小学校の音楽の教科書に載っている曲というのは、教師以外の方はあまり聴く機会がないかもしれない。教師であっても音楽を担当していない場合は触れる機会が少ないし、音楽の授業をもっていても自分が担当する学年の曲以外は知らないということも多い。
この頃の音楽の教科書には、なかなか良い曲が載っている。「子供の歌」としてだけでなく、大人が聴いても「いい曲だなぁ」と思うような曲も多い。私が若い頃に流行していた曲などでも教材曲になっているものもある。(小学校6年生の「翼をください」とか、中学校の「イエスタデイ」とか)
学習指導要領で共通教材として指定されている曲は、全ての教科書会社の教科書で扱われるが、その他の歌唱教材は会社ごとに選曲されるので、それぞれの教科書会社では工夫をこらした選曲をしている。文部省唱歌などのように昔から親しまれていた名曲も多く取り上げられているが、上記のような往年の(^^;)ヒット曲や、子供たちの感性にぴったりくるような曲もたくさん載っていて、なかなか楽しめる。
その中で「勇気一つを友にして」という曲がある。全ての教科書会社の音楽の教科書に載っているとは思えないが、私の地域で使っている「教育芸術社」の6年生の音楽の教科書に載っている曲である。
私の記憶では、自分自身が小学生の頃には教科書に載っていなかったが、勤め始めた頃には、もう教科書に載っていたように思うので、少なくても20年くらいは歌われてきた曲だと思う。
どんな曲かご存じない方は、下のプレーヤーの再生ボタンをクリックして聴いていただきたい。
「勇気一つを友にして」
作詞:片岡 輝 作曲:越部信義
日本人好みの短調のメロディーで、構成や歌詞もドラマチックで、なかなか歌って気持ちのよい曲である。
ちなみに歌詞は、次のようになっている。
1.昔ギリシアの イカロスは
ろうで固めた 鳥の羽根
両手に持って 飛び立った
雲より高く まだ遠く
勇気一つを友にして
2.おかはぐんぐん 遠ざかり
下に広がる 青い海
両手の羽根を はばたかせ
太陽めざし 飛んでいく
勇気一つを友にして
3.赤く燃えたつ 太陽に
ろうで固めた 鳥の羽根
みるみるとけて 舞い散った
つばさうばわれ イカロスは
落ちて命を 失った
4.だけどぼくらは イカロスの
鉄の勇気を 受けついで
明日へ向かい 飛び立った
ぼくらは強く 生きていく
勇気一つを友にして
歌詞をご覧いただくとおわかりのように、ギリシア神話の「イカロスの翼」をもとにした曲である。
ただ、もともとの「イカロスの翼」の話を知っている人には、「どこが『勇気』なんじゃい?」ということになってしまいそうだ。
参考までに「イカロスの翼」の概要を下に書いてみる。
昔、ギリシアにイカロスという少年がいた。父のダイダロスは道具や仕掛けを作る名人で、国王ミノスに命じられ迷宮を作った。
ミノス王はその迷宮の奥に怪物を飼い、毎年いけにえに7人の少年と7人の少女を迷宮に入れた。
これを知ったテーセウスという勇敢な少年が自らいけにえをかって出て、怪物を剣で刺し、入り口から伸ばしておいた毛糸をたどって迷宮から脱出した。
怒ったミノス王は、ダイダロスとイカロスを城の高い塔に閉じこめた。しかし、ダイダロスは、鳥の羽根を集めて、それをロウを溶かして固め、大きな翼を作り、それを腕につけて塔から飛び立って脱出することを計画した。
できあがった翼をつけ、飛び立とうとするときに、ダイダロスは息子のイカロスに、次のように注意をした。
「あまり高く飛ぶと太陽の熱でロウが溶けてしまうから、気をつけなさい!」
しかし、空を飛ぶ喜びで夢中になったイカロスは、父の忠告を忘れ、空高く飛び上がったため、翼がばらばらになり、海に落ちて死んだ。今でもこの海をイカリアと呼ぶ。
つまり、イカロスという少年は、父の言うことを聞かずに勝手な行動をとったために死んでしまったという、思慮分別のない愚かな少年なのである。
どう考えても「勇気のある少年」とは思えない。こんな少年の行動を「鉄の勇気」とほめたたえ、それを受けついで、「明日に向かい飛び立つ」となると、これはまずいことになる(^^;)
3年ほど前までは、教師用の教科書指導書に、資料として「イカロスの翼」の話が載っていた。この話を子供たちに読んで聞かせると、子供たちも私と同じように「これって勇気ある行動なの?」と首をかしげた。
そういう細かいことにこだわらず、曲としてだけ見るのであれば、「勇気一つを友にして」は、なかなか良い曲ではあるのだが、その原典となったギリシア神話を知ってしまうと、「うーん!まずいんじゃないの。この曲は‥‥」と思わせられる曲である(^^;)
もう一つこだわると、「ともにして」が、「伴にして」もしくは「供にして」ではなく、「友にして」というのも、ちょっとひっかかる‥‥