシックフォントを立体表示し、インパクトが強い。
あなただったら、どちらの魚屋をひいきにするだろうか?
通りすがりの客だったら、かっこよく仕上げられた価格表が貼ってある後者の魚屋にひかれるかもしれない。しかし、毎日の料理に使う魚を買いにいくのなら、体裁にこだわらなくても魚屋としての本業が充実している前者の店の方が良いような気がする。

これが自動車販売店などになると、話は違ってくる。
手書きの貧弱な広告しかないような販売店では、ちょっと不安である。やはり美しく仕上げられたポスターが店を飾り、店内のレイアウトやディスプレイが工夫されている方が、お客をひきつけるだろう。
インターネット上のホームページをいろいろ見ていると、似たようなことを感じる。
上(↑)で自動車販売のことに触れたが、インターネットでも、自動車の宣伝ページのここやここなどは、とてもカッコイイ。使っている表示テクニックも多彩である。
反対に、ほとんどテキスト表示ばかりの地味なページもある。大学の研究室で作っているページなどには、そういうものが多い。
上で例にあげたページ(クリックでつながります)は、どれも優れたページだと思う。後者のように見た目が地味でも、そのことによってホームページの価値が下がるということは全くない。(例としてリンクしている『福井大学岡島先生』のページなどは本当に素晴らしい)
要は、ホームページの性格と体裁がマッチしていればよいのである。
魚屋のように、ネタが新鮮で豊富ということを売り物にしているのであれば、内容で勝負なのだから見た目は地味でもかまわない。
また、商品の宣伝のように、視覚・聴覚などをひきつけて、そのものの個性を強烈にアピールする必要があるものは、あらゆるテクニックを駆使したページにしたほうがよいだろう。
私のホームページは、どちらかというと「魚屋」型であると思う。
したがって、基本的にはテキスト主体である。文字表示だけでもよいのだが、それだけでは読んでいただく方も飽きると思うので、文字や背景の色に変化をつけたり、必要に応じて画像も表示したりしている。また、表形式を使って、レイアウトに変化をつけることも時々利用している。しかしそれは必要最小限であり、できるだけ軽く表示されることを最優先している。
私のホームページは特にそうであると思っているのだが、私に限らず、個人のホームページというのは、自己表現のための1つの手段である。
「自己表現」というとカッコイイのだが、別の見方をすれば自己満足ということでもある。個人のホームページは特別な公共性を持っているわけでもないし、それが無くなったからといって誰も困るわけではない。
だから、どのような表現をしようと自由であり、それが個人ホームページの素晴らしいところでもあるのだが、自分のホームページがどのような性格のものであり、そのためにはどのような表現方法をとるのがふさわしいかという点はわきまえておいたほうがよいかもしれない。
ホームページを作るようになると、様々なテクニックなども身につけてくる。それを全て使って試してみたいような気にもなってくる。
自分のホームページが、自動車のカタログのように、「めったに更新しないけれど、見栄えだけは重視したい」というものならば、Javaスクリプトとかスタイルシートのような技を多用するのもいいだろう。
ただ、この手のテクニックは見る人のブラウザの機能によってうまく表示されないことも多いので、その点には配慮しなければならない。同様に音楽や効果音を鳴らすのもInternet ExplorerではできてもNetscape Navigatorではできないとか、その逆もあるので、注意が必要である。
ホームページを1つの美術作品(あるいは芸術作品)と考えるのならば、じっくりと時間をかけ、あらゆるテクニックを駆使して制作してみるのも悪くはない。ただし、そうなるとしょちゅう更新するというのは無理なので、毎日たくさんの人がアクセスするホームページをねらうのは苦しい。
「基本的には文章主体のホームページなのだが、凝ったテクニックが使えることも誇示したい」というのであれば、「HPテクニック実験コーナー」のようなページを別に設けた方が良いと思う。
いずれにせよ、ページが表示される速度が遅くてはどうしようもない。高度なテクニックを使っても、そのテクニックを極めていれば、けっこう素速く表示されるようだ。
子供を対象としたページなどは、その点でうまく作られているものも多い。中でも私が感心したのが、NHKの「インターネットスクール・たったひとつの地球」である。これは見た目も良いし、反応の速さもそこそこである。ビジュアル効果を考えたホームページ作りを目指している人は参考にしたらいかがだろうか。
反対にひどい例も多いが、その意味でお勧め(^^;)なのが、ここである。よっぽど物好きでない限りは覗かないほうがいいだろう(^^;)。地獄を見ること請け合いである。(もっとも、ここはたいしたテクニックも使っていないのだが)
最も「魚屋」的なホームページといえば、「毎日更新・日記モノ」系のホームページであろう。
この手のホームページには優れたものも多く、私もいくつかのホームページは毎日のように読ませていただいている。
ただ、この種の場合、最も気をつけなければならないのが「マンネリ」化である。ホームページを作り始めた頃は、毎日、けっこう気のきいた文章を書くのだが、次第に「今日は○○をした」とか「体調が悪く疲れてきた」などという内容に陥りがちである。
それでも、そのページのファンの人たちは掲示板(日記型のホームページにはなぜか掲示板を備えているところが多い)で、「疲れ気味のようですが大丈夫ですか?」などと励ましてくれるので、それはそれで盛り上がっているのだが、これが続くようになると、私などは「なんだかなぁ‥」という感じを受けてしまう。
毎日、読む人にインパクトを与えるようなことを書くというのは、かなり難しいことだと思う。完全にそれができるのならプロの物書きになれるだろう。ホームページ作りに自分の全生活をかけているのならまだしも、普通の生活を営みながらやっていくとなると、毎日、充実した内容のものを書くのは無理に近い。
「そうではなく、ありのままの自分を表現するだけ」というのなら、それはそれで良いのだが、この手の場合、毎日の日記を保存して公開しても、時が過ぎたものについては再読する価値は低い。また「毎日、日記を書いて公開する」という作業を自分に義務づけていると、そのことが苦痛になってくることも考えられる。そのプレッシャーが次第に強くなって、最終的にはホームページの公開そのものをやめてしまうという例も出てきているようだ。
私の場合、なるべく更新をまめにやるようにはしているが、書きたいことや書く時間がなかった時には無理をしないようにしている。また書いたものは時がたっても読んで価値が落ちないようなものにしたいと思っている。
そういう面では「魚屋」的ホームページとはいっても、日持ちのする薫製(くんせい)を扱っている「乾物屋」かもしれない(^^;)
適度に枯れてくるぐらいが、良いホームページなのかもしれない。私のところも開設当時からみると不要なコーナーは閉鎖したりして、ムダ肉はそぎ落としてきているつもりだが、内容的にはまだまだ未熟という意味での「ナマ」なものも多いようだ。
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