ナンデラカンデラ館
私は学校の教師なので、数年ごとに転勤をする。新しい町に行くと、たいていの町では新しく転入して来た教員に町の施設や地理を理解してもらうために、年度始めから夏休みあたりまでの間に「町内めぐり」という企画をしてくれる。転入教員をバスに乗せて、町内を見せてまわるのである。
ある町に転入したときであった。やはり「町内めぐり」があったのだが、この時にバスに乗って説明をしてくれたのが公民館の職員の方であった。(だいたい、こういう時は公民館の職員か教育委員会の職員が案内することになっているようだ)
この方は、公民館の中ではけっこう上の役職の方であったが、どちらかというと口べたな方で、話し方もモサモサしていた。
ちょうど町の高原の方に回っていったとき、この方がマイクを持って説明をした。
「右の前の方に見えて来たのが、最近作られた・・・・えーと・・・・」その後がなかなか出てこない。
数秒の沈黙の後、彼は言った。「『ナンデラカンデラ』という建物です。」
「ナンデラカンデラ」というのは、この地方では正しい言い方が分からないときにいい加減に言う時の言い方である。標準語だと「なんとかかんとか」というのであろう。
実は、私は、前からこの方のことを知っていたので、「うーん、○○さんらしいな!」と心の中で苦笑したのだが、もしかしたら彼の説明を聞いた教員の中には、あの建物が本当に「ナンデラカンデラ」という建物だと思った人が何人かいたかもしれない。そして、家に帰ってから、「○○町の高原には『ナンデラカンデラ』というきれいな建物があったよ。今度の休みに子供を連れて『ナンデラカンデラ』に行ってみようか」などと話したのかもしれない。
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