JRの帯



 私の知り合いの教師から聞いた実話である(^^;)



 都会の有名な小学校の公開研究会を参観するため、夜行の寝台列車で、秋田県を出発したK先生。同じ学校のS先生との2人旅である。

 こちらの駅を発つのが午後9時過ぎ。慣れない寝台列車で寝付けなくてはいけないと、出発前に駅前の飲み屋で一杯やり、列車に乗り込んでからも缶ビールを2本ほど空けた。

 おかげで、眠れないということもなく、ぐっすりと就寝。



 ところが眠り薬が効きすぎたのか、目覚めたのは終点の駅に着く直前。

 同行のS先生は、既に身支度を整えて、下車の準備ができている。「S先生も、僕のことを起こしてくれればいいのに‥‥」などと心の中でぶつぶつ言いながら、慌ててK先生も身支度をする。

 寝るときに着ていた「JRの浴衣」を急いで脱ぎ、背広に着替えるが、昨夜脱いだはずの靴下が片方、どうしても見つからない。トランクから換えの靴下を出すヒマもなく、片足は裸足のまま靴を履き、急いで列車から降りたのだそうだ。



 下車後は、公開研究会の時刻までだいぶ余裕があるので、別の靴下をトランクから出して、履き替える。

 さらに身の回りを調べてみると、財布が見あたらない。背広のポケットに、当座に使う小銭入れと、大きな額が入った財布を入れていたのだが、小銭入れはあっても財布が見つからないのだ。

 まあ、小銭入れにも万札が1枚程度は入っていたので、朝食代や電車代は間に合ったのだが、数万円が入った財布をなくしたとなるとまずい。



 そんなことを気にしながら、ちょっと重い頭をかかえて授業参観。

 都会の学校の素晴らしい授業はしっかりと見て、分科会での話し合いでも学ぶことが多かったのだが、どうも財布のことが気になってならない。



 そうしているうちに研究会も終わり、まずは宿舎のホテルにチェックインしたK先生。部屋に入って、あらためて手荷物などを調べてみた。

 すると、セカンドバックの下の方に、例の財布が入っているのを見つけた!

 よくよく考えてみたら、昨夜、寝るときに、酔った頭で「大金の入った財布を背広のポケットに入れておくのは不用心」と思って、バッグに入れ直したような気もする。

 まずは、財布が見つかって一安心、ということで、背広やワイシャツを脱いで、普段着に着替えることにする。



 そこで、ベルトを緩め、ズボンを脱ごうとしたときに、ズボンの下に異様な物を発見した。

 なんと、「JRの浴衣」の帯をそのまま締めていたのだった。

 「うーん、JRの帯を締めたまま、授業を参観していたのかぁ‥‥」と、しみじみ感動したK先生であった(^^;)

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