相づち(相槌)というのは、もともとは鍛冶屋(かじや)の作業の様子からできた言葉なのだそうだが、一般的には、話を聞くときに「うん、うん」とか「ほう」とかいうぐあいに、聞き手が話し手の話の合間に入れる言葉をさす。
この相づちを上手にやるのは、なかなか難しい。うまくやれば相手は気持ちよく話すことができて、いろいろな話を聞き出すことができるが、へたな相づちを打つと、話すほうが不愉快になってきて、しまいには話す気がなくなってしまう。
上手な相づちの打ち方の手本は少ない。「徹子の部屋」などのインタビュー番組を見ると少しの参考例はあるが‥‥‥
反対に不愉快な相づちの例は枚挙にいとまがない。
以下、列挙する。
- 1.うそー!
- 「この間ね、○○君に会ってね」
- 「うそー!」
- 「いや、ホントなんだけど‥‥。それで彼が言うには1月程前に引っ越しをしたんだって」
- 「うそー!」
- 「だから、ホントだって!」
- 2.ほんとー?
- 「今度、結婚しようと思うんだ」
- 「ほんとー?」
- 「ホントだよ! で、相手は○○子さんでね」
- 「ほんとー?」
- 「だからホントだってば! 彼女の両親も賛成してくれてさ」
- 「ほんとー?」
- 「‥‥‥‥」
- 3.へえー!
- 「この間の学会で○○教授が発表したんだよ」
- 「へえー!」
- 「○○の研究についてなんだけど」
- 「へえー!」
- 「かなり好評だったようだよ」
- 「ひえぇー!」
- 「‥‥‥‥」
- 4.はいはい
- 「お忙しいでしょうけど、ちょっと相談に乗ってくれますか」
- 「はいはい」
- 「実は、私の両親がこの頃、仲が悪いんです」
- 「はいはい」
- 「離婚しようなんて話もしているようなんです」
- 「はいはい」
- 5.無視
- 「○○先生、実は私、悩んでいることがあるんです」
- (横を向いたまま、ワープロの文書をカチャカチャと打ち続ける)
- 「学級の子供たちが私の話を聞かなくなったんです」
- (カチャカチャ)
- 「何を言っても無視されるし‥‥」
- (カチャカチャ)
- 6.極端な首振り
- 「現代の子供に欠けているのは耐える心です」
- (首を激しく上下に振る)
- 「親の過保護、教育の過保護が生み出した現象です」
- (首を激しく上下に振る)
- 「まさに病める日本の象徴と言えます」
- (首を激しく上下に振る)
1の「うそー!」、2の「ほんとー!」、3の「へえー!」などは、相手の話を疑ってかかるというような態度だから、話し手を馬鹿にしていることになる。
4の「はいはい」は、口先の調子はいいが、真面目に話を聞いているという感じがしない。
5の無視というのは問題外だが、子供が話しかけてきたときに、こういう態度をとる教師がかなり多いように思える。
6の激しい首振り(頷きともいう)は、講演会のときにオバサンたちがやっているのをよく見かける。いかにも「私は講師の先生と全く同じ意見でございます!」というのを他の人に向かって強調しているようで押しつけがましい。講演が終わる頃には首を痛めているのではないかと心配になるが、こういう人に限って、首を横に振ったり、首を傾げたりすることは全くない。(要は自分の考えなどないのである)
こう書いてくると、これがベストといえるような相づちの打ち方は、なかなか見つからない。ただ言えるのは、同じパターンを繰り返すとよくないということのようなので、様々なパターンを順番にやったいいのかもしれない(^^;)
- 正しい相づちの打ち方
- 「昨日、祖父が亡くなりまして‥‥」
- 「うそー!」
- 「実は嘘なんです。今日、遅刻をしたのは寝坊をしたためなんです」
- 「ほんとー!」
- 「ええ、昨日の深夜のテレビ映画で山口百恵主演の『潮騒』をやったんですよ」
- 「へえー!」
- 「相手役が三浦友和だっていうことはご存じでしょう?」
- 「はいはい」
- 「私は若い頃に三浦友和に似ているって言われましてね」
- (無視‥‥)
- 「それが今ではこのありさま‥‥。いやー私もトシをとったものです」
- (激しい首振り)
いかがだろうか。これなら実にスムーズで、話し手も話しやすい(^^;)
注 危険なのでけしてまねをしないでください!
要は、
「話の内容に応じた相づちを打つ」
「同じ言葉を繰り返さないという正しい日本語感覚を持つ」
「相手の話を本気で聞く」
ということだろうと、私は考える。
- 付 記
- この文章を「うんちく講座」に掲載したら、次のような感想のメールをいただいた。
- ときに、「あー、つまんねー話だ」と思いながら直接言えないときにそのような正しくない相づちをうつときがありますね。変な相づちをされたときは、自分の話を反省する必要もあるでしょう。
- なるほど、そのような見方もある。相手からおかしな相づちが出るようになったら、自分の話し方を振り返ってみることにしよう。