勘違いの合唱
発端
新聞にこんな記事があった。
連立政権誕生を機に、JY党のOZ党首がJM党大会に来賓として出席した。OZ党首は、JM党のOB党首と肩を組んで、JM党歌を合唱した。
私はこの記事を読んで、思わずウーンとうなってしまった。
さすが日本の首脳。音楽的な才能も素晴らしい!! ところで、どちらが高音部を歌い、どちらが低音部を歌ったのだろう(^^;)
音楽を少しでも知っている方なら、私の言っている意味はおわかりのことと思う。
たぶん、両党の党首は、合唱ではなく斉唱をしたのだと思う。この記事を書いた記者が合唱という言葉の意味をきちんと理解していなかったのだろう(^^;)
うんちく
小学校6年生の音楽の時間に、歌い方の形態として、「独唱・斉唱・重唱・合唱」について学習する。このことは常識的な内容なのだが、ここで整理してみよう。
まず、1人の人が歌うのが独唱である。(Vocal solo)1つの声しか出せないのだから、当然、歌うメロディ(旋律)は1つだけになる。下にMIDIデータを準備してみた。人間の声ではないのだが、感じは分かっていただけると思う。再生ボタンを押して聞いていただきたい。(以下、再生方法については同じ)
次に、大勢の人数(複数であればよいので2人でもよいのだが)で歌うもので、1つのメロディを全員で歌うのが斉唱である。(Unison)これを合唱だと勘違いしている人が少しいるようだ。ジャニーズ系のグループなどは希に後述する合唱形態で歌うこともあるが、ほとんどの場合は斉唱をしているようだ。
次は、メロディが複数(高音部と低音部とか、高音部・中音部・低音部など)になるが、各パートを歌う人数がそれぞれ1人ずつというものである。
これを重唱という。(Part singing)旋律の数によって「二重唱・三重唱・四重唱」などと呼ばれることもある。由紀さおり・安田祥子姉妹などが、よくこの形態で歌っている。(このMIDIデータは三重唱風になっている)
メロディが複数で、しかもそれぞれのパートを複数の人が歌うのが合唱である。(Chorus)この場合、「ソプラノ・アルト・テノール・バス」など、声質にあったパートに分けることが多い。男声のみの「男声○部合唱」、女声のみの「女声○部合唱」、男女いっしょの「混声○部合唱」などがある。
だから
このように、複数の人数で歌っても全ての場合が合唱であるとは言い切れない。斉唱の場合もあるし、重唱になることもある。
このことについては、儀式の司会者などは比較的きちんと使い分けているようだ。例えば卒業式などでは、司会者は「君が代斉唱」とか「校歌斉唱」と言っているのではないだろうか。(たまに校歌が合唱形式の編曲になっていることもあるが、その場合は「校歌合唱」と言っているはずである)
しかし、レクリエーションゲームの指導者などで勘違いをしている人を見かけることがある。
「さあ、みんなで『幸せなら手をたたこう』を合唱しましょう!」などと呼びかけられると、マジメな私などは無理をして低音部のメロディをひねり出して歌ったりして、周囲の人のひんしゅくをかったりすることがある(^^;)
でも
冒頭の記事の筆者が、このようなことを知らなかったのかというと、そうとも言い切れない。知っていながら意図的に合唱という表現をしたのかもしれない。
辞書をひいても、合唱について、「多人数が二部・三部・四部などに分かれ、互いに異なった旋律を歌い合わすこと」という意味の他に、(俗語)として「多くの人が声をそろえて歌うこと。また同じ文句を一斉に唱えること。斉唱」という意味も併せて書かれていることもある。
たしかに、「全国から増税反対の大合唱が起こった」などという場合、いくつかの声部に分かれて「はんたーい!」と言ったとは考えにくい(^^;)
冒頭の記事の場合も、「両党の党首が斉唱した」と書けば正確だろうが、どうもおさまりが悪い感じもする。
大勢で声を合わせて歌う場合(本当は斉唱なのだが)、口語で言うときに、合唱にかわる適当な表現がないような気もする。
「さあ、みんなで斉唱しよう!」では、どうも勢いがないし、「ご唱和ください」ならまだしも「さあ、みんなで唱和しよう!」でもないだろう。間違った表現をしたくなければ「さあ、みんなで歌おう!」というしかない。
それから
ちょっとすっきりしないこともある。
1つは、人間の声で歌う場合と、楽器で演奏する場合の、呼び方の統一性がとれていないことだ。
「バイオリン独奏」という場合、本当にバイオリン1つだけで演奏することもあるが、その場合は「無伴奏」と呼んで区別することが多く、普通の場合はバイオリンの他にピアノ等の伴奏がつくことが多い。人間の歌の場合もピアノ伴奏等がつくから同じかもしれないが、バイオリン+ピアノなのに「独奏」というのも変な感じもする。これも後述する「合奏」の1つなのかもしれない。
「斉唱」はあるが「斉奏」という言葉は聞いたことがない。しかし大正琴やマンドリンの演奏で「斉奏」と呼んでもおかしくないような演奏を聞いたことがある。
歌の場合は「重唱」と「合唱」の違いは明確だが、楽器演奏の場合は、そうでもないようだ。「弦楽四重奏」のように、はっきりと「重奏」と呼んでいるものもあるが、「ハーモニカ1本+タンバリン1つ+ギター1本」などの演奏の場合、これが歌なら「重唱」にあたるはずなのに、楽器だと「合奏」と呼ぶことが多いようだ。
もう1つよく分からないのは、合唱と重唱の境目のような歌い方の場合である。
例えば、3人の人がいて、2人が主旋律を歌い、あと1人が低音部の旋律を歌った場合、これも合唱と呼んでいいのだろうか?
ここらへんは、私自身、ちょっとすっきりしないところだ‥‥
私は音楽は好きなのだが、専門的な教育を受けたわけではないので、間違っていることもあると思う。どなたか、正確な知識を持っておられる方は、掲示板やメールなどで、上記の「すっきりしない点」等について教えていただければありがたい。
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