草むらを歩いていたら、ヘビが足もとを横切った夢を見て、驚いて目覚めてしまった。
(夢の分析をすると、どういうことになるのかは分からないが‥‥‥)
目覚めてもまだ胸がドキドキしている。
私はそのぐらいヘビが苦手である。「嫌い」と言ってもいいだろう。
でも、どうしてこんなに嫌いなのだろうか?
実は、私はイヌも苦手である。これは小学生の頃、友達の家に遊びに行って、そこのスピッツに追いかけられた経験が原因になっていることを自分でも認識している。
同じく小学生の頃、ウシにも追いかけられたことがあり、それ以来、ウシも怖い。
ところが私はヘビに追いかけられた経験はないし、もちろん噛まれた経験もない。それなのにヘビを見ると、イヌやウシとは較べものにならないほどの嫌悪感を抱くのはなぜだろう?
心理学や生物学の資料を少し調べてみたら、次のようなことが分かった。
動物の行動を決定づけるものには、次の3つがあるという。
- 1つ目は、「学習」である。
- 生まれた時点では身につけていない行動を、「条件づけ」等により習得していくというもので、人間の行動の大半はこれにあたる。
- 私がイヌやウシを苦手になったのもこの「学習」によるものであろう。
- コンピュータに例えれば、複雑なアプリケーション・プログラムを、CDやハードディスクから読み込み、RAM上に展開して作業をするようなものだ。
- 生きていくために必要な行動の数が多く、しかも内容が複雑な場合には、この「学習」という方法が最適なのだろう。ただ、この場合は、「学習」を「指導」する存在や方法が必要になってくる。
- 2つ目は、「刷り込み」である。
- 生まれたばかりのカモが、最初に目にした動くものについて行き、それを親として認識するなどの例が有名である。
- 生まれて一定時間のうちに(一般的には生後36時間以内が多いのだそうだ)特定の「学習」をするような行動が、最初から遺伝子に組み込まれているということなのだろう。
- これもコンピュータに例えてみると、MS−DOSの場合の「config.sys」ファイルと「autoexec.bat」ファイルの読み込みのようなものだろう。(この2つのファイルは、コンピュータ起動後に自動的に読み込まれるようになっている。Windows95以降は表面には見えないが、やはり同じような処理が行われている)
- 生後すぐの行動のために必要なのだが、遺伝子に組み込んでおくことができない場合、この「刷り込み」が行われる。人間の場合はほとんどないように思われる。
- 3つ目は、「本能」である。
- 行動のしかたそのものが遺伝子に組み込まれていると考えられるものをいう。
- クモが構造的に見ても力学的に見ても高度で複雑な「クモの巣」を作り上げることができるのは、これによるものだろう。クモが親から巣の作り方を教えられたり、他のクモが巣を作る様子を見て学習したり、自分で試行錯誤の末に最良の方法を体得するとは考えられない。
- やはり、「クモは生まれつきクモの巣作りができるようになっている」と考えるのが自然だろう。このような行動は昆虫などには多く見られるし、人間の場合も生まれてすぐに哺乳するという行動は「本能」であろう。
- コンピュータに例えると、起動後すぐに行うべき処理が焼き込まれているRAMにあたるだろう。
私がヘビに嫌悪感を持つのは、どうも、この3つ目の「本能」にあたるような気がする。本能なのだから、ほとんどの人間に共通するはずなので、人間なら誰でもヘビが嫌いということになるのだろう。
旧約聖書の創世記を見ても、アダムとイブが禁断の果実を食べることになるのはヘビの策謀ということになっているので、ヘビに対する嫌悪感は人類共通であるという見方は、そんなに間違っているわけでもないだろう。
「ヘビが好きで、ペットとして首に巻きつけたりしている人もいるじゃないか」という反論もありそうだが、あれは「学習」によって、ヘビに対する嫌悪感を打ち消しているのではないだろうか。
人間とヘビの間に、過去においてどんないきさつがあったのかはわからないが、おそらく遠い昔にヘビに災いを受けた人間が多くいて、それがなんらかの変異によって遺伝子に組み込まれ、本能的にヘビに対する嫌悪感を持った人間のほうが多く子孫を残したために、人類の多くがヘビを嫌うようになったのだろう。
そこまで考えて、ふと思った。
じゃあ、ヘビも本能的に人間が嫌いなんだろうか?
ヘビの遺伝子にも人間への嫌悪感が組み込まれているのだろうか?
なんだか、そうではないような気がする。もしかしたらヘビは人間と友達になりたいと思っているのかもしれない。(まあ、そんなことはないと思うが)
それを、人間が「ヘビだけは本能的に好きになれない」といって、排除したり殲滅しようとしたりするのだとすれば、これは差別である。ヒトラーがユダヤ人だけを迫害したのと変わりがない。
しかし、「差別はよくない」といっても、ヘビを見るたびに感じるぞっとするような嫌悪感を消すことはできない。
うーん、これは難しい問題である。そして、人間どうしの中にも、これに似たようなことがあるのも否定できない。