世紀のうんちく
この文章を書いているのが1999年の1月。例のノストラダムスの予言の「恐怖の大王が空から降りて来る年」とのことで、少々騒ぎ出した人もいるようだ。
そのことが頭にあるせいなのか、放送などで間違ったことを言っている例を見かける。
「いよいよ今年は世紀末の年ですね‥‥‥」
この発言は解釈のしようによっては間違いとも言えないが、「20世紀も今年で終わりですね」という発言は完全に勘違いである。

上の図をご覧いただきたい。ご存じの通り、「世紀」というのは「年」を数える際の「100年単位」のひとくぎりである。ここで「1世紀」は西暦1年から西暦100年までになる。
したがって「19世紀」は、1801年から1900年までの100年間になり、
「20世紀」は、1901年から2000年までの100年間である。
1999年が20世紀の最後の年ではなく、20世紀の世紀末の年といえば2000年になるわけである。(もし1999年が20世紀の最後の年だとしたら、「20世紀」と呼ぶ根拠がなくなることからもおわかりだろうが‥‥)
「世紀末」という言葉が、「世紀の終わりのほうの時期(数年間)」を指すのだとしたら、「今年1999年は世紀末ですね」というのもおかしくはないが、1999年を20世紀の最後の年だと思っているとしたら、それは大きな勘違いである。
まあ、このことは常識のようなものだから、このホームページをご覧の皆さんは、当然知っていらっしゃたと思うのだが、では次のことはどうお考えだろうか?
「1世紀」が「1年から100年まで」なのだから、「紀元前1世紀」といったら「紀元前1年から紀元前100年まで」ということになる。
基本的に、数は「1」の前は「0」で、その前が「−1」である。そうなると「0年」という年は、何世紀に属することになるのだろうか?
それを図示したのが、下の図である。

このように考えると「紀元0年(西暦0年)」だけは、どの世紀にも属しない不思議な年だということになる。
このことに気がついた私は、「恐怖の大王」よりも「西暦0年の謎」が気にかかって、夜も眠れなくなった(^^;)
まあ、気にして眠れなくなるよりも、調べてみればいいわけだから、さっそく調べてみた。
そしてわかった「驚愕の事実!」(^^;)
なんと西暦には「0年」がないのだった。
「西暦1年」の前の年は「紀元前1年」だったのである。
ご存じの通り、西暦の紀元(1年)は「イエス・キリスト生誕の年」が根拠になっていると言われている。その後の研究では、これには少しずれがあって、実際のキリストの生年は紀元前4年頃(紀元前3年〜紀元前7年の諸説があるようだが)といわれているが、まあ、ここではキリストの生年が紀元1年ということにしてもいいだろう。
この「キリスト紀元」を提唱したのが神学者ディオニシウス・エクシグスで、525年に「復活祭の書」に著し、9世紀頃にはヨーロッパ全体で広く使われるようになったという。(それまでは「○○王の治世○年」という表現のしかたをしていたそうだ。日本の元号もこれに近いやり方だろう)
6世紀に始まった考え方なのだから、それ以前の時代の人たちは「今は紀元1年だな」とか「今年は紀元前240年だ」などと自覚していたわけではない(^^;)
この「紀元前」という考え方は18世紀の終わり頃から行われたのだそうだが、「キリストが生まれた年」を「1」としたために、西暦はキリストの「満年齢」を表すのではなく「数え年」を表現することになる。(実際には数年のずれがあるのは前述の通りだが)
満年齢ならば、起点となる「生まれた年」を「0」にするわけだが(生まれて1年後が「1」になる)、数え年だと、生まれたその瞬間が「1」になってしまうので、「0」という概念はなくなる。
それで、西暦1年の前の年は、すぐに「紀元前1年」になってしまうのである。したがって「西暦0年」という年は存在しないことになる。
これで困ることが1つある。それは年数の計算にずれが出てくることだ。具体的には、「紀元前123年から西暦200年までは何年あるでしょう?」という計算の場合、紀元前を負の数と考えれば
200−(−123)=323
となるはずなのだが、実際には322年しかないのである。
そこで天文学の世界では、J・カッシーニ(1740年生まれ)の提唱により、紀元前(B.C)という言葉を使わずに、マイナス(−)符号を使って表現するようにしたのだそうだ。その際に数学的につじつまがあうように、「0」の概念を導入し、「紀元前1年」を「0年」と呼ぶようにしたということである。
したがって、「紀元前3年」は、天文学の世界では「−2年」ということである。
それを図示したのが、下の図である。

紀元前の世界に住んでいた人たちは「そんなこと、俺の知ったこっちゃないよ」と言うだろうが、現代に住む私たちは知っておいたほうがよいだろう。
これで私も安心して眠れるわけだ(^^;)
「20世紀末」が来年の2000年だということは、皆さんご存じの常識だったと思うが、「西暦0年は存在しない」ということはご存じなかった方も多いのではないだろうか。
えっ!「そんなことは昔から知っていた」って。こりゃまた失礼いたしました(^^;)
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