諺スワップで話す力アップ
「単なる意見の発表しあいでなく、互いの意見が絡み合って高まる話し合いができる子供たちにしたい」と、ほとんどの教師は願う。
だが、それがなかなかできないのは、子供の能力のせいなどではない。指導がまずいからである。
話し合いができる力はひとつの技能である。訓練をしなければ育たない。今はやりの「支援」だけでは力は身につかない。
話し合いの話型を、「手引き」と称するプリントや、掲示物で子供に示す教師も多い。何もしないよりはましである。しかし、何もしないのと同じくらい効果がない。「私は○○さんの意見を聞いて、○○と思いました。それは○○だからです。」などという話型を与えても、実際に話す中身がなくて話型の練習だけだとしたら、空しい活動である。本当の力は身につかない。
話し合いなのだから、話したいことがなければしょうがない。話したくてウズウズするような内容を与えて、さらに話し合いの力を育てるような活動を仕組むのがプロの教師である。
- ここで「自分のこと」や「自分たちのこと(学級のこと)」などを話させれば現実的で良いのではないかと考える人もいるようだが、それは最悪である。自分に関わることを真面目に話すことは辛い。道徳の時間でさえも自分の体験等を直接話させずに、「資料」という物語の登場人物に託して心情を語らせるのはそのためである。「朝までナントカテレビ」などという番組で「日本の矛盾を切る!」等の話し合いが盛り上がるのは、自分に関係のない話題だからである。「自分の言動の矛盾を語る」などという話題にしたら盛り上がる訳がない。
では、どんな活動をしたら効果があるのか?
基本的には自分の担当する子供たちの実態に応じて、教師が自力で工夫したことを、何度も実践するしかないのだが、「こんなやり方もあるのではないか」というものを1つあげる。私はこれを「諺スワップ」と名付けた。以下に述べるのがそれである。
教師
- 「馬の耳に念仏」「ぬかに釘」「のれんに腕押し」「豚に真珠」。それぞれ少しずつ意味は違いますが、どれも「役に立たないこと」「むだなこと」などを例えることわざです。
- これらを入れ替えてみると面白い表現になりますね。
- 「馬の耳に釘」 :とても痛そうですね。
- 「ぬかに腕押し」:なんだか漬け物でもつくるようです。
- 「のれんに真珠」:スパンコールがついたのれんから美川憲一が出てきそうですね。
- 「豚に念仏」 :怪しげな雰囲気です。
- このように、もとからあることわざで、似たようなかたちのものを2つ以上探して、それらの言葉を入れ替えて、面白いイメージが浮かぶことわざを作ってみましょう。
- そしてグループで発表しあいましょう。なお、発表の時には、次のようなかたちで勧めましょう。
グループの児童A
- 私たちのグループでは似たことわざとして「花より団子」と「論より証拠」をあげました。それぞれ「〜」のような意味です。まん中に「より」という言葉があるのが共通しています。
グループの児童B
- これを入れ替えて、次のようなことわざにしてみました。
- 「花より証拠」、「論より団子」
- これを聞いて、それぞれどんなイメージが思い浮かびますか?手を上げて発表してください。
一般の児童a
- 私は「花より証拠」という表現から、「○○が○○して、○○なような様子を思い浮かべました。
- ※「論より団子」についても同じ
- (数人に発表させてもよい)
グループの児童C
- (自分たちが準備した内容と同じだった場合)
- そうですね。私たちも○○さんと同じような様子を考えました。
- (自分たちが準備した内容と違っていた場合)
- ○○さんが考えた様子はとても面白いですね。
- (どちらの場合も、それに続けて)
- 私たちが考えた様子を絵に(ミニドラマに)してみましたので、ご覧ください。
入れ替えてできたことわざの様子を絵やミニドラマで表現する。
グループの児童D
- 私たちの発表を見て、気づいたこと・感じたこと・聞きたいと思ったことなどはありませんか。
- (必要に応じて、返答する)
(これをグループごとに交代して進める)
「ことわざを調べたり、自分で作ってみたりする」というのは6年生の国語科の指導事項である。
それだけでもけっこう面白い内容なのだが、上の例のようにすると、児童はことわざを調べるという活動を、楽しみながら自発的に行うようになるし、似たような形式や内容のことわざを積極的に探そうとする。また、それを入れ替えるという作業の中で言葉のイメージを具体的にえがくという感覚が育つ。(少々おふざけ感覚ではあるが)
さらに、アドリブ的に頭を使いながら話す必要もあるので、単に形式にあてはめて話すのではないため、他者の話したことを受けて自分の意見を話すという話し合いの力が育つと考える。
学習活動は別として、ことわざを入れ替えると、けっこう面白い表現ができる。以下、列挙する。
犬も歩けば棒にあたる + 急がば回れ → 犬も歩けば回れ ・ 急がば棒にあたる
弘法にも筆の誤り + 一寸の虫にも五分の魂 → 弘法にも五分の魂 ・ 一寸の虫にも筆の誤り
死んで花見が咲くものか + 飛んで灯にいる夏の虫 → 死んで灯にいる夏の虫・ 飛んで花見が咲くものか
老いては子に従え + 急いては事をし損じる → 老いては事をし損じる・ 急いては子に従え
眉にツバをつける + 顔にドロを塗る → 眉にドロを塗る ・ 顔にツバをつける
どんぐりの背比べ + 河童の川流れ → どんぐりの川流れ ・ 河童の背比べ
掃きだめにツル + 鬼に金棒 → 掃きだめに金棒 ・ 鬼にツル
嘘から出たまこと + 身から出たサビ → 嘘から出たサビ ・ 身から出たまこと
石の上にも三年 + 馬子にも衣装 → 石の上にも衣装 ・ 馬子にも三年
出る杭は打たれる + 馬鹿とハサミは使いよう→ 出る杭は使いよう ・ 馬鹿とハサミは打たれる
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