「感性時代のオピニオン・プラザ」と称する月刊雑誌の試供版が送られてきた。
書店では販売していない雑誌で、各界・各層のリーダーを対象としたものである。私もこの雑誌は病院の待合室などで何度か目にしたことがある。
こうやって見本が送られてきた場合は、しばらくたつと「お送りしたものを見ていただけたでしょうか。よろしければご購読をお願いしたいのですが」という電話がかかってくるのが一般的なパターンである。
定価を見ると、「年間16冊、22,560円」‥‥ けっこう高い。「これは、何か口実を見つけて断らないと‥‥」と思い、断る理由を探すために内容を読んでみた。
巻頭言を読むと、かなり偏向的な感じもする。「こりゃいいぞ。『どうも肌に合わないのでお断りします』と言えるかもしれないな」などと思いながら、さらにページをめくると、巻頭言とは正反対な立場で書いている文章もある。どうも雑誌全体として偏った立場では編集されていないらしい。どちらかというとそれぞれの執筆者が自由な立場で文章を書いている。しかも、それぞれの文章がかなり面白い。「うーん、こりゃまずいぞ‥‥」と思ってきた。
中でも興味深かったのが、「実践『感性・心の教育』」という記事。対談形式で進めているらしいが、今回のゲストは沖縄から次々とアイドルスターを送り出しているアクターズスクールの校長だった。
かなり起伏に富んだ経歴を持った人らしい。学校教育についても特異な考え方を持っているように感じたが、その対談の中で考えさせられることを言っている。
雑誌の書名やこの人物の名前を(私は)あまり明確にしない書き方をしているのに「引用」というのも変なのだが、以下、興味深い言葉を引用してみる。
(以下、引用。文中の「M」氏はアクターズスクール校長、「T」氏は聞き手)
- M
- ここは自分でやる学校ですから、たまたま成長過程によって、成長が小さい子は、スターになれないかもしれない。それなら、バックダンサーで活躍するのか、演出家を目指すのかという形の中で自分で判断していくわけです。
T
- それは自分で判断するわけですか。
M
- もちろん。結局、本番に向かって、何ヶ月か全員が戦って戦って、戦い抜いていく中で、この人が中心になるべきだということが、みんなわかっちゃうんです。だれが選ぶ彼が選ぶということじゃなくて、この人を先頭に立てなければわれわれは勝てないということに、みんな納得しちゃうんです。要するに、プロ野球の試合と同じように、4番バッターは4番、主戦投手は主戦投手という感覚が、もう子供たち150人のチームの中にちゃんとあるんです。
- 面白いもので、人間というのは、徹底的に感性を伸ばしていくと、自分の立つ位置、相手の偉大さ、自分の才能もちゃんとわかってしまうものなんです。
( 中 略 )
- M
- ここには世界のどこにもいないくらい才能を持った子が100人もいるんです。そういう中に放り込むと、人間は自分の才能というものを思い知るので、素直に降参ともいえるし、別のことに挑戦もできるわけです。例えば、ほんとに動物のごとき感性を持っているアメリカのチャンピオンのボクサーと練習したときに、おれでも勝てると思うのか、おれはこいつにはかなわないからトレーナーになろうと思わされるのか。それと同じで、ここの子たちは、自分の才能の程度を知るという宿命を背負うんです。背負うんだけど、オンリーワンという場所をみつければ、それを掘り下げていくことによって、世界にだれもいない場所へ行けるはずなんです。
- T
- ナンバーワンになれなくても、オンリーワンになることが重要なんですね。
(以上、引用)
一人一人の子供の「よさ」を見つけ、その可能性を最大限に伸ばしてやるというのが、私たちの行っている教育の理想である。
そのために教師は様々な手だてを工夫して指導に取り組んでいる。もちろんそれは今後も一層の努力をしていかなければならないのだが、うっかりすると、上記のM氏のような考え方を避けてしまいがちである。
「子供が現実に直面し、自分の能力の限界を知り、絶望的な気持ちになる」ということがないように、暖かく守ってやるというのが基本になっている。たしかに子供の意欲を失わせないためには大事なことなのだが、それだけになってしまうと現実の壁に突き当たったときにぺしゃんこになる子供を育ててしまうおそれもあるのではないだろうか。
全ての子供に、自分の限界を知らせるという試練を与える必要はないと思うが、大きく伸びる可能性のある子供には、自分以上の力を持つ人間と揉み合わせるような体験をさせることも必要なのではないかと考えさせられた。そういった体験によって、本当に自分が生きる方向は何なのかとか、伸びるためには何を努力すればよいのかとかいうことを自分でわかることのできる人間が育つのだろう。
その場合、自分以外の人間の大きさを理解できるための感性と、試練にめげずに前向きに生きていこうとする心のパワーが大事になるだろう。
そういう意味で、これからの教育が目指す「心の教育」と「生きる力」というものが大切だということになる。
この雑誌を読んでみて、各界のトップにある人たちの話す言葉の重みを痛感した。それを「かがみ」にして、自分を見ると、実に自分が小さいこと・無知なことがわかる。
教育指導の理論書や技術書を読んでいただけでは、そのことがわからない。世界や日本の動き、政治や経済のことなどにうとい私は、やはり、この雑誌のようなものを読んで、自分をみがいていかないといけないなぁ‥‥などと感じてしまった。
数日後、思ったとおり、「ご購読をお願いできないでしょうか?」という電話がきた。断る理由もなく、「はい、こちらこそ、お願いします」と答えてしまった私であった(^^;)