にじぐち


 大相撲のラジオ中継を聞いていると、「漢字でどう書くのだろう」と思うような言葉が出てくる。

 私の場合、特にわからなかったのが「にじぐち」という言葉だった。

 「武蔵丸、東のにじぐちからゆっくりと土俵に上がります」などという使い方をする。

 土俵に上がるための階段のようになっているところを指すとだろうとは思ったのだが、どんな意味で、どんな文字で書くのかがわからなかった。

 「躙(にじ)りよる」という「躙」の「躙口」だろうか。それとも「虹」の「虹口」だろうか‥‥‥

 辞書で調べてみればわかるのだろうが、その言葉が気になるのは、いつも車を運転しているときなので、すぐに辞書をひくわけにもいかない。辞書がそばにあるときは、そのことを忘れてしまう。といった具合で、長いことわからないままでいた。

 最近になって、辞書をひいているときに、ふとそのことを思い出し、調べてみた。すると‥‥

 なんと「二字口」と書くのであった!

 広辞苑では次のようであった。

にじぐち(二字口)
 相撲の土俵の東西の力士の上がり口。徳俵と平行して俵が埋めてあり「二」の字の形になっているのでいう。


 なるほど、「初雪や 二の字 二の字の 下駄の跡」と同じように、漢字の「二」の字の形からきている言葉だったのだ。

 ついでに土俵についてのあれこれを調べてみたので書いてみる。



土俵についてのうんちく

 まずは、土俵の図をご覧いただきたい。




「マイクロソフト・エンサイクロペディア・エンカルタ」では次のように書かれている。

 土俵の広さは江戸時代から直径13尺(3.94m)で、その外側にも土俵のある二重土俵の時代がつづいた。1931年(昭和6)4月の天覧相撲を機に、「より攻防のはげしい相撲を」の趣旨から、二重土俵の内側の俵をなくして、直径15尺(4.55m)の一重土俵にあらため、今日にいたっている。第2次世界大戦直後の45年11月場所には進駐軍に、よりおもしろい相撲をみせようと直径を1尺ひろげたが、力士会の反対により、1場所で元の15尺にもどした。
 土俵は土でもった正方形の平面に、20個の小さい俵をまるくしきつめて土にうめ、4分(5cm)を地上にだす。東西南北の真ん中の1俵、計4俵は外側にずらしてあり、それを徳俵という。土俵にたまった雨水をはきだすためにもうけられたが、今はその名残としてとどめられている。
 土俵の上には屋根をもうけ、以前は青・赤・白・黒の4本柱でささえていたが、1952年(昭和27)9月から観客の便をはかってとりはらい、つり屋根になって柱は房にかわった。土俵の中央には、70cm間隔で2本の白い仕切線がひかれている。


 すでに、いろいろなことをご存じだった方も多いと思うが、私には初耳のことも多かった。

 まずは仕切線。間が70cmしかないとは驚きだった。相手の力士とほとんど顔がぶつかる位の間隔だ。これで曙や貴乃花ににらまれたら怖いことだろう(^^;)

 徳俵も土俵にたまった水(雨水)の排水用だったとは知らなかった。私は「そこだけ少し外に広くなっているので、押し出されそうなときに、そこに足をかけると得をするので『得俵』という」のだとずっと思っていた。

 土俵の四隅の房も柱の代役だったわけだ。

 平凡社の「世界大百科事典」には次のように書かれている。

 土俵場の上には神明造の屋根がある。この屋根は江戸時代の中期ころから<四本柱>、すなわち外縁角土俵の四すみに立てられた柱によってささえられていた。柱には、それぞれ黒(北西)、青(北東)、赤(南東)、白(南西)の色布を巻いて四季をあらわしていたが、1952年(昭和27)秋場所からは<つり屋根>となり、柱に巻いた色布のかわりに4本の色ふさ(房)をたらすようになった。

 これによれば、戦前などには「青房下」などという言葉はなかったことになる。今度テレビドラマを見るときには気をつけてみることにしよう。時代劇で相撲の話題などが出るときに「赤房より」なんていうセリフがあったら時代考証の間違いということになる(^^;)

 四季を色で表すというのは他でも聞いたことがある。たしか、春は青(青春)、夏は赤で(朱ということもある)、秋は白(北原白秋はこれ)のはずだから、冬は黒ということになる。私のような北国の人間には冬は白のイメージなのだが‥‥‥



文字で形を表す

 「二字口」の場合は、「二の字のような形」ということからきているわけだが、文字の形に例えて物の形状を表すということは他にも行われている。

 「十字路」「十字架」「T字路」「Y字路」などがそうだ。漢字には単純な形のものが少ないので、アルファベットに例えているものが多い。「S字カーブ」などもそうである。

 そういえば、相撲のまわしは「Tバック」かな(^^;)


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